#10/11
間違ったことはもうしたくない。
それは、年齢が経てばより思う事だったりする。
よりしたたかになって、多少利己的になっても、自分に害がないように立ち回りたい。
そう思う気持ちは僕も同じである。
それでも、これは例えば間違いだったとしても、
した方が良いなと思うこともある。
職場で後ろの席の、僕からしたら少し歳がはなれたお姉さんぐらいの歳の女性がいる。
いつも何故か、ことあるごとに飴やらチョコやらをくれて
なんか子供になった気分になるのだ。
(女性の方でこの先の文章を読んで、気分を害される方がいたらごめんなさい。
でも、ちゃんと書かないと状況を理解していただけないと思うので、
あくまでも必要なことだと思って書きます)
その人は、異性の人からモテたり、好かれたりするような風の女性ではない。
それを分かってて、その人に男友達みたいな感じで接したりして、普通に失礼な感じの事
を言う先輩もいた。
その人は決して泣き寝入りするわけでもなく、全く負けじと言い返したりしている。
小学校、中学の教室であるような光景は、
会社のオフィスでもあるんだな。
それを見て、今まで作業服を着て現場作業員の仕事しかしたことのない僕は思った。
その日も僕は、なんか普通に働いていたら、
「たくまくん、これどうぞ」
と後ろから、その人がのど飴をくれた。
僕はなんかお礼をはっきり言ったんだかどうか分かんない感じで曖昧に頷いていた。
そして定時が近づいてきた頃、ふと思ったことがあった。
なんかこれ、僕にとって当たり前になってないか?
すごく当たり前の様に優しさを受け取って
当たり前の様に笑いかけてもらったり
全然自分でそんな風にしてたつもりはなかったのに、
いつの間にかその人がそうしてくれる事が、
僕にとって空気がいつでも吸えるみたいに当たり前な事になっていた。
でも、それは全然勘違いで
その人は「そうしようとして」そうしているんだ。
誰だって、誰かに優しくしようとして、
実際に優しく出来ているかっていうと、たぶんそんな事はない。
いつも悪ふざけを言われたり
小馬鹿にされたり
どうしてか分からないけれど、
そんな目にばかり会っても腐ることなく、そういう風に出来る人がいる。
そんな立場に立った時の僕は、
喚き散らしたり、逃げたり、人のせいにして色んなものを失った。
なんかしなきゃ、と思って何か出来たこと。
それがどれだけあるのか。
売店にきた僕は、始めて職場の地下の売店が16時までしか空いてないことを知った。
買いたいものは基本いつも家の近くで買ってから出勤しているのだ。
どうしよう、と思っても、
のど飴と、差し出された手に準するものが僕には無い。
金で解決したくても、
もう40分も前にそのチャンスを逸してしまった。
仕方なく自分の机に戻ってきた。
その人は頑張って自分の仕事に没頭していた。
それでも何とかしたいと思いながら、結局終礼になった。
それが終わってから、その人はごみ捨てに行った。
僕の職場は、女の人だけ終礼あとにごみ捨てに行くルールがある。
僕の隣の方も、同じようにごみ捨てに行った。
その時に僕は、
頑張って何かしたいと、思いながら、
のど飴の包みを持って、その人のところに近づいた。
「あの」
その人は、え? と僕を見る。
「喉がほんと、調子悪くて困ってて、これ本当に助かりました、ありがとうございます」
僕は、たぶんそうやって誰かを今まで困らせてきたんだろうな、と思う。
「」
その人がなんて言ったのかは覚えていない。
たぶん、ありがとう、とか、どういたしまして、
っていう、普通の言葉だったと思う。
表情はよく覚えている。多分一生忘れない。
いつも見ていた、他の先輩とふざけている時の顔じゃない、
心の底から柔らかくなっているような表情だった。
「……たくまさん、それを言うために、わざわざ?」
一部始終を近くで見ていた別の先輩がきょとんとしている。
僕はとまどい、
「あ、えーっと……」
と、のど飴の包みを見せた。
「あー……ついで、って事ですか?」
「えー……はい」
「……どっちがですか?」
僕が答える前に、横から元気の良い声がした。
「それがだろ?!」
その人は、のど飴の包みを指差し笑っていた。
