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体で感じる・心が育つ
こどもに関するコラム集!専門家がコラム・情報を掲載しています。
No.91 心と体の深い関係
原 田 京 子 ( 児童文学作家 )
 心と体は密接なつながりがあります。「そんなのあたりまえ」と思うかもしれませんが、私たちは案外そのことを忘れています。そして、体を酷使したり、心を磨耗させたりするのです。その結果、体が悲鳴を上げ、心が壊れたりします。そして、あらためて心と体の密接なつながりに気づかされるのです。
 息子が幼稚園生の頃のことです。幼稚園選びのために宮崎市内の10ほどの幼稚園を見て回ったことは以前のコラムで書きました『地球を放浪している息子からの手紙』(コラムNo.78 2014/8/1) 。結局息子は、見学したどの幼稚園も選ばず、たまたま蝉取りに行った場所の近くにある幼稚園の、広い園庭とターザンロープが気に入って、その幼稚園に入園することを決めました。
息子は自分で選んだということもあってか、幼稚園が大好きで、充実した二年間を過ごしたのですが、母親の私は、そうではありませんでした。役員を引き受けたせいで、たくさんの仕事をしなければならなくなり、私の口から生まれて初めて、「無理です。できません。」という言葉を人様に向けて発しました。その頃にはもう、私の我慢は限界に来ていて、それによって生じた体の歪みが、「円形脱毛症」という人目にもわかる形で表れたのでした。

 また、20年くらい前のことです。私は大学院生として1日のほとんどをパソコンの前に座って過ごしたので、「椎間板ヘルニア」になってしまいました。そのリハビリと筋力強化のために筋トレを始め、トライアスロンのレースに参加することをトレーニングの目標にしました。
 大学院を無事に修了してからは、本格的にトレーニングを始め、体にずいぶん無理をしました。そして、2004年のトライアスロンのレースの2日後に、メニエル症候群が再発し、私はスポーツが一切できなくなりました。
 「円形脱毛症」は、息子が幼稚園を卒業したら、自然に治っていきました。やりたくもない仕事を、いたくもない場所で無理してやっていたことから解放されたからでした。心が、それをやりたくない、そこにはいたくない、そう思っているのに、体はそれと正反対のことをしていたのだ、私はそのことに気づきました。
 「メニエル症候群」は、ハードなトレーニングをやめてから1年ほどして治まりました。毎日のトレーニングは私にとって楽しみでもありましたが、体の方がかなりの無理をしていたのでした。

 この2つの症状がいったい何を意味しているのかを、本当に理解できたのはつい最近のことです。
「円形脱毛症」になることによって、私の体が、「髪の毛が抜ける」という外見的にはっきりとわかるような形で、周りの人に、「もうこの人に無理をさせてはいけない」そう知らせてくれたのです。もし、この病気にならなければ、人は私が無理をしていたことに気づかず、私は、まだ、仕事を続けていたかもしれません。




 また、「メニエル症候群」は、めまいを起こすことによって、体が自由に動けない状態にすることで、「あなたは相当無理なトレーニングをしている。これ以上無理をするのはやめてください」そう私に教えてくれたのです。
「円形脱毛症」と「メニエル症候群」という2つの病気を経験することによって、私は「人間の体というのはすごいなあ」そう思うようになりました。どちらかひとつの病気だけでは、おそらく気づけなかったでしょう。人間の体というのは、無意識のうちに自分の体を守るようになっているのだと実感したのでした。

 現在私は、「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」という「生まれつき大腿骨の股関節へのかぶりが浅い」という病気を発症しています。長年の無理がたたったせいで、ついに股関節が悲鳴をあげてしまい、杖が必要な生活になったのでした。そして、そのことは、私にあらたなる「気づき」をもたらしました。
 不思議なもので、杖をついていなかった時は、「杖」というものにまったく関心がありませんでした。しかし、現在では、街を歩いていると、いかに杖を必要としている人がたくさんいるか、ということに驚かされます。これだけたくさんの人が杖をついて歩いているのに、以前の私は、まったくそのことに気づいていなかったのでした。つまり、見えているのに見えていなかったのです。いや、見えていても、現在の自分が感じているほどの深さで、見ていなかったということでした。
 杖をつく生活は、決して快適なものではありませんが、それによって、私はたくさんのことに気づかされました。そして、ことさら感じているのは、「人の温かさ」でした。杖をついていると、「ありがとうございました」という機会が増えました。それだけ人の温かさ、優しさに触れる機会が増えたからでした。

 現在、私は体を健全に保てるよう心をコントロールするトレーニングをしています。心と体の密接な関係を知り、心と体のいずれかに歪みが生じると、体が自分自身を守ろうと何らかの形でSOSを発するのだと理解したからです。年を重ねてきたせいか、はたまた、自分自身の実態を自然に受け入れられるようになったせいか、いずれかはわかりませんが、それほどの努力を必要としなくても、私は、心のコントロールがうまくできるようになりました。

 7月のコラム『レジリエンスとは何か?‐「折れない心」の育て方‐』(コラムNo.89 2015/7/1) でも書いたように、人間は、心の持ち方次第で、その後の生き方が大きく変わってきます。心とは、体だけではなく、生き方にまで影響を与えるということです。

※今月の写真は、九州のパワースポットです。
2015-09-01 更新
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著者プロフィール
原田 京子(はらだ きょうこ)
1956年宮崎県生まれ
大学院修士課程修了(教育心理学専攻)

【著書】
児童文学
『麦原博士の犬語辞典』(岩崎書店)
『麦原博士とボスザル・ソロモン』(岩崎書店)
『アイコはとびたつ』(共著・国土社)
『聖徳太子末裔伝』(文芸社ビジュアルアート)
エッセー
『晴れた日には』(共著・日本文学館)
小説
『プラトニック・ラブレター』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『ちゃんとここにいるよ』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『タイム・イン・ロック』(2014 みやざきの文学「第17回みやざき文学賞」作品集)