『ドクター・デスの遺産』 犯人像がブレブレで役者の頑張りが台無し! | 悪食のシネ満漢全席

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ろくに情報知らぬまま、当たり屋みたいに突撃して、 しょーもない感想を言い合って、備忘録代わりに残します。 かなりの無責任、言いたい放題、無礼千万をお許し下さい。

 

悪食 67点
今年 69本目

監督 深川栄洋
原作 中山七里
脚本 川崎いづみ
主演 綾野剛
   北川景子
   木村佳乃
   柄本明

作家・中山七里の小説「ドクター・デスの遺産」を映画化したクライムサスペンス。
豊洲ユナイテッドシネマへ。

鑑賞結果、役者は良いです。しかし脚本が。犯人像がブレブレで。原作は読んでいませんが、かなり脚色されたとか。

 

ここからネタバレ満載で行きますからご注意を!



病院のリクリエーションルームで子供とオセロをやっている犬養(綾野剛)。オセロに負けそうになると盤をひっくり返す大人気ない態度。


それを見た入院中の犬養の娘が諌めます。
そこに高千穂(北川景子)が現れて仕事に戻れと犬養に声をかけます。


2人は刑事でバディです。



ここから80年代バディ刑事物風のレトロなタイトルワークが始まり笑えます。
てっきりそんなテイストで来るのかと思いきや、お遊びは頭だけ。残念です。

子供から110番通報が入った。お父さんが殺されたと。
一応、事情聴取でその子供に会うと、自宅療養中の病気のお父さんが殺されたと。
知らない医者が来たら、いきなり静かになって、その後でかかりつけの医者が来たら死んでいたと。
不審に思った犬養(綾野剛)は、火葬寸前の遺体を司法解剖に回す荒技を。


司法解剖の結果、致死量の毒物が発見された。
殺人の証拠だった。
犬養と高千穂(北川景子)は、子供の母親に事情聴取をすると安楽死を望む夫の頼みでドクター・デスに安楽死を依頼したと。


夫は末期の癌で痛み止めももはや効かないほどの状態で死を苦しみながら待つばかりだった。
ドクター・デスは、本人の為にも家族の為にも安楽死を勧め、費用もいらないと申し出た。
妻は泣く泣くその提案に乗ったのだ。
犬養と高千穂が調べていくと不審死がいくつか分かってきた。それらはドクター・デスによる安楽死殺人の可能性が出てきた。



ドクター・デスへの連絡は裏サイトのドクター・デスのページに書き込みをするとドクター・デス側から連絡が来るという。


ドクター・デスのページの書き込みには肯定的な書き込みがあった。2人はそこからドクター・デスに依頼していた人達を探り出し、ドクター・デスを炙り出そうとした。しかしドクター・デスに恩義を感じている依頼者達はドクター・デスの存在は認めても協力的ではなかった。
犬養と高千穂が見つけ出したのはドクター・デスと行動を共にした元看護師の雛森(木村佳乃)だった。


雛森はドクター・デスにアルバイトとして頼まれていただけで彼が安楽死をさせているとは知らなかったと語った。
雛森は身体を壊してからは看護師を辞め、今は養鶏場で働いていた。
警察は雛森を釈放し、ドクター・デスを誘い出そうとした。そんな時、雛森は姿を消した。
犬養と高千穂はその後の捜査でドクター・デスの居所を突き止めた。
ドクター・デスは浮浪者(柄本明)として河原で生活をしていた。
浮浪者は以前は介護士の仕事をしていたが、安楽死殺人を犯し、服役していた過去があった。
しかしドクター・デスは彼ではなかった。
ドクター・デスの正体は雛森だったのだ。

警察がまんまと騙された格好だが、それは観ているこちら側も。
雛森は化粧っ気もなく、幸薄そうな出立ちでこの役者は誰なんだろう?と思っていたのですが、次に雛森が現れるとその様相は一変します。体全体からオーラを醸し出した安楽死に人生を賭けた女神の様な出立ちで現れます。
その役者は、木村佳乃。恐れ入りました。全く分かりませんでした。恐ろしい役者です。劇中の中でも全く違う人間に成り代わるという演技を見せつけたのです。これには脱帽でした。

