「腹が据(す)わる」という言葉があります。一般的な意味は「物事に動じない。度胸がある」です。据わるは、「坐る・座る」と同義で「ぐらぐらしないで安定する」様子を表しています。
最近、この言葉がとてもよくいい表している言葉に思える。お腹の余計な緊張に気づいて、それを入れないように心がけていると、刺激に過剰に反応していない自分に気づくんです。そして体も楽で、力を発揮できている。だから、過剰な緊張に至らない。
先週の火曜日は二人の方の体験レッスンを行いました。二人ともお腹に緊張が入っていて、一人は仙骨あたりに慢性的に痛みを感じられていて、一人は身体が全体的に固いと感じられている方々でした。
レッスンで、呼吸を促し、そしてその際にお腹が動けることを伝えました。そうすると、二人とも、「いつもと違う」と。軽く感じたり、過剰な固さがないように感じているようでした。
私たちが何かをしようとすると、どうしてもお腹に過剰な筋緊張が入りやすいようです。それがないと、その行為自体ができないような感覚だったり、しっかりと支えられてないような感覚になってしまうのかもしれません。
しかし、往々にしてそれは役に立っていない行為なんです。不必要な緊張なんです。
その緊張を入れたところで、パフォーマンスがよくなるわけではなく、逆にそのパフォーマンスを制約してしまう。本来は自由に動きたいのに、自由とは全く逆の「緊張」を入れてしまっているのですから。
しかも、体の中心部に。体は筋(筋膜)を通じて連動しています。だから、腕や脚、首といったところにまでその影響がいってしまう。
お腹には過剰な緊張を入れなくていいんです。入れなくていいどころか、入れない方がいいんです。その方が本来の力を発揮しやすい。誤解のないようにいっておくと、あくまでも余計な緊張です。行為を行うときは、それなりに腹筋が使われますが、それを最低限に抑えておきたいという意味です。
そして、そのようにしていると、お腹が物事に動じなくなってくる。つまり、「据わってくる」んです。足の裏の上にどっしりと載り、頭からぶら下がっているかのような状態です。お腹は呼吸と共に動いています。どんな刺激があろうと、この状態を維持している、または即座にお腹が固まっても、すぐに気づいてこの状態に戻れる。
「腹が据わる」、昔の人はうまく言ったものだなあと感心させられます。ただ、具体的な「腹の据わり方」というのがわからない。東洋的なこうした概念というのは、絶妙に言い表している一方で、こうすればよいという具体的な部分がない時が多い。お腹は、「肚」とも書くように、気、武道などでも重要視される部分です。武道の達人であれば、長年の修行と経験の末にこの感覚を得ていったのでしょう。ただ、どうやってそれを実現できるのかは、感覚であって説明できない、またはわかっていても説明することは何か安直なもののようになることを恐れていたのかもしれません。
この具体的な「腹の据わり方」を、私は日々伝えています。「腹が据わるなんて、ことわざであって、具体的な体の感覚ではない」「経験から得られる抽象的な感覚なのだ」と思われる方もいるかもしれません。私は違うと思います。ただ、難しさはある。というか、コツがある。単に「腹を据わらせてください」と言ったって、それはできませんし、「お腹の過剰な緊張を抜いてください」と言ったって、多くの人はその過剰な緊張を自分で入れているのかどうかすらも気づいていないのだから、わかるわけがない。
難しさはあるものの、それを得られるコツがあるんです。それこそが、前側意識アプローチであり、アオキアレクサンダーレッスンで学ぶことなんです。具体的に体への指示として必要なことも、ウェブ上(http://www.alexlesson.com/wp/?page_id=693)に示してありますが、これはなんとも体験を伝えないと極めてわかりづらいと思えます。「読んだだけじゃなんだかわからん」という方もいるでしょう。一度レッスンにきてもらえれば「お腹の過剰な緊張とは、このことか!」と、「腹に落ちる」でしょう。
正直なところでいえば、このお腹の緊張については、1年ほど前はあまり私自身も徹底して気づいていはいませんでした。どちらかというと、首の後ろの緊張にフォーカスをあてていたんです。それがアレクサンダー・テクニークの鉄則で、私自身指導を受けてきたからです。
でも今はお腹の緊張にもフォーカスをあてています。そうすると、この方が首の緊張も入らないようになるし、身体全体がより固まらず、楽でいられるんです。もちろん、お腹の緊張に気がつくだけでなく、頭を支えることも同時にしていますが、お腹の緊張に気がつくことをしていると、もっとフリーになれる感じがあるんです。そもそも首の緊張をそこまで気にする必要がなくなってきました。
私の日々の指導のベースは、アレクサンダー・テクニークです。ただ、私が伝えたいのは、アレクサンダー・テクニークではなく、「楽で効果的な体の使い方」です。それはアレクサンダー・テクニークだけが伝えているわけではありません。武道や、他のボディワーク、そして古くからある東洋思想・哲学にもあるはずです。ただ、アレクサンダー・テクニークは具体的な実現方法という意味では、とてもいい線を言っていると感じています。それにこの「腹が据わる」感覚を加えていくことで、「楽で効果的な体」でいられやすくなるでしょう。
私は、アレクサンダー・テクニークの最先端というよりは、楽で効果的な体の使い方の最先端を目指しています。ちなみに「腹を据えて」学ぶのも3ヶ月くらいです。人によっても確かに異なりますが、それくらい効果的にお伝えできると思っています。
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