『52ヘルツのクジラたち』 今年のベストかも! | 悪食のシネ満漢全席

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ろくに情報知らぬまま、当たり屋みたいに突撃して、 しょーもない感想を言い合って、備忘録代わりに残します。 かなりの無責任、言いたい放題、無礼千万をお許し下さい。

 

悪食 90点
今年 33本目

監督 成島出
原作 町田そのこ
脚本 龍居由佳里
出演 杉咲花
   志尊淳
   宮沢氷魚
   小野花梨
   西野七瀬
   
真飛聖
   池谷のぶえ

   余貴美子
   
倍賞美津子

2021年、本屋大賞受賞の町田そのこの小説を映画化。
渋谷シネクイントへ。

鑑賞結果、遥かに予想を越える素晴らしい作品。マイノリティの世界を自分とは関係ないものと思っていたとすれば驚愕します。

ここからネタバレ満載でいきますからご注意を⁉️



自分の人生を家族に搾取され続けて生きてきた三島貴瑚(杉咲花)。


海辺の街の一軒家に越してきた。その家は貴瑚の祖母が住んでいた家だった。祖母もまた1人でその街に来てそこに住み着いたのだ。
貴瑚はその街でムシと呼ばれて虐待を受けていた男の子と出会う。


貴瑚もまた幼い頃に虐待されていた過去があった。貴瑚はその男の子を放って置けなかった。そして自分に差し伸べられた手を思い返していた。

貴瑚(杉咲花)は、子供の頃から男に依存する母親(真飛聖)に虐待を受けながらも、それを受け入れ、高校を卒業後、義理の父親が倒れてからは介護に明け暮れていた。
それが限界に来た時に助けたのが岡田安吾(志尊淳)と高校時代の親友、牧岡美晴(小野花梨)だった。
安吾は貴瑚に向き合い、彼女の心の拠り所になるように助けていた。


しかし安吾は貴瑚の気持ちを受け入れてはくれなかった。



その後、貴瑚(杉咲花)は仕事先の専務、新名主税(宮沢氷魚)と知り合い、急速に親密になっていく。そして付き合うことになった。


それに待ったをかけたのが安吾(志尊淳)。貴瑚に「新名とは上手くいかないから別れた方がいい。泣かされるばかりで幸せにはならない」と。


しかし貴瑚は聞く耳を持たなかった。
しばらくするとそれは現実になった。会社で新名の婚約の噂が流れてきたのだ。
新名は「そういう家なんだ。分かってくれ。愛しているのは貴瑚だけだ。幸せにするから」と。
それは嘘だった。安吾によって告発された新名は婚約破棄となり、社長である父親の怒りを買って会社もクビになってしまった。荒れた新名は貴瑚に手を挙げるようになったのだ。


新名は安吾に対して逆襲をした。安吾の素性を調べ、母親(余貴美子)を呼び出し、安吾に対面させたのだ。
母親は驚いた。娘だと思っていたのに目の前には男の姿があったからだ。
安吾は性同一性障害に悩んでいて、母親にカミングアウトすることも出来ず、東京に逃げるようにやってきて男として生活していたのだ。
それを全てバラされた安吾は慟哭した。


その話を聞いた貴瑚は心配になって安吾を訪ねた。母親も丁度来ていた。2人して部屋に入るが返事がない。安吾は風呂場で手首を切り自殺を図っていた。
安吾は帰らぬ人となった。母親は安吾の気持ちに答えてやれなかったと悔いながら遺骨を抱えて田舎に帰って行った。
安吾は新名に遺書を残していた。「貴瑚と別れられないなら、せめて幸せにしてやって欲しい」と。しかし新名はその遺書を読もせずレンジの火にかけて燃やしてしまった。
貴瑚は包丁を手に新名に迫る。新名のあまりの行動と態度に絶望したのだ。
そして自分のお腹を刺して自殺を図った。

