炭屋山口屋善兵衛は昌平橋で身投げしようとする男を助け、店に連れて帰って話を聞く。男は名を多助といい、浪人していた実父も上州で庄屋をする養父も同姓同名で塩原角右衛門。養父の後妻に毒を盛られそうになったので、実父を探すために国を出て江戸へ来たという。善兵衛の娘のお糸も同情して頼むので、多助は山口屋で働くことになる。
    恩を感じて誠実に働き2年が過ぎた頃、多助は突然善兵衛に暇をくれと申し出る。善兵衛が事情を聞くと、多助は実の父母に会えたのだ。実父は戸田家に仕えていたが、無断で国を出たことを詰り「一人前になるまで来るでない」と槍を突きつけて多助を追い払ったのだと言う。多助は横網町に店を借りて商売を始め一人前になろうと思うと善兵衛に話す。
    善兵衛は承知し支援を約束した上に、お糸と夫婦になれと言う。「普段振袖を着ているようなお嬢さんじゃ商売はできない」という多助に、お糸は包丁で振袖を切り裂いて決意を示す。
    多助は商売に成功し、その名を知られる大商人となる。