『朽ちない桜』 空恐ろしい話だが面白い! | 悪食のシネ満漢全席

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ろくに情報知らぬまま、当たり屋みたいに突撃して、 しょーもない感想を言い合って、備忘録代わりに残します。 かなりの無責任、言いたい放題、無礼千万をお許し下さい。

 

悪食 85点
今年 55本目

監督 原廣利
原作 柚月裕子
脚本 我人翔太
   山田熊龍
出演 杉咲花
   萩原利久
   森田想
   駿河太郎
   豊原功補
   安田顕

   遠藤雄弥

柚月裕子の警察ミステリー小説を映画化。
渋谷シネクイントへ。

鑑賞結果、空恐ろしい話で背筋が凍ります。杉咲花と安田顕の演技が凄い‼️

ここからネタバレ満載でいきますからご注意を⁉️



鳴り止まない警察の電話。県警広報課の森口泉(杉咲花)は対応することもなく呆然としている。
愛知県平井市の女子大生がストーカー被害を受けていた。地元の平井市警察では女子大生からの被害届を先延ばしにしていた。その女子大生がストーカーである神社の長男によって殺害された。
先延ばしにしていた理由が慰安旅行だった。それを地元の新聞がスクープした。
警察内ではリークしたものがいると踏んでいた。
スクープのネタ元は自分だと森口は思っていた。スクープが出る前に親友の新聞記者の津村千佳(森田想)と会っていて、ひょんなことから慰安旅行の件を話してしまったのだ。
森口は津村に口止めをした。絶対に記事にしないでと。津村は約束してくれた。
しかしスクープ記事が出たのだ。
森口は津村が裏切って記事にしたと疑って、津村を問い詰めた。しかし津村はガンとして認めなかった。津村は「誰がネタ元か調べる。私じゃなかったら、謝ってよ」と言い残して森口と別れた。

川で水死体が発見された。警察は殺人だと判断した。被害者は津村千佳(森田想)だった。
森口(杉咲花)は愕然とした。なぜ津村が殺されなければならなかったのかと。


森口は上司の富樫(安田顕)に相談する。


そして自分なりに調べてみると言ったのだ。
富樫は捜査を担当する刑事、梶山(豊原功補)に森口を引き合わせた。森口は梶山に協力を申し出るが、大人しくしてろと言われてしまった。



森口(杉咲花)は、それでも少しづつ情報を手に入れていった。彼氏である警察官の磯川(萩原利久)も手伝ってくれた。


磯川の同僚の辺見がストーカー殺人事件の被害者担当警察官でもあった。辺見は何も語らず、ある日、突然警察を辞めてしまった。
森口は津村(森田想)が自らの潔白を証明する為に、警察の慰安旅行を誰がすっぱ抜いたのかを調べていた。真相に近付いた為に殺されたのだ。
手がかりが全く無い森口はまずは事の発端となったストーカー事件を調べることにした。
この事件はストーカーされているからなんとかして欲しいと何度も警察に行っていた女子大生は警察からもう少し様子を見るようにと言われ、受理してもらえなかった。そしてとうとうストーカー犯であるお寺の住職の息子に殺されてしまったのだ。そしてこの事件の日に所轄の警察署は慰安旅行に出かけていた。慰安旅行を優先し、ストーカー事件の受理をしなかった為にこの事件が起きたと、警察は市民から厳しく糾弾された。それは新聞社のスクープ記事が出たからだった。
神社の長男を調べると、カルト教団の隠れ信者ということが分かった。カルト教団は信者にストーカー犯がいることは都合が悪かった。カルト教団には警察に知られたくないことがあったのだ。
津村はそのことに気付いただけではなく、その先の陰謀にも気付いてしまった。その為に殺されたのだ。
そのカルト教団は前々から目を付けられていた。以前に毒ガス事件を起こして100名以上の死亡者を出したのだ。
今は教団の名前を変えて活動していたが、内容は何も変わらなかった。
公安警察はそのカルト教団を見張っていた。
富樫(安田顕)は、その当時は公安に属しており、教団を見張っていたが、そこで起きたリンチを目の前にしてつい教団の前に姿を現してしまったのだ。
公安の動きを察知したカルト教団は、毒ガス計画を予定より早めた為、多大なる犠牲者が出たのだ。富樫はそれを悔いていた。1人を助けた為に100人を犠牲にしたと。
富樫は公安時代のツテを使って教団員のリストを手に入れた。そこから現場で目撃された車を特定し、ドライブレコーダーから教団の男、浅羽(遠藤雄弥)が津村を殺害した時間に現場近くを車で通ったことを確認した。
警察は逮捕状を取り教団に乗り込むが、浅羽は車で逃走。警察とのカーチェイスの末、事故を起こして死んでしまった。その事故も仕組まれたものだった。


