自費の看護にこだわる理由 | アラジンケアの『どこでだって看護!』

アラジンケアの『どこでだって看護!』

病棟、施設を経験した後、【アラジンケア】というサービスブランドで保険を使わない自費の看護サービスを提供する会社を立ち上げました。自宅、外出先、移動付き添いなど、時間や場所に制約を受けない看護に可能性を感じて日々奮闘しています。

自分が自費の看護にこだわるようになった理由を考えるとき、思い出すエピソードがある。

 

在宅看護を始めて間もない、2002年頃に訪問していた対象者とその家族のご自宅で、在宅看護の魅力を深く感じたときのことを今でも思い出す。

 

高齢者施設の施設長として、立ち上げから運営が軌道に乗るまで頑張っていた時期があった。

施設には病棟にはないやりがいや楽しさがあったが、一方で施設には施設の制約があり、施設看護の限界も感じ始めていた。

 

ちょうどその頃、施設を経営する企業が出資していた医療系人材会社が、自費の在宅看護をサービスとして始めるため、看護管理者を探しているというお話をいただいた。

訪問看護、在宅看護は全く経験がなかったが、「自費だから患者や家族の希望に沿う看護ができる」というコンセプトに惹かれ、挑戦することにした。介護保険制度が始まる2000年のことだ。

 

自費の在宅看護では、病棟や施設では経験することのできなかった対象者やご家族の表情、満足度といったものに出会えた一方で、自費ならではの要望の高さにとまどい、失敗することも多かった。

 

自費の在宅看護が、まだまだ手探りであった頃、自宅でクリニックを開業している奥様と脳梗塞で寝たきりになったご主人をサポートするために、在宅看護が始まった。

奥様が安心して診療に集中できるようにすることも私たち看護師の役割であった。

 

通常は、訪問してから帰るまでは、対象者に対して何らかのケアをしていることが多いのだが、奥様は診療が終わってから、『休憩タイム』というものを設け、そのときはご主人もひとりになる、そして看護師もケアの手を休め休憩するルールであった。

『休憩タイム』にはベッドの位置を少しずらし、ご主人が大好きな小さなお庭をよく見えるようセッティングする。そして、奥様と看護師は少し離れたテーブルでお茶をいただく。

 

ご主人との出会い、ご主人のお仕事、医師になった経緯、独立された息子様たちのことなど、話題はいろいろであった。

ほんの10分か15分の短い時間であったが、ときどき不思議な感覚にとらわれた。

ベッドで横になっているご主人と奥様、そして看護師が、とても自然に調和しているような感覚。

ゆったりと時間が流れ、介護や看護がこの生活空間の中で、ご夫婦の生活に一体化しているような感覚にとらわれた。そこには出しゃばらず控えめで、人間の生活に密着した看護があった。

 

そんな楽しい世間話の中では、ご主人が倒れて寝たきりになってしまった辛い一面についても語られることがあった。

私が看護師として介入するずっと前から、奥様はご主人の介護に一生懸命関わってきたのだ。

人生の過酷な現実に傷つきながらも、小さな成果に喜びを見出し、日々を大切にしてきたことを噛みしめるようにお話になった。

それはお二人の長い人生に関わる奥様の本心として私に伝わってきた。

 

本心をはっきり言葉にしてくださったことで自分達のケアの先にあるものの存在が見えた気がした。

私たちは長い人生を歩んで来た「人」をケアしているんだということを深く実感した。

この人を悲しませない様なケアをしなければという気持ちが自然とわいてきた。

 

在宅ではご家族との距離感はさまざまで、すべてがこのような関係になるわけではない。距離感を間違えて、いまでも失敗することもある。在宅看護のとても難しい面だと思う。

しかし私が自費の看護に惹かれるのは、この時に感じた気持ちや感覚を体験したからだと考えている。

 

この後、10年以上その会社で自費の在宅看護に関わり、2015年に独立した。

独立したのは、会社が大きくなると、売上げや効率性がどうしても重視され、ほんとうに必要とされる看護から、サービスも私もだんだんと離れていったことが大きい。

 

独立の経緯については、またの機会に書いてみたいと思う。