こうして貴瑚(杉咲花)は、誰にも知らせず1人祖母が住んでいた海辺の街にやってきたのだった。
貴瑚は安吾にクジラの話を聞いていた。52ヘルツでしか鳴けないクジラがいる。他のクジラは52ヘルツの音は聞こえない。だからそのクジラはいくら歌っても誰も聞いてくれないのだ。この広い海でたった一頭のクジラなのだ。
そのクジラの歌をもらっていた。
貴瑚はそのクジラの歌を聞くと心が落ち着いた。
そして貴瑚はそのクジラの歌をムシと呼ばれていた男の子にも聞かせてあげた。
男の子もよくその歌を聴きたがった。



男の子の親(西野七瀬)は男と東京に出て行ってしまった。子供は貴瑚にやったと言っていた。
そんな時に突然行方をくらませた貴瑚を心配した美晴が会社を辞めてやってきたのだ。
そして三人の生活が始まった。


男の子の身内を探す為に男の子が昔住んでいた男の子の祖母の家を訪ねた。しかし祖母はすでに亡くなっていた。
近所の世話焼きのおばさん(池谷のぶえ)が教えてくれた。男の子の名前も分かった。愛だ。愛と書いていとしと読んだ。
貴瑚と美晴はいとしを連れて海辺の街に戻った。
ある朝、地元のお婆さん(倍賞美津子)がやってきた。


子供を預かるのは容易なことではないと忠告して行った。下手をすると誘拐になると。
「どうするか、すこし考えさせてください」と貴瑚は答えた。
その夜、いとしはいなくなった。
それに気がついた貴瑚はいとしを探す。
そして堤防で海に飛び込もうとしているいとしを見つけるのだ。
貴瑚はいとしに「家族になろう。私が守る」と言った。


その時、クジラが潮を吹きジャンプした。はぐれクジラだ。

地元のお祭りに参加する貴瑚(杉咲花)と美晴(小野花梨)といとしがいた。
お婆さん(倍賞美津子)が「どうなったんだい?」と聞いてきた。
貴瑚と美晴は「なかなか行政の壁は高いですねぇ。でも諦めずに話をしていく」と答えた。
「困ったことがあったら、何でも相談するんだよ」と応援してくれた。
貴瑚の祖母も1人ではなかったのだ。周りに友達がいたのだと貴瑚は思った。
祖母がなぜこの街に来たのかも聞いた。
昔愛する人とここに来た時にはぐれクジラを見たというのだ。愛する人を亡くしてからもう一度見たいと家を建て、クジラを見る見晴台までもつくったのだと。
「あんたももう一度はぐれクジラを見るまではこの街に住まないとねぇ」とお婆さんは言った。
エンド。

「52ヘルツのクジラたち」は、世間では受け入れ難いとされているマイノリティのことだ。
虐待され、行き場をなくした子供。
性同一性障害で悩む者。
愛する人を亡くし1人なってしまった者。
もしかしたら優しい一言が、何気なく差し伸べた手がそんな彼等を救うことになるのかもしれない。
逆に心無い一言や偏見が彼等を追い込んでいくのかもしれない。

そんなマイノリティの世界を押し付けがましくなく、しかも52ヘルツでしか鳴けないクジラというものに例えて表現しているのがとても心に沁みる。
マイノリティはこの資本主義の世界では生きにくい。多数決で決められる世界は尚更だ。
偏見は持たず、差別はせず、どんな人も受け入れる広い心を持ちたいといつも願いながら生きているつもりなのに、こんな映画を観るとまだまだ気付かないところでマイノリティを傷付けているのではないかと自分を振り返ることになる。それを続ける必要がある。いつでも振り返る必要が。

悲しい話だねと涙を流すだけではなく、自分もその立場になって考え続ける人でありたい。
心に沁みると同時に自分を見つめ直すいい映画だ。
是非、劇場で。
超オススメです‼️