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体で感じる・心が育つ
こどもに関するコラム集!専門家がコラム・情報を掲載しています。
 
No.122 ご入学おめでとうございます
原 田 京 子 ( 児童文学作家 )
 4月です。幼稚園や小学校に入学するお子さんをお持ちのお母さん(すみません、お父さんもですね)、「ご入学おめでとうございます」。子どもたちが自分の手を離れて新しい集団に所属する。自分と過ごす時間よりも自分以外の人と接する時間が多くなる。集団の中でうまくやっていけるかな? お友達ができるかな? 期待と不安と、複雑に入り混じったその気持ちは、お母さんもお子さんも同じでしょう。いや、子どもたちは新しい世界に飛び出していけることが楽しみで胸がいっぱいでしょうから、心配なのはお母さんたちばかりかもしれませんね。

 子どもが生まれたときは本当に嬉しくて、ただただ元気に育ってくれたらいい、そう願っていたけれど、子どもが成長するにつれて、次第に子どもへの期待は膨らんでいきます。「這えば立て、立てば歩めの親心」。ひたすら子どもの無事な成長を願う親心をうまく表現している言葉ですが、子どもの成長につれて、親はだんだん子どもに対する欲が出てきます。
 先月のコラムに書いたように、「わが子が賢くいい子に育つ条件」、それが知りたくて、40才になる前に大学院に入学し、その答えにたどりつくことができました。三つの条件のうちの「知的刺激」という意味で、「早期教育」が私の修士論文のテーマだったわけですが、現在、これまでのコラムの中で、このテーマに関する内容が含まれるものを整理していますので、結果がまとまり次第、ご報告いたしますね。

 さて、今月のコラム、私の反省を込めて書いていくことにします。
 ずいぶん以前に、私は「前世療法」というものを試みたことがあります。その詳細について、このコラムで述べるのは控えますが、私はこの「前世療法」の権威であるブライアン・L・ワイス博士の書かれた『前世療法』という本に興味を持ち、一度だけワイス博士から直接、前世療法を受けたことがあります。それまでも、自分自身でワイス博士の書かれた本と、付属のDVDに従って、自分の前世について知りえた機会がありました。それによれば、私の前世として示されたのは、「砂漠」「白装束の男性」などなどでした。ラクダに乗り、お供の男性を連れて砂漠を旅する白装束の男性。このことから導かれた結果、私は前世では「修道士?」だったのではないか?ということでした。私自身、禁欲的なところがあるし、モノトーンの服しか着ないし、物への執着があまりありません。ですから、私の前世は、きっと、「旅から旅へと修行を続ける修道士の男性だった」と思っていたのでした。
 しかし、最近、旅先で、自分がなんと欲深い人間であるかということに気づかされたのです。「かわいい子には旅をさせよ」といいますが、還暦を過ぎても旅は何かしらたくさんの気づきをもたらしてくれるようです。

 旅をすると、普段の日常とはまったく違う場面に出くわします。我慢することを余儀なくされたり、時間の制限を受けたり、予期せぬ事態に対処させられたり、予想もつかないような出来事を経験します。そして、そのたびに決断を迫られます。そうして、自分の本性のようなものと直面させられるのでした。
 たとえば、ホテルに関して。チェックインの際に眺めがよりよい部屋を希望します。それが満たされると、今度は部屋の備品が充実しているかについて(私の場合、コーヒーマシーンなど)気になります。自分がより快適にその部屋で過ごせるようにと、要求は限りなく増えていきます。
 冷静に考えたら、とても快適な部屋で過ごせているのに、ひとつでも満たされないことがあると、そのことが気になってしまいます。自分の部屋よりもずっと下層階の部屋で過ごしている人がたくさんいるのに、自分の部屋よりも上層階の部屋はもっと眺めがいいだろうな、とか、コーヒーマシーンがあったらおいしいコーヒーが飲めるだろうな、とか、そんなことを考えている自分がいるのです。
「もっと、もっと……」そんな思いをなかなか断ち切れません。私はなんと強欲な人間でしょう。前世が「禁欲的な修道士」だったなんて想像もつきません。
 そんなことを考えていたら、親が子どもに抱く思いにも同じことがいえるなあ、そう思ってしまったのでした。
「子どものありのままを受け入れ、ありのままを愛する」。それは簡単なようで本当に難しいことだと思います。「生まれてきてくれてありがとう」初めてのご対面のときの何にも変えがたい気持ち。「元気に育ってくれたら、それだけでいい」子どもに対する、親としての純粋な気持ち。そうして、幼稚園や小学校に入学できるまでに無事に成長してくれたこと、そのことに感謝している現在の気持ち。それらの気持ちを忘れずにいられたら、それからの子育てもどれほど心に余裕を持ってできることでしょう。

 子育てを終えて、子どものほうが自分よりも体がでっかくなってしまった今であるからこそ、まあ、良くぞ無事に育ってくれた、と思うことばかりです。いくつもの壁にぶつかり、そのたびに悩まされた子育て真っ最中の日々。過ぎ去ってしまえば、ただただ、いい思い出ばかりが思い浮かぶのです。だから、子育て真っ最中のお母さん、いい思い出をたくさん作りましょうね。
 子どもたちが、幼稚園から、学校から帰ってきます。楽しかった、嬉しかった、ドキドキした、びっくりした、子どもたちはそれぞれに自分が感じた気持ちで心をいっぱいにして、帰ってくるでしょう。玄関で、両手を広げて、新しい環境で一生懸命頑張ってきたお子さんを思いっきりハグしてあげてくださいね。そうして、お母さんのほうから何かをたずねるのではなく、子どもたちが自分の口で話し始めるのを待って、ゆっくりと、じっくりと、その報告を聞いてあげてください。その一挙手一投足から、子どもたちが何を感じ取ってきたのかを察してあげてください。もしかしたら、とても大切なことほど、言葉に出せずに心の中にしまっているかもしれません。

 さて、最後に本の紹介を。心理学者のエレイン・N・アーロンさんが書かれた本『The Highly Sensitive Child:ひといちばい敏感な子』という本です。自分のお子さんが「もしかしたら……」と悩まれているお母さんにお薦めします。

※今月は、これまでに写した子どもたちの可愛い写真を載せました。
2018-04-03 更新
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著者プロフィール
原田 京子(はらだ きょうこ)
1956年宮崎県生まれ
大学院修士課程修了(教育心理学専攻)

【著書】
児童文学
『麦原博士の犬語辞典』(岩崎書店)
『麦原博士とボスザル・ソロモン』(岩崎書店)
『アイコはとびたつ』(共著・国土社)
『聖徳太子末裔伝』(文芸社ビジュアルアート)
エッセー
『晴れた日には』(共著・日本文学館)
小説
『プラトニック・ラブレター』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『ちゃんとここにいるよ』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『タイム・イン・ロック』(2014 みやざきの文学「第17回みやざき文学賞」作品集)
『究極の片思い』(2015 みやざきの文学「第18回みやざき文学賞」作品集)
『ソラリアン・ブルー絵の具工房』(2016 みやざきの文学「第19回みやざき文学賞」作品集)
『おひさまがくれた色』(2017みやざきの文学「第20回みやざき文学賞」作品集)