札幌から電車で4時間半はかかる、釧路に住んでいること。健康診断で異常を指摘されたものの、再検査した病院ではマンモグラフィ(乳房レントゲン)では異常は見つからず、別の病院で受けなおしたエコー(超音波)検査で2.5センチのしこりが見つかったこと。40歳未満の若年性乳がんであること。

 

抗がん剤治療が必要なトリプル・ネガティブ乳がんであること。術前の抗がん剤治療を勧められたものの、治験となり、効果がなかったときなどを考えて、セカンドオピニオンとして札幌の病院にやってきたこと。病院を行き来しているうちに3.5センチまでしこりが大きくなってきていたこと。離婚していて、小学校3年生と6年生の息子がいること。母親が自分に付き添っていることから子供は知り合いに預けてきたこと・・・。

 

乳がん手術での入院は3日~10日前後と短期間だ。その後半年以上続く、抗がん剤治療での通院の方がずいぶん長い。そのたびに札幌に来なくてはならないが、子どもを預けるところがない、と彼女は悩んでいた。親には迷惑はかけられない、と。

 

休職手当は出るものの、シングルマザー。いつまで休職すればいいかの見通しもこの時点ではたっておらず、収入には不安が残る。退院してからの生活への不安を次から次へと口にした。

 

私はひと足先に退院し、その1週間後に恵理さんも退院し、いったん息子たちが待つ釧路へ戻った。しかし、そこから半年もの間、恵理さんは3週間に一度抗がん剤の点滴を受けるために札幌に通い始めた。時には飛行機、時には列車、時には自家用車。

 

私は札幌で彼女が来るのを待っていた。