雛森(木村佳乃)は、安楽死させることに人生を捧げていたが、そこには彼女の欲望が入っていた。彼女は崇高な行為だと自負し、それを薄汚い殺人だと言い放った犬養(綾野剛)に殺意を抱くほど、自分の行為に酔いしれていた。
しかも安楽死を望む人達の死の間際の顔は何よりも美しいと感じていた。



犬養(綾野剛)の言葉に怒りを覚えた雛森(木村佳乃)は、犬養の娘にターゲットを絞った。
犬養の娘は腎臓病で長く病院で過ごすほど病状は進行していた。腎移植だけが望みだが、父親の犬養とは適合しなかった。その為、長年ドナーを待ち続けていたのだ。
雛森はそこに目を付け、犬養の娘に父親はもう限界だ。早く楽にしてあげた方が良いと病院のカウンセラーに化けて洗脳する様に説得していくのである。
犬養の娘は徐々に死を願う様になり、ドクター・デスに安楽死を頼むのである。
ドクター・デス雛森は、安楽死を叶える為に娘を呼び出すのだが、娘は直前で後悔し、父親に助けを求めるのである。
しかし娘はドクター・デスに攫われてしまった。



雛森(木村佳乃)から犬養(綾野剛)に電話が入った。
娘の安楽死を見せてあげるから一人で犬養家族の思い出の場所に来いと。


犬養は高千穂(北川景子)の忠告も聞かずに思い出の場所、山中湖のコテージに車を飛ばした。
コテージにはベッドに横たわる娘がいた。
飛び込む犬養は娘を助け出そうとしたその時、隠れていた雛森によって睡眠薬を注射されてしまうのである。
雛森はドクター・デスの安楽死を薄汚い殺人と言ったことが許せなかったのである。

ここにこの映画の大きな問題点がある。
安楽殺人を崇高な神からの啓示だと言わんばかりの雛森(木村佳乃)は善か悪かは別として一貫したポリシーがあった。
だからこそのサイコパスなのだ。
なのに犬養に対しての行動はどうか?
安楽死など何処にもないのだ。
雛森はただ自分の理想を汚されたことに対しての仕返しをしたいだけなのだ。
ここにももう安楽死を望む人に与えているなどという雛森の言う崇高な行為など何処にも無いのだ。
ただの殺人鬼なだけだ。
ここまで雛森の安楽死にはそれなりのポリシーがあると思って観ていた者にとってこれは大きな裏切りである。
そうなのだ。
ブレブレな殺人鬼に共感は出来ないのだ。
一貫したポリシーがあってこそのサイコパスに対するある種の共感があるというのにこれはいったいどういうことか。
ガッカリです。


雛森(木村佳乃)は、後から追いかけてきた高千穂(北川景子)に捉えられます。


何故、高千穂がそのコテージまで来れたというのは娘から聞いていたというご都合な種明かし。
映画は犬養の娘は生に対して前向きに向き合うことで、決着しているし、雛森は、裁判で精神鑑定を要求したと伝えられた。
何という中途半端なエンディング。
これはダメですよ。


しかしこれだけは言っておかないと。
留置場で一人月明かりの中で、安楽死をさせた人達を思い出しながら祈りを捧げる雛森(木村佳乃)。その顔はまさにエクスタシーそのもの。
ほのかに紅潮した顔、潤んだ目、月明かりを見つめるその顔はセックスでエクスタシーを感じている女性の顔です。
これには痺れました。
恐ろしいほどの役者だということを見せつけられました。
木村佳乃に役者サイコパスを感じる瞬間です。
この顔を見るだけでもこの映画に行く価値は十二分にあるでしょう。


映画としては大して面白くありません。
しかし木村佳乃をはじめとする役者達の演技は素晴らしいの一言です。
是非、劇場にて。