警察は被疑者死亡で事件の幕引きを図ったが、森口は納得出来ないものを感じていた。
そして自分なりに解釈して捜査を見直したのである。ヒントは津村がおみくじと言っていたことから着目した。
そして辿り着いた事件の真相は身の毛もよだつものだった。

森口(杉咲花)が推測した事件の概要はこうだ。


公安はかねてからカルト教団がまたもや毒ガス事件を起こすのではないかと、カルト教団内にスパイを潜り込ませていた。
それは以前、富樫(安田顕)が助けた教団員、浅羽をスパイとして教団に戻らせていたのだ。そして教団がまたもや毒ガス事件を起こそうと画策しているという情報を手に入れた。しかし浅羽の言葉だけで、なんの証拠もない教団に家宅捜索の令状は降りない。そこで富樫は降りないのなら降りる理由を作ればいいと考えた。それが神社の長男によるストーカー殺人事件。実は、この長男はカルト教団の隠れ信者だった。カルト教団はこの事件が教団と関係あるとみなされるのは迷惑だった。そこで、神社の長男には口止めをしたのだが、それを調べている記者の存在に気付く。教団が邪魔だと思っているその記者を浅羽を使って殺すように仕向けたのは富樫だった。教団は浅羽を使って殺人を犯した。その犯人を警察は追うことになる。浅羽に辿り着くのは時間の問題だった。そして浅羽の逮捕状を取った警察は教団に浅羽の引き渡しを求めに行く。浅羽は警察を振り切り、車で逃走。そして事故を起こして死んでしまった。被疑者死亡の為、教団の家宅捜索をする警察。すると中からは毒ガス生成薬品が多数見つかる。こうしてカルト教団は警察によって徹底的調べられ、毒ガス事件など起こせないようになった。
しかしこの筋書きは全て富樫によって書かれたものだった。


記者を殺し、犯人がカルト教団の者として警察が介入し、事件が未然に防げる。
自分と関係のあった浅羽は死亡。そして警察内でストーカー担当警察官も警察を辞めて行方不明になっていた。
証拠は何も残されていないのだ。
全ては森口の推察であって証拠は何もない。しかし森口はこの推察を富樫にぶつけた。富樫は黙って聞いていた。
富樫が口を開いた。「君は1人の命を助ける為に、100人の命を犠牲にしたことはあるか?」
森口は答える。「次は私を殺すんですか?」と。その姿は恐怖に怯え、震えていた。


富樫は何も答えずに帰っていった。
富樫はその後、公安へ階級が上がって戻っていった。
森口は警察事務を辞め、正式に警察官になろうと勉強を始め、警察官になった。


森口は真実を突き止める為に警察官になったのか、それとも自分の身を守る為にせめて警察官という肩書きを欲して警察官になったのかは分からない。
エンド。

公安警察の仕事が通常の仕事とは違い、普通の犯罪者を追う訳ではなく、国家転覆の陰謀とか、思想による犯罪、他国からの脅威に対しての抑止存在であるようだ。つまりは通常の警察と違って、犯罪が起きてから動くのではなく、犯罪が起きる前に未然に防ぐのをモットーとしている。表立っての動きは全く我々の預かり知らぬところで起きている為、関係ないのかとさへ思ってしまう。
そんな公安警察の裏の顔を題材にしたこの小説。まんざら空想の世界だけでもなさそうなところが面白い。
そしてその公安警察を演じる安田顕。普段優しそうなおじさん役が多い彼も怖い役をやらせると背筋が凍るほど怖い。素晴らしい役者です。
そして最近、飛ぶ鳥落とす勢いがある杉咲花。最初の頃、ヒステリックな演技が多い為、好きな役者ではなかったが、最近はそんなヒステリックな演技は影を潜め、静かな感情を表現する役が非常にハマっている。今回も真相の考察を語るシーンでは恐怖に慄きながらも話し続ける演技は素晴らしかった。見事です。
なかなか見応えがあって驚きの展開が楽しめます。
是非、劇場で。