今日の木馬亭はなかなかの入り。
奈々福さんのNHKラジオ放送を聞いて初めて木馬亭にきた方もずいぶんいた。
🔴国本はる乃  「吉良仁吉」
🔵澤勇人         「新門と梅ヶ谷」
🔴玉川奈々福  「茶碗屋敷」
🔴大利根勝子  「雪の夜話」
🔴天中軒涼月  「豊田佐吉」
🌼神田阿久鯉  「藤井紋太夫お手討ち」
🔴玉川こう福  「祐天吉松」
🔴澤孝子         「春日局」

はる乃さんの吉良仁吉は荒神山の間違いの前段の仁吉の離縁場を描く。穴太徳に荒神山の縄張りを奪われた神戸長吉が兄弟分の仁吉を頼ってやって来る。話を聞いた仁吉は穴太徳の妹である女房を離縁して長吉のために立ち上がる。仁吉のやくざっぽい啖呵も声が少し高いのはやむを得ないがなかなかのもの。これでまだ年季明け前だから末恐ろしい。

勇人さんの梅ヶ谷。梅ヶ谷が両国橋でお調子者の江戸っ子に絡まれ、そのとばっちりを食って傷を受けた御薦に謝り迷惑料を払う。その夜御薦の頭がお礼の酒を持ってやって来て、その酒を飲んで見せたのを見届けて頭は翌朝迎えに来ると約束。頭は実は新門辰五郎で勝っても勝っても人気が出ずに腐っていた梅ヶ谷の贔屓になる、という話。よくかけいるだけあって安心して聴ける。

奈々福さんの「茶碗屋敷」は落語の井戸の茶碗だが以下で主に異なる。①人物名は浪人が高木さだゆう(文字不明)で娘は菊、細川藩士は吉田武左衛門で郎党ではなく夫人と住んでいて、屑屋は与兵衛。②五十両は屑屋に案内させて武左衛門自ら高木宅に届け、1度目で大家が仲介。③高麗片口の茶碗であることを見抜くのは友人の茶人。④武左衛門は褒美の三百両ではなく高木の召抱えを望む。⑤清正公様での屑屋たちの語らいはない。曲師は沢村美舟さんで、まだまだながら力強い三味線だった。この人もまだ三味線を習って1年経たないとは思えない。奈々福さんはラジオ放送を聞いて来てくれた人も意識したのかすごく気合の入った口演。

中入り前の勝子師匠の「雪の夜話」は13年ぶりに会う兄弟の話。上海の工場での事故で片腕を失って、薬剤師の兄三村けいぞう(文字不明)の家を吹雪の夜訪れた弟けいじろう(文字不明)。兄嫁はけいじろうを蔑んで家に泊めるなと言い、妹と外出。ここから弟を泊めないように断ろうとする兄と、兄の真意を見抜き怒り悲しむ弟の対立。そこに解熱剤と劇薬を間違えて処方してしまった兄とそれをかばう弟の話と、処方の誤りが大事に至らず兄夫婦とも和解し兄嫁の妹と弟が結ばれるというハッピーエンドで終わる。色々欲張りに詰め込みすぎた話という印象。

涼月さんの豊田佐吉はご自分と同じ湖西市出身の偉人の話。大工の倅佐吉が母の支援を受けながら自動織機を発明するまでの物語。涼月さんに余裕も感じられた。こういう話は涼月さんのいいところが出ている。

阿久鯉先生の話は柳沢昇進録からの抜き読み。もう十八番と言っても良い演目だ。水戸光圀が小姓から引き立てた藤井紋太夫が、光圀が生類哀れみの令に反して五代将軍綱吉に犬の毛皮を献上した事件をきっかけに柳沢吉保と謀って水戸家をほしいままにしようとする。これを知った光圀公が紋太夫を御手討にする話。

こう福さんの祐天吉松は福太郎師譲りで、本ブログでも以前取り上げた。

孝子師匠の春日局は何度聞いても名品。台本もよくできている。春日局が病に倒れ、三代将軍家光は御典医を遣わすが、局は薬を飲まない。家光は自ら局の屋敷に乗り込み薬を飲むように言うが局は事情を話す。ここから局の回想で家光の乳母に召された時から、世継ぎ問題で駿府の家康に直訴したこと、家康の鶴の一声で家光が世継ぎと定められたこと、一安心も束の間家光が疱瘡にかかり命も危うくなった時に局が薬断ちを誓って神仏に家光の回復を祈ったことが振り返られる。嘆く家光に看取られて局は65歳の人生を終える、という話。