間違ったことはもうしたくない。
それは、年齢が経てばより思う事だったりする。
よりしたたかになって、多少利己的になっても、自分に害がないように立ち回りたい。
そう思う気持ちは僕も同じである。
それでも、これは例えば間違いだったとしても、
した方が良いなと思うこともある。
職場で後ろの席の、僕からしたら少し歳がはなれたお姉さんぐらいの歳の女性がいる。
いつも何故か、ことあるごとに飴やらチョコやらをくれて
なんか子供になった気分になるのだ。
(女性の方でこの先の文章を読んで、気分を害される方がいたらごめんなさい。
でも、ちゃんと書かないと状況を理解していただけないと思うので、
あくまでも必要なことだと思って書きます)
その人は、異性の人からモテたり、好かれたりするような風の女性ではない。
それを分かってて、その人に男友達みたいな感じで接したりして、普通に失礼な感じの事
を言う先輩もいた。
その人は決して泣き寝入りするわけでもなく、全く負けじと言い返したりしている。
小学校、中学の教室であるような光景は、
会社のオフィスでもあるんだな。
それを見て、今まで作業服を着て現場作業員の仕事しかしたことのない僕は思った。
その日も僕は、なんか普通に働いていたら、
「たくまくん、これどうぞ」
と後ろから、その人がのど飴をくれた。
僕はなんかお礼をはっきり言ったんだかどうか分かんない感じで曖昧に頷いていた。
そして定時が近づいてきた頃、ふと思ったことがあった。
なんかこれ、僕にとって当たり前になってないか?
すごく当たり前の様に優しさを受け取って
当たり前の様に笑いかけてもらったり
全然自分でそんな風にしてたつもりはなかったのに、
いつの間にかその人がそうしてくれる事が、
僕にとって空気がいつでも吸えるみたいに当たり前な事になっていた。
でも、それは全然勘違いで
その人は「そうしようとして」そうしているんだ。
誰だって、誰かに優しくしようとして、
実際に優しく出来ているかっていうと、たぶんそんな事はない。
いつも悪ふざけを言われたり
小馬鹿にされたり
どうしてか分からないけれど、
そんな目にばかり会っても腐ることなく、そういう風に出来る人がいる。
そんな立場に立った時の僕は、
喚き散らしたり、逃げたり、人のせいにして色んなものを失った。
なんかしなきゃ、と思って何か出来たこと。
それがどれだけあるのか。
売店にきた僕は、始めて職場の地下の売店が16時までしか空いてないことを知った。
買いたいものは基本いつも家の近くで買ってから出勤しているのだ。
どうしよう、と思っても、
のど飴と、差し出された手に準するものが僕には無い。
金で解決したくても、
もう40分も前にそのチャンスを逸してしまった。
仕方なく自分の机に戻ってきた。
その人は頑張って自分の仕事に没頭していた。
それでも何とかしたいと思いながら、結局終礼になった。
それが終わってから、その人はごみ捨てに行った。
僕の職場は、女の人だけ終礼あとにごみ捨てに行くルールがある。
僕の隣の方も、同じようにごみ捨てに行った。
その時に僕は、
頑張って何かしたいと、思いながら、
のど飴の包みを持って、その人のところに近づいた。
「あの」
その人は、え? と僕を見る。
「喉がほんと、調子悪くて困ってて、これ本当に助かりました、ありがとうございます」
僕は、たぶんそうやって誰かを今まで困らせてきたんだろうな、と思う。
「」
その人がなんて言ったのかは覚えていない。
たぶん、ありがとう、とか、どういたしまして、
っていう、普通の言葉だったと思う。
表情はよく覚えている。多分一生忘れない。
いつも見ていた、他の先輩とふざけている時の顔じゃない、
心の底から柔らかくなっているような表情だった。
「……たくまさん、それを言うために、わざわざ?」
一部始終を近くで見ていた別の先輩がきょとんとしている。
僕はとまどい、
「あ、えーっと……」
と、のど飴の包みを見せた。
「あー……ついで、って事ですか?」
「えー……はい」
「……どっちがですか?」
僕が答える前に、横から元気の良い声がした。
「それがだろ?!」
その人は、のど飴の包みを指差し笑っていた。