家を出る時は激しい雨だったが、蔵前で降りてみると晴れていて木馬亭近くでまた降り出した。
 今日は男流だけの出演という企画公演。ソーシャルディスタンス席で60近い入りは、企画のせいもあるが、珍しいネタが出たこともあろう。ともかく素晴らしいことだ。

🔵三門綾・沢村豊子→楽屋草履
🔵東家恭太郎・水乃金魚→鰍沢
🔵澤勇人・沢村美舟→新門と梅ヶ谷
🔵浜乃一舟・東家美→石童丸
🔵東家孝太郎・沢村豊子→幡随院長兵衛〜長兵衛の最後(市川俊夫脚色)
🔶田辺鶴遊→梅津木全〜梅津の竹刀売り
🔵東家一太郎・東家美→浪曲番外地〜雪の網走
🔵港家小柳丸・沢村美舟→梶川屏風廻し

➡︎声がしっかり出ていることが大切ということなのだろう。三門先生の系譜を継ぐ大切な人だ。慌てることはない。

➡︎鰍沢は生では初めて聞く。落語の鰍沢をコンパクトにまとめ、終わりに3年後のお熊と大工新助(落語ではお店の息子新助)の再会を描き仇に報ずるに恩をもってすと浪曲らしい結末にしてある。
 二代浦太郎師匠の節が恭太郎さんを通してうっすら感じ取れるが、やっぱり浦太郎師匠で聞けたらなあと思ってしまう。

➡︎勇人さんは景友さんの代演。胴声を出す喉の使い方は大変なのだろう。出だしは「どうなっちゃうんだろう?」と心配になるほどのガタつきぶりだったが、エンジンがかかってからは次第に節・啖呵ともに持ち直し、最後の方は60%の出来くらいまで戻された。台本は「梅ヶ谷江戸日記」とほぼ同じ。

➡︎刈萱道心と石童丸の物語は古い説教説話が元にっており、文楽の「刈萱道心筑紫いえづと(車偏に旧字の栄)」や説教節「石童丸」などに残っている。
 今日の口演は歌謡浪曲の形をとっていた。また石童丸が息子だと分かる過程が種明かし風になっていて、文楽と違っていて興味を引いた。
 一舟師匠は86歳にして初演と仰り楽しそうだったのが印象的。

➡︎孝太郎さんの長兵衛の最後は、赤坂の会でも連続読みの最後を飾った演目。水盃で長兵衛を送り出す女房お金の覚悟が切なく、水野の槍を我が腹に突き立てる長兵衛の最後が凄まじい。

➡︎琴柳先生で今年初めに聞いた演目。また琴柳先生の師匠小金井蘆洲先生の音源でも。演題は「巷説長門鍔」。
 鶴遊先生の今日の口演は竹刀売りに立ち至ったこれまでの経過を簡単に触れられたので、なるほどと思った。

➡︎一太郎さんの今日の演目は四年前に赤坂で演じてもらったことがある。浦太郎師匠が若い頃演じた時に使われたという玩具の拳銃を、一太郎さんが実際に口演でお使いになったのを思い出す。
 その時は面白いネタだと思ったが、今日聞いてみるとさほどでもなく、歴史的位置付けだけの演目のように感じた。

➡︎この演目は二代春野百合子師匠の「梶川大力の粗忽」が本当に素晴らしい。また講談で聞くと緊張感が溢れまた素晴らしい。
 小柳丸師匠でこれを聞くのは初めてと思うが、外題付での引き締まった感じで期待を膨らませたが、やはりいつものように丸みのあるもっちゃりした節に流れて、私としては好みでないので少し残念。

 男流が少ない中で、このような企画はまた楽しみに待ちたい。