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体で感じる・心が育つ
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No.98 地上最強の商人Part2
原 田 京 子 ( 児童文学作家 )
 『地上最強の商人』も第4巻の巻物に入りました(詳細はコラムNo.96「地上最強の商人」 をご覧ください)。第3巻の前書きには、「まわりを見渡してください。ずいぶん仲間が減りました」そう書かれています。私はどうにか、ここまで、本に書かれたアドバイスに従って毎日読み進み、その結果を就寝前に記録し自己評価することを続けることができました。
 『地上最強の商人』は、10巻の巻物から成り立っているといいましたが、1巻を4百字詰め原稿用紙に換算すると、だいたい10枚くらいになります。そのボリュームを毎日最低3回は読むのがルーチンです。それを1巻につき5週間続けます。つまり、同じ文章を1日3回×5週間(35日)で100回以上読んでいく計算になります。
 これら一連の行為は、そこに書かれた文章を潜在意識に刷り込むということを意味しています。そして、「潜在意識に刷り込む」とは、すなわち心の奥底の無意識層に刷り込むことなのです。「無意識」とひとくちにいいますが、この「無意識」の世界というのは私たちにとって大きな意味を持っています。「意識」する世界より、「無意識」の世界の方がずっと大きいからです。つまり、私たちの行動は、ほとんどこの無意識層をもとに起きているといっても過言ではありません。

 かつて私は、息子を妊娠した時に、「ドーマン・ドッツ」という教材を購入したことがありました。早期教育に関心があった私は、「算数教育」におけるドーマン博士の存在を知り、博士が開発した「ドーマン・ドッツカード」を使って算数の早期教育を息子に試してみようと思ったのでした。しかし、「たくさんの点が描かれたカードを瞬時に見せることが、幼児の算数教育においてどんな意味を持つのか?」ということの基本的な意味をきちんと理解していなかったがゆえに、その貴重なカードも「宝の持ち腐れ」となってしまいました。
 私たちは、ついつい目に見える成果だけに価値を置きがちです。自分たちが意識できる世界だけで生きていると思いがちです。しかし、目に見えない、私たちの意識を超えたところにあることこそ、大きな価値が存在するのです。ですから、私が、「ドーマン・ドッツカード」の存在価値を知って、目に見える結果を追い求めることなく、そのカードを有意義に活用していたら、息子はもっと算数に興味を持っていたかもしれません。
 私が無意識の世界の重要性を再認識したのは、子育て中に大学院生となり、あらためて心理学の世界に入り込んでからでしたが、そのときはすでにドッツカードの存在すら忘れていました。

 しかし、私がこのドッツカードの価値にあらためて気づかされたのは、ちょっとしたことがきっかけでした。それは、毎日引用しているスピルリナというサプリメントをビンから出すときでした。いちいち数を数えなくても、手のひらに出した数をピタリといい当てることができたのです。つまり、毎日、こうして手のひらに緑の錠剤を取り出して数を数えているうちに、数えなくても見ただけで数がわかるようになっていたのです。「ああ、そういうことか」と私は納得しました。「ドーマン・ドッツカード」を瞬時に提示しながらそのドッツの数をいう、という行為は、無意識の世界に数を量で刷り込むという行為だったわけです。ですから、子どもがどういう反応を示すかなどという結果を意識する必要はなく、ただただドッツが描かれたカードを瞬時に提示しその数をいう、という行為を毎日続けていれば良かったのです。
 つまり、私が毎日『地上最強の商人』についてやっている行為は、無意識の世界に刷り込みをするという点において、これと同じことだといえます。そして、さらに発展させた考え方をするなら、僧侶が毎日経典を読むということも、これと同じことだといえるのではないかということです。そこに書かれた意味を考えることなく、ただひたすら何度も何度も読んでいく。そうすることで無意識の世界に、つまりは体の奥底に刷り込んでいく。そうやっていつの日か、意識できる世界よりもずっとずっと奥の深い無意識の世界でそれを理解できるようになる、そういうことではないかと思うのです。

 第4巻の前書きにこう書かれています。「巻物の第2巻と第3巻をただ読んで、その言葉を潜在意識の中に刻み込むことを5週間ずつ毎日繰り返してきている間に、あなたがすでに何かを達成したことに気がついたでしょうか?」と。私は、自分自身が何かを達成しているということに気がついていました。ですから、第4巻に入る前にこの文章を読み、「無意識の世界に刷り込むということはこういうことなのか」ということを心から納得することができました。
 こうして、『地上最強の商人』を毎日読んで、そのルーチンを実行しながら思うことがあります。それは、子育てにおいて、母親の果たす役割がいかに大きいかということです。もちろん、父親の役割もそうですが、妊娠、出産、子育てにおいて、子どもとかかわる時間が多いのは母親です。その母親の能力しだいで、子どもはどんなふうにでも育っていくということです。

 私は、修士論文のテーマとして「早期教育」を取り上げ、「母親が早期教育にかかわりすぎることは、子ども時代に経験すべき大切な時間を子どもから奪うことになる」と結論付けました。子育て中に大学院で得たこれらの結論は、それからの私の子育てにとって重要な指針となりました。ですから、息子が「偉大なる数学者」にならずとも、自分の子育てに後悔はありません。「丈夫な体と人間力」それが私の子育ての最大の目標でしたから、「虫歯なし」「両眼の裸眼視力2.0」の丈夫な体を持ち、どんなところでも生活でき、だれとでも上手くコミュニケーションが取れる人間に成長してくれた息子は、放任な私の子育ての目標をある意味達成してくれたのだと思っています。
 子育てをしていると、子どもの成長のさまざまな過程で壁にぶつかります。その壁はたしかに障害物ではありますが、それを乗り越えようと努力をするという意味では、親にとっても子どもにとっても成長のチャンスでもあります。子育てにとって一番大切なことは、壁にぶつかったとき、親として、そのとき子どもにできうるベストなことは何かを考え、それを実行することだと思います。
2016-04-01 更新
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著者プロフィール
原田 京子(はらだ きょうこ)
1956年宮崎県生まれ
大学院修士課程修了(教育心理学専攻)

【著書】
児童文学
『麦原博士の犬語辞典』(岩崎書店)
『麦原博士とボスザル・ソロモン』(岩崎書店)
『アイコはとびたつ』(共著・国土社)
『聖徳太子末裔伝』(文芸社ビジュアルアート)
エッセー
『晴れた日には』(共著・日本文学館)
小説
『プラトニック・ラブレター』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『ちゃんとここにいるよ』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『タイム・イン・ロック』(2014 みやざきの文学「第17回みやざき文学賞」作品集)
『究極の片思い』(2015 みやざきの文学「第18回みやざき文学賞」作品集)