というのも、アレクサンダー・テクニークでは「思考(thinking)」をとても重要視するからだ。身体のワークではあるけれど、身体と心(思考)は一体という原理にこのワークは基づいている。ある意味では「思考」のワークといってもおかしくない。私自身、この思考による動きの変化やパフォーマンスの違いを強く実感しているし、レッスンをすればするほど「やはりシンキング(thinking)なんだ」と強く思う。
これから、DNAではなく環境が我々の細胞をコントロールしているという本書の内容を紹介したい。一般的に、DNAの中に全ての情報があり、それが読み取られることで、一つ一つの細胞が機能し、ひいては我々の特徴や生命活動が表れると思われている。しかし、エピジェネティクスという「遺伝子を超えたコントロール」という分野での研究でわかったことは、染色体の半分はDNAだが、残り半分はタンパク質で満たされており、そのタンパク質がDNAの読み取りを調整していること。タンパク質はDNAをカバーしていて、そのカバーが外されない限り、DNAの情報を読み取れない。その”カバー”タンパク質は環境からある信号がやってくれば、そのカバーが外され、初めて読み取れる。つまり、外部環境からの信号がなければDNAは読み取れないため、環境が細胞の諸機能や反応を制御しているというのです。
そして、そのカバーをしている調整タンパク質の特性は、世代から世代への受け継がれることもわかっている。世代間で受け継ぐのは単に「遺伝子」だけでなく、その「育ち」の部分で得ていったものも、受け継いでいくことができるということもわかってきたようだ。このようにして、環境が細胞に世代を通じて影響を与えている。
環境と「思い・考え」との関わりについては、次のように説明している。細胞の環境というのは、体内でその細胞を取り巻く環境の状態のこと。そして、細胞は様々な体内のシグナルを受けて反応をする。ホルモンや免疫のサイトカインなどの物質がこのシグナルにあたる。このシグナル(化学物質)こそが環境変化で、これによってどのような反応をすべきかが変わってくる。通常のシグナルは身体の本能的な反応や生命にとっての基本的な反応で発生されるが、このシグナルを脳を使って意識的に生成することができるのだそうだ。その説明を引用で示します。
「自らを意識することにより、心は脳を使って『感情をつくる化学物質』を生成し、環境シグナルを出発点とする反応系より優先的に情報を伝えることもできる。つまり、意識を正しく用いれば、病気の身体を健康にすることもできるし、逆に、潜在意識が情動を適切にコントロールできなければ、健康な身体であっても病気になってしまう」
前頭前野と呼ばれる脳の前頭葉の一部であるこの領域が「自己意識」の座であり、ここは内省的である。ここで「ほとんどの環境シグナルに対して、どのように反応するか。あるいはそもそも反応するかどうかまで積極的に"選択"することができる。意識は、潜在意識にあらかじめプログラムされた行動を無効にするほど強力で、それが自由意志の基礎になっている。」このようにして、意識(環境)が身体の細胞を変化させる力を持っていると説明している。
この他に著者は、量子物理学の説明を加え、細胞も物質である以上、その動きや反応は量子物理学でいう「物質は全てエネルギー」という理解をすべきということも伝えている。そして、代替医療で使われる「気」や「エネルギー」といったことを無視すべきではないと。そして、最終的にはこの量子物理学の概念と、環境が細胞機能を制御しているという2つの点をベースにして、肉体とは別の「魂」「霊性」についても言及し、こうしたものが肉体がなくなってもあり得るという可能性についても仮説として説明している。
アレクサンダー・テクニークは前述のように思考を重視するレッスンです。単に身体への指示という部分から、自分に体する否定的なメッセージを自分に与えてしまう習慣まで、アプローチする時もあります。今までは経験的でしか理解してこれなかった「思考の身体への影響」を、この本で生物学的にも仮説が得られることになりました。また「意識は、潜在意識にあらかじめプログラムされた行動を無効にするほど強力で、それが自由意志の基礎になっている」という前述の文章は、私のワークにとって力強いベースになります。
なお、この本を読むことで、量子物理学の概念がアレクサンダーのレッスンとのつながりの可能性を感じることができ、更に勉強すべきテーマを得ることができました。とてもおすすめの一冊です。
アオキアレクサンダーレッスン
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