会社員時代、
会社の飲み会の2次会は、
カラオケに行くことが
お決まりだった。
私より、5年程先輩に
しんちゃんという男性がいて、
しんちゃんは、
とてもとても、歌が下手だった。
しんちゃんの十八番(おはこ)は、
「赤ちょうちん(かぐや姫)」で
下手のレベルが、
とびっきり振り切れていて、
聴いていて、とても
心地よかった。
わざと下手に歌っているのでは
ないというのは、
伝わってきた。
真剣に下手だった。
ひょうひょうとした
ふらつくような
歌い方だった。
みんな、
真剣に歌う しんちゃんの
赤ちょうちんを、
げらげら笑いながら聴いた。
毎回毎回、しんちゃんは、
「赤ちょうちん歌って~」と
リクエストされていた。
私も、しんちゃんの
赤ちょうちんが、
好きだった。
たぶん、
世界で一番
調子っぱずれで、
ヘタな赤ちょうちん。
別の話。
ある時、ある男性が、
私の知らない歌を、
唐突に、口ずさんだ。
とてもおかしい歌い方で、
歌詞にぴったりあっていて、
私は、げらげら笑った。
落ち込むたびに、
何回も、「あれ、歌って~」と
おねだりしていた。
私は、その原曲を、
長い間、知らないままだった。
動画サイトが普及して、
原曲が聴けるようになって、
その曲、
筋肉少女帯の
「踊るダメ人間」
を聴いたとき、
彼の歌っていたのと、
全然、違う雰囲気で、
びっくりした。
彼は、ぶっちぎりの下手クソに
歌っていたことを知った。
だけど、原曲よりも、
彼の歌う「踊るダメ人間」の方が、
面白くて、元気が出て、
心地よかった。
「下手な方が心地よい」時がある。
ピアノでも、時々ある。
「下手なのに、心地いい」演奏と、
「上手なのに、好きになれない」演奏。
私は、自分の為に弾いている人は
あまり好きではないのかもしれない。
「自分の為」とは、
いろんな意味がある。
演奏に感情を込めるのと、
自分の演奏に酔いしれるのは、
別物だ。
カラオケでも、
朗読でも、
ピアノでも、
上手なのに、気持ち悪い人がいる。