透明な箱の中にいた実在した人物たち『リーマン・トリロジー』 | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

ナチュラル・シアター・ライブ『リーマン・トリロジー』をBunkamura ル・シネマで観ました。

『リーマン・トリロジー』は、2022年のトニー賞で演劇作品賞、演劇演出賞、演劇主演男優賞、照明デザイン賞、装置デザイン賞の最多5部門を受賞した作品です。

誰かが書いていました。主演男優賞を受賞したのは、サイモン・ラッセル・ビールだけれど、アダム・ゴドリーもベン・マイルズも受賞に値すると。
まったく意義なし! の3人でした。
トリロジーの意味は3部作。
舞台は3幕構成。
出演者は3人。

そして演出はサム・メンデス。日本では『007』シリーズなど、映画監督として彼の名を知る人の方が多いかもしれません。

『リーマン・トリロジー』は、巨大な投資銀行グループを展開していたリーマン・ブラザーズの歴史を描いた作品。
リーマンと聞けば、誰だって、リーマンショックという言葉を思い出すでしょう。あのリーマン・ブラザーズです。
リーマン・ブラザーズは2008年に経営破綻しています。

その名の通り、兄弟で立ち上げ、その子や孫に引き継がれていったリーマン一族の150年を超える業績とそれを培った人物たちを見せる大河ドラマでした。

なんといっても3人の役者がすばらしいのです。
とてつもなく上手い。
基礎的な技術はもちろんあって、複雑な動きもあって、
でも常にそこに、その時代にいる人として、とても生っぽく演じていることが素晴らしかった。
舞台装置や衣装も小道具も削ぎ落されていてカラフルではないのに、
そこに生きる人がこんなに生っぽいというのはなんだろう。
歴史として紐解く一族の話でありながら、

存在した人たちであること、時代や経済を生身の人間が動かしてきた人たちがいたことを、見せつける力に満ち満ちていたのです。

彼らは子どもから大人まで、演じます。
トニー賞を受賞したサイモン・ラッセル・ビールが演じた、天才的(で生意気)な子どもは、本当に子どもに見えるのです。
だから笑いも起きるのですが、それは、彼の演技がユニークだから笑うというよりは、こういう生意気で大人が舌を巻くような子どもを目の前にしたら、大人って笑っちゃうよね……のほうの笑いに近い気がしました。

つまり、実在する人物を目撃したような気持ちになるのです。

さらに特徴的だったのは、彼らが入れ替わり立ち替わり様々な役を3人で演じつつ、ストーリーテラーもそれぞれがするという構成。
わかりやすく言うと、セリフの前のト書きも本人が読んでから始めるような流れです。

それは朗読劇ならよく見かけるかもしれないけれど、動きながら、演じながらの場合はよりトリッキーでした。
それを3人がするのです。 
粋を集めるというのはこういうことを言うのだろうなぁと、
観れば観るほど思いました。

舞台装置もすばらしかった。
トニー賞を受賞したということを知らなかったとしても、
この作品を観れば、この舞台装置、美術がすばらしかったことに
誰もが気づけます。
透明な箱が場面ごとに、ゆっくり、ぐるりと回転します。
次の場面に移るとき、物語の主がするりとバトンタッチされる感じもまた次はどんなことが起こる?と、観るものに期待を与えてくれるよう。

それでいて、その透明な箱の中で行われていることを
観客は俯瞰して観ている感じを常に意識させているようにも思えます。
すべてのことは、こうして透明な箱の中で起きていて、
それがブラックな出来事だったとしても、
本当は透明な箱の中の出来事で、
気づかないのはその箱を見ようとしなかっただけだからでしょ
なんて、言われているんじゃないか、そんな気にさせられるような。

映画館でイギリスの公演が観られたわけですが、
2回の幕間の客席の様子も観られたのが嬉しいような、面白いような……でした。
イギリスの観客も暑いとパタパタと仰ぐのね、とか、
こう見るとやっぱり日本のあの化粧室ダッシュの感じって異様な光景かもね、とか。

『リーマン・トリロジー』観れてよかった。
東京での上映は終了してしまいましたが、
7/22(金)〜7/27(水)アップリンク京都で限定公開が予定されています。


☆『リーマン・トリロジー』を整理収納アドバイザー目線で書いた
「バンカーズボックスが大活躍の舞台」という記事もよかったら・・・・・・。