窮屈さと安定を照らしてくれた『鈴虫のこえ、宵のホタル』 | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

この年末年始、実家に帰らなかったという人は、劇場にどれくらいいたろうか。

チーズtheaterプロデュース公演『鈴虫のこえ、宵のホタル』を下北沢OFF・OFFシアターで観た。

登場人物は高田家の三姉妹、長女 綾子(藤村聖子)、次女 恵子(大浦千佳)、三女 加奈(辻凪子)。母を亡くし、通夜と葬儀のために顔を合わせた三姉妹は、歯に衣着せぬ会話を交わす。
長女は長女らしく、次女は次女らしく、三女は末っ子らしく。
らしく……というのは、自然にそういう態度になる本性と、知らず知らずのうちにそのポジションを演じている、いやそれにはめている姿にも見える。

女なのだから、お姉ちゃんなのだから、男なんだから、親らしくとか、きっと人は誰しもそんな型にはめられることを苦々しく思いながらも、自らそう慣らしていくことがある。

高田家の三姉妹もそんな風に見えた。
そこには究極の窮屈さと安定がある。
矛盾しているけれど、きっとそう。

三姉妹を演じた三人の女優が、窮屈さと安定をのびのびと演じていた。
書けば書くほどなにか矛盾しているけれど、そうなのだから仕方がない。

姿はないが、この物語には、彼女たちの母と父と祖母が出てくる。
彼らがどんな容姿をしているのか、想像しながら物語を見続けた。
私の場合、その容姿は遂に具体化はしなかったが、「高田さん家のお母さん、この間ああ言ってたよ」
「高田さん家のおばあちゃんね……」と、誰かに話したくなる衝動にかられた。

噂話なんて下品なことはやめなよ!と思うだろうか?
いや、そうじゃない、家族が家族を気にすること、お隣さんを気にすること、離れて暮らすあの人を気にすることって、悪いことばかりじゃないと思うから。

そういう私は、今朝ちょうど実家の母と電話で話した。
なんてことない会話だけど、歳を重ねたからこそ出来る、誰かのことを気にかけている話をした。

『鈴虫のこえ、宵のホタル』は、その朝の電話の時間を仄かに照らしてくれた気がする。
舞台を観て、久しぶりに家族の声が聞きたくなった人の気持ちも仄かに照らしてくれるだろう。



〈公演日程〉
2020年1月7日(火)~1月9日(木)
下北沢OFF・OFFシアター