『野獣死すべし』 これぞジャパニーズノワール! | 悪食のシネ満漢全席

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ろくに情報知らぬまま、当たり屋みたいに突撃して、 しょーもない感想を言い合って、備忘録代わりに残します。 かなりの無責任、言いたい放題、無礼千万をお許し下さい。

 

悪食 80点
今年 35本目

監督 村川透
原作 大藪春彦
脚本 丸山昇一
製作 角川春樹
出演 松田優作
   小林麻美
   室田日出男

   根岸季衣
   風間杜夫
   岩城滉一
   鹿賀丈史

元戦場カメラマンがPTSDによって社会に順応出来ず、狂っていく姿を描く。
新宿K’s cinemaへ。

鑑賞結果、松田優作の天才的演技力に圧倒されます。狂っているというのはこういうことだ。

ここからネタバレ満載でいきますからご注意を⁉️



土砂降りの夜、刑事を襲う1人の男。格闘の末、刑事を刺し殺し、拳銃を奪った。そしてその足で、違法賭博場に侵入すると、従業員を皆殺しにして金を奪っていった。
元戦場カメラマンの伊達邦彦(松田優作)だ。


伊達は普段は物静かで、クラッシック音楽をこよなく愛する男なのだが、戦場カメラマン時代にあまりにも悲惨な戦争を目の当たりにして狂っていた。所謂、PTSDだ。


伊達は次なる犯罪計画を立てていた。銀行強盗だ。しかし銀行強盗は1人では難しいと判断して仲間を1人増やすことにした。
学生時代の仲間が集まったレストランで、伊達は1人のウエイターに目をつけた。社会に逆恨みするキレやすいギタリスト、真田(鹿賀丈史)だ。伊達は真田に取り入り、仲間に引き込む。そして踏み絵のように自分の女(根岸季衣)を殺させるのだ。こうして真田を洗脳するように仲間に引き入れた。



伊達(松田優作)に目をつけた刑事がいた。柏木(室田日出男)だ。柏木は目撃情報にあった男が伊達ではないかと目星をつけ、密かに伊達を尾行した。伊達はすぐに気付いていた。
それからというもの柏木は露骨に伊達の前に現れた。

銀行強盗当日、伊達(松田優作)はクラシックコンサート会場やレコード屋で何度か顔を合わせた華田令子(小林麻美)が銀行に入るのを見て、一瞬躊躇するが予定通り銀行強盗を仕掛けた。


ガードマンや銀行員を射殺し、計画通り2億円を強奪、しかし令子に顔を見られた為、伊達は躊躇なく令子を射殺した。


乗りつけた車は銀行の裏に乗り捨て、警察の裏をかいて地下鉄を使い、東京駅に出たら伊豆の別荘に真っ直ぐ向かうつもりで真田(鹿賀丈史)と別行動を取った。
しかしそんな伊達を見つけてついてきたのが柏木(室田日出男)だった。柏木は伊達にどこにいくのかと聞くと伊達は東北に旅行だと答える。柏木は東北に向かう列車まで同行した。そこでの会話から柏木は伊達が警官殺し、銀行強盗犯人と確信し、拳銃突きつけながら、伊達のバックを開けた。しかしその中には銀行強盗した金は無く着替えくらいしかなかったのである。驚く柏木に銃を突きつけたのが真田だった。真田もまた東北行きのこの列車に乗っていたのだ。


そして柏木と車掌を射殺すると2人は走る列車から飛び降りたのである。


山の中の古い坑道に辿り着いは2人は中でセックスをしている若い男女に出会う。真田は男を射殺して女を犯していた。
最初はけしかけていた伊達が女を犯している光景を見た時に戦時中の出来事がフラッシュバックした。そして真田と女を射殺したのだ。
伊達は完全に狂っていた。



東京に戻った伊達(松田優作)はクラシックコンサートに来ていたが、眠ってしまった。誰もいなくなったコンサート会場を出て、太陽が燦々と照りつける階段を降りている時にライフルで撃たれるのである。何発ものライフルの空気を切る弾音だけが響き、伊達は崩れ落ちるのであった。


エンド。

「野獣死すべし」、何度も映画化された日本を代表するノワールである。
この作品は、その中でも最高と言われる松田優作の主演作なのであるが、誰もが認める天才的な役者、松田優作が取り憑かれた様にに役にのめり込んだ作品である。
元戦場カメラマン。戦争の悲惨な現場を嫌というほど、目に焼き付け心に刻んだ。
そこに正義は無い。ただ残忍に人を殺し犯し、搾取するだけの世界。
それを見続けた伊達は次第に精神を壊していく。
日本から呼び戻されたのも、まともな写真が撮れなくなった伊達を心配してのことだったろう。しかし伊達はもうまともに仕事を出来る状態ではなかった。
地獄から安穏とした日本社会に戻された伊達はそこに順応することが出来ず、その安全な社会を壊そうとさへしようとする。そしてある日、銃という武器を手に入れた伊達はそこが日本であることを忘れ、戦場の中で生き残るべく行動する1人の兵士となっていた。
愛情も倫理を失くした精神世界を彷徨う伊達。
彼を抑えるものは何もなかった。
しかし伊達は生き残ることを願っていたのでも無いだろう。
狂っている自分をもまた分かっていたのだろう。
そして自分の命を誰かが奪ってくれるものと信じて生きていた。
心臓に銃弾が刺さった時にこそ、伊達は生きている実感を噛み締めて死んでいったのだろう。
見事なジャパニーズノワールだ。
そして初めから最後まで死んだ目で役になりきり、演じ切った松田優作は天才としか言いようがない。

つくづくいい役者を早くに亡くしたと残念でならない。
そして、小林麻美は美人で悪食好みですわ🥰