患者の一歩

 

『涙がとまらん・・こわい。もう身の危険を感じるレベル。長男が暴れ目になってしまって(汗)』 

 

恵理さんからの深夜のLINE。

 

彼女は39歳で乳がんにり患、ADHDと診断されている長男と次男と暮らしているシングルマザー。彼女に出会ったのは、札幌市内のクリニック。私も同じときに両側乳がんで入院・手術。“合宿生活”を送ったいわゆる“がん友”だ。私はこれまでに長年、乳がん患者の取材をしてきたが、中でも彼女は病だけではない、厳しい環境に置かれていた、と思う。

 

2019年7月、クリニックの談話室で高齢の女性に話しかけられた。恵理さんの母親だった。しばらく話していたらひっきりなしに携帯電話を触っていて、近寄りがたい雰囲気の女性を呼んだ。

 

『えり、こっち来て話せばいいっしょ、元気もらえるよ。』

 

ちょっと面倒くさそうに携帯電話をしまい、私たちの輪の中に入ってきた。でもそこから5時間。ひとしきり身の上話を聞いた。思ったより明るい人だった。

 

(続く)