本日、2024年8月29日は、ディズニー映画『メリー・ポピンズ』のスクリーンデビュー60周年!!

アカデミー賞では5部門受賞、作品賞含む13部門にノミネートし、今もディズニー社の歴史に名を刻む名作。

私個人としても子どもの頃から愛してやまない作品で、ジュリー・アンドリュース演じるメリーは永遠の憧れです。


以前、ウォルトの愛した名曲《2ペンスを鳩に》を演奏しました。


そこで今回は、原作者P.L.トラヴァースの心を動かしたとも言われるこちらの曲を、60周年のお祝いと今年亡くなった作曲者リチャード・シャーマンへの追悼の意を込めて演奏しました。


『メリー・ポピンズ』より

タコをあげよう

Let’s Go Fly a Kite 

(ロバート・シャーマン&リチャード・シャーマン作詞・作曲)

https://www.youtube.com/watch?v=dQWLJGCZyBI



パーク好きには東京ディズニーランドのエントランスやリゾートラインのBGMとしてもお馴染みのこの曲。

映画のフィナーレを飾るナンバーであると同時に、バンクス一家が公園にタコ上げに行くシーンの曲でもありますから、パークで過ごす1日の始まりと終わりを彩るのにこれ以上相応しい曲は無いでしょう。



この映画をめぐる原作者とディズニー側の制作秘話『ウォルト・ディズニーの約束』では、亡父との思い出を胸に「バンクス氏を冷酷な人物にしないでほしい」と訴えたトラヴァース夫人の想いを汲んでこの曲が生まれる場面が描かれています。


「タコあげ」自体は原作だと『帰ってきたメアリー・ポピンズ』でメアリーが帰ってくるシーンが印象的ですが、ここにはバンクス夫妻の姿はありません。

(このシーンは『メリー・ポピンズ・リターンズ』で再現されていますね)

ディズニープラスで公開されている特典映像『音楽の旅 リチャード・シャーマン』によると、シャーマン兄弟の父がタコを作ってくれた思い出も、この曲には反映されているそう。

曲調自体も彼らの父をイメージし、元々は2/2拍子の軽快な曲だったものを、「イギリスらしくない」というウォルトの意見によって3/4拍子のイングリッシュ・ワルツに仕立て直したそうです。

(余談ですが、シャーマン兄弟の父アル・シャーマンはティン・パン・アレーで活躍した音楽家。

シャーマン兄弟がいかにもアメリカな曲を思いついた裏には、父の作品のイメージもあるのかもしれません)

頭拍を強調した弾むような3拍子で、思わずバンクス一家のようにスキップしたくなるリズムです。


この映画でメリーポピンズが使う魔法はあっと驚くようなものばかりですが、そのからくりはとてもシンプル。

「ひとさじのお砂糖で薬を美味しく飲めるように、少しの楽しいことがあれば嫌なことも苦ではなくなる」「たった2ペンスでお腹を空かせた鳩を満たせるように、小さな優しさで他者も自分も幸せにできる」といった、誰もが気持ちひとつで使える魔法こそ、彼女が真に伝えるメッセージです。

バートとの会話でそれに気づいたバンクス氏は次のように歌います。


“With tuppence for paper and strings

You can have own set of wings”

2ペンスで紙と糸を買えば、自分だけの翼を持てる

“With your feet on the ground, you’re a bird in flight 

With your fist holding tight to the string of your ”

地面に足がついていても、飛んでいる鳥になる

タコの糸をしっかりと握り締める拳があれば


また、サビの部分には“Up where the air is clear”(空気の澄んだところまであげよう)という歌詞が登場しますが、“clear the air”という英語表現には「誤解を解く、わだかまりをなくす」という意味もあるそうで、歯車の噛み合わなかった家族がひとつになる様子を意識しているように感じます。


メリーのように本当に飛ぶことはできなくても、家族で仲良くタコをあげるだけで、心は軽く羽ばたくことができる。その幸せに気づいたバンクス家は、もうメリーがいなくても大丈夫。

前述の特典映像でリチャード・シャーマン氏が語っていた「父親の魔法はメリーの魔法より楽しい」という言葉こそこの曲の真髄であり、ウォルトとトラヴァース夫人で導き出したこの映画の最高のゴールなのです。