『 廣嶋の空 』
其日の朝が來ると 僕は先づカーテンを開き
既に燒け附く樣な陽射を 部屋に迎ふる
港を往交ふ船と 手前を横切る路面電車
稻佐山の向ふの入道雲と 拔ける樣な青空
On August 9th. 1945 此街が燃盡きたあの日
叔母は舞降りる 惡魔の姿を見てゐた
氣附いた時 焔の海に 獨り彷徨ひ乍ら
やはり振返ったら 稻佐の山が見えたもう怨んでゐないと 彼女は言った
武器だけを憎んでも 仕方が無いと
寧ろ惡魔を産み出す 自分の心を怨むべきだからどうか 繰返さないで
繰返さないで
廣嶋の空に 向ひて歌はむと
決めたのは 其時だった
今年の其日の朝も 僕は先づカーテンを開き
珈琲カップ片手に 晴れた空を見上げ乍ら
觀光客に混りて 同じ傷口を見詰めた
あの日のヒロシマの蒼い蒼い空を 思ひ出してゐた
On August 6th. 1945 あの街が燃盡きた其日
彼は仲間達と 蟬を追掛けてゐた
ふいに裏山の向ふが 光ったかと思ふと直ぐに生温かい風が 彼を追掛けて來た
蟬は鳴き續けてゐたと 彼は言った
あんな日に蟬は まだ鳴き續けてゐた
短い生命惜しむ樣に 惜しむ樣に鳴き續けてゐたと
どうか 繰返さないで
繰返さないで
廣嶋の空に 向ひて歌うてる
廣嶋の空も 晴れてゐるだらうか
繰返さないで
繰返さないで
廣嶋の空に 向ひて歌うてる
廣嶋の空も 晴れてゐるだらうか
原詩・作曲
さだまさし さん
アルバム
『逢ひみての』1993
『償ひ～ SONGS OF LIFE』2003
收録
＊ ＊ ＊
著作權に鑒みて
若し問題ある樣でしたら、
限定公開とさせて戴きますので、
其旨、コメントにお書き願へれば、
倖ひと存じます。
あの日、廣嶋で亡くなられた方、
この日、長崎で亡くなられた方、
その後、放射線障礙で亡くなられた方、
そして、
地上全ての戰歿者の方々、
安らかに眠って下さい
過ちは
繰返しませぬから