喋れども

しゃべれども。


#7/6

高校の友達の結婚式の二次会に出た。

友達はいろんな事があったけれど、幸せそうだった。

誰もが差し障り無く、未来は明るいんだぜって信じられる空間。

僕はいろんなことを話したかったけれど、

何が適当なのかよくわからなくて困っていた。

ただ、とにかく不幸なことが、あいつと僕に決して起こって欲しくないなって、そればっかりを思った。

「○○さんより早く死なないでください」

って、僕と彼の共通の友達がスピーチした時に

少しだけ会場が静かになった。



暗いことからは目を背けずに

それでもちゃんと幸せになってくれよ。


             


#7/14


お引越しをした。

といっても、同じ敷地内の違う棟の家に移っただけ。

学校を卒業してから、一番最初に始めた仕事場の友達がアルバイトで手伝いに来てくれて、

わっせわっせと家具や、防音部屋の資材や、ギターや昔書いた恥ずかしい手紙の山などを

どんじゃら
どんじゃらと、
新しい部屋に積み重ねまくり、

やがて天井近くまで積み重なった荷物やなんやらの山が作られた。

これはもう部屋の形を成した地獄の山なんだね。

そう誰かが呟いて、友達と二人でさっきまで僕が住んでいた部屋に戻って、買ってきたジュースを飲みながら女の子や服の話をした。

雷雨が止むまでと言っていたけれど、雨が降ると涼しいので「ほどほどに降っていたほうが良いねー」なんて話もした。

雨が止んでしばらくして友達は帰った。


夜は「握月」のみんなとスタジオに入った。

明日は僕らの記念すべき日だ。


#7/15

目が覚めた。

視界に天高く積まれた孤高のガレキが見えた。

目を閉じた。



#7/15

目が覚めた。

お腹が減っていたのでご飯を食べることにした。

お台所に行こうとすると、そこに行くまでに通過する部屋から誰かの寝息が聞こえた。

女の子だ!

違う。

とりあえず、台所に行くまでその部屋を通ると、その人を起こしてしまう危険があるので、僕は外に出て、近くのコンビニへご飯を買いに行った。


戻って来て自分の部屋でご飯を食べていると、「おはよう」と声がした。

僕は扉を開けていたままだった。

「おはようございます」

「なんだその部屋は?」

「地獄です」

彼は寝起きのままだったので、両目が二重だった。

「まだしばらく大変だな」

「少しだけ発狂しそうです」

「手伝えることがあれば言えよ。隣人のよしみだ」

「ありがとうございます」

彼は廊下を歩いて行った。


僕はギターをしょって、
カバンを肩から下げて、
もう一つカバンを手にぶら下げて
靴を履いた。

「そうだ」

奥の部屋から声がした。

「今日ライブだろ?」

「そうですよ」

「がんばれよ」


僕は敬礼のような事をした。

確実に彼には見えていない。



柏市に着いた。

そして、柏ALIVEまでの道を歩いた。

僕が3年前に歩いた道。

3年前は、アコーステックギターを持って歩いた。

季節は冬だった。

「学校」という、社会であって社会じゃない場所から、本当の世の中に放り出される3ヶ月前だった。


扉を開けて室内に入ると、もうステージに上がってギターをセッティングしている人がいる。


室内の端に僕は座った。

「どうも、握月ですが」

受付の方から声がする。

西田さんが入ってきた。

あ、「握月」のドラムです。


「おー」

「はいー」

とりあえず会釈。

西田さんも床に座った。
ステージではまだギターを誰かがセッティングしている。


「じゃすてぃす?」

受付の人の声がした。

僕はだれが来たのかすぐにわかった。

「えーと、握月なんですけど…」

「え?!そうなの?」

受付の人が笑った。

「どうもー」

中野くんが来た。

あ、彼はギターです。

床にすわって、僕のより何倍も重いギターを床に横たえた。

少しだけ室内に人が増えてきた。


「うっす」

あまり間を置かずに、由宇さんが赤いベースケースを背負って現れた。

なんだかんだの勢揃い。

僕はちょっと手が震えていた。



柏ALIVEは二階にあるライブハウスで、

控え室から外の眺めは、西陽が国道を染めていたり、

車の排気ガスがブスブスと空へ消えていく感じである。

僕が生まれて初めて味わったライブハウスの控え室の匂いは、

3年経ってもあまり変わってはいなかった。


僕らを見に来てくれていたのは4人だった。

寝坊してこれなかった人がいたり、
仕事が入って来れなくなった人がいたりしても

4人の人が僕らを見に来てくれるのは嬉しいなと思った。

僕は歌うことにした。


入場する前に、僕は入場SEをかけて入りたいと思ったので、

戸川純の
「赤い戦車」という曲を流した。

ステージに向かおうとすると、「君は最後が良いよ」と由宇さんに言われて、最後まで待った。

みんなが赤い照明の中に溶けていく姿が、僕の方から見えた。


僕はここで何をするんだろう

今から何をしなければならないんだろう


そうやって今も、これまでもずっとステージに立って考えていた。

目の前には人の気配。

無数の人の気配。

どれが本当に生きている人間で

どれが僕の知らない世界の人なのか分からないステージの向こう側。

僕に考える時間があまり残されていない事を

消えていく戸川純の声に教えられた。


力のかぎり叫んだ。

目の前には生きている人たちの姿だけが、吹き飛ばされいく爆風のような光の中に浮かんだ。

眼は僕の方を見ていた。


どこまでいっても

どこまでいっても


僕はこんな風にするしかないんだなーって

そんな風に思った。




僕のバンドの初ライブ。

それは、5曲のうち1曲目で僕のギターの弦が切れて、


シンバルが落ちて、


2、3、4曲目でいろんな人たちの目を見て叫んで

4曲目の終わりでもう一本の僕のギターの弦が切れて

どうしてもやらせてくださいと言って、

一番初めの曲で使った、3弦の無いギターを弾いて

チューニングもぐちゃぐちゃで
弾けば弾くほどいびつな音しか鳴らないギターをかき鳴らして

歌って

転んで

立てかけてあった2本目のギターが倒れてきて頭にぶつかった。


「ありがとうございました」


僕がそう言って、
見ていた人達が拍手して、

場内にBGMが流れ出した。


僕らのライブは終わった。


見てくれたみんなにお礼を言いに行った。

もしかしたらもう来ないかもしれない。

だから、とにかく「ありがとう」と言った。

最初から最後までを見てくれる人に出会える幸せは、誰だって欲しいんだ。



「握月」のみんなは、僕を責めなかった。

「おつかれー」

「また次のスタジオでー」

西田さんも由宇さんも、夏休みが終わってまた学校で会おう、みたいな顔をしていた。

「そんじゃ、ありがとうな」

中野くんはそんな事を言って、駅で別れた。








$akugetuさんのブログ


7月29日(月)
浅草KURAWOOD
MAP
open/18:30
start/19:00
ticket/1000

「上野まさとしと後藤秀逸(ザ・魂ズ)の肉い奴等 ~barKURAWOOD~」

w/
上野まさとし /
平間亮(NIGERUNA)/
たくま(握月)
後藤秀逸(ザ・魂ズ) /


たくま弾き語りライブ。20:00より20分出演。



昔からの縁の、後藤秀逸(ザ・魂ズ)くんに誘ってもらいました。

ありがとうー。

よく見たら4組中3組がバンドを普段やっているけれど、弾き語りで出航してきているという日。

終演後21:00~22:00までオープンマイクがあるので、ライブは間に合わないけどその時間なら間に合うぞーって人は歌うために来てください。


フードで肉が出るらしいですよ。

ルフィが宴会で食べてるみたいなデカイやつだろうか。



7月22日(月)
大久保水族館
MAP
open/19:30
ticket/1000+1D

w/
長沼ハピネス
タモン
モナ


たくま弾き語りライブ。20:00以降より30分出演。



一人で歌う日。

友達の長沼ハピネスさんも出るので、もしも僕を見に来た人で彼の事を気に入った人がいたら

彼に「ありがとう」

といってください。

僕は彼の歌を始めて聞いたとき、ステージの上からそう言いました。