代わりに言いたくなる『嘘と勘違いのあいだで』 | 拝啓、ステージの神様

拝啓、ステージの神様

ステージには神様がいるらしい。
だったら客席からも呼びかけてみたいな。
観劇の入口に、感激の出口に、表からも裏からもご一緒に楽しんでみませんか。

拝啓、ステージの神様。
こういうトリップ、いいですよね。

劇場は六本木のトリコロールシアター。
赤を基調にしたコンパクトな劇場で『嘘と勘違いのあいだで』の世界観にピッタリ。
あ、でもこの作品の原作はアラン・エイクボーンで、舞台はイギリスだけれど。

出演者は4人。
グレッグ(辻本祐樹さん)とジニィ(新垣里沙さん)のカップルと、フィリップ(栗原英雄さん)とシーラ(水夏希さん)の夫婦。
2組の……とは言いきれないのが、この作品の面白いところ。
人物相関図を書いたとしても、なんだか一筋縄ではいかないのだ。
それはタイトルの通り、嘘と勘違いが絶妙に絡まるから。
これでほどけるよね、と思ってもアレレ余計にこんがらがるじゃん!となる。

結果どうなるか……。楽しくなる。
「うん、もぉ~っ!」なんてちょっとじれったく観てたのに、段々と、
「いいぞ、もっと絡まれ~!」なんて他人事だから笑って煽ってしまうのだ。

そう、他人事。それが愉快で軽快な気分にさせてくれる。
クスクスッと笑って、やだぁ、私だけが笑ってる?と思ってると、また別の場所で隣の人と同じところでハハッて笑うタイミングが合ったりして。
何よりいいのは、この舞台の4人が決して力業で笑わせたりはしていないこと。
あるでしょ、たまに、力業(笑)。
まあ、それが楽しい時もあるけどね。

約2時間、ものすごいセリフ量だけど、
例えば「辻本さん、頑張ってたよね~」なんて言わせない。
代わりに、グレッグみたいな男ってさぁ~とは言いたくなるかも。

「新垣さんって、ああいうお芝居するんだね」なんて言わせない。
代わりに、ジニィみたいな女の子はね……とは言いたくなるかも。

「栗原さんは、さすがに巧いよね」なんて言わせない。いや、巧いけど。
代わりに、フィリップってどうなのよ?とは言いたくなる。

「今回の夏希さんはさ……」なんて言わせない。いや、あえて言わないで!
代わりに、シーラみたいになれる?とか、とは言いたくなる。

そう、そういうこと。
この世知辛い世の中では、嘘と勘違いでは済まされないことが増えているような気もするけれど、この約2時間のうそかんトリップは、クセがあるけどなんとも後味がいい紅茶や珈琲を飲んだみたいな気分にさせてくれる。


写真は翻訳・日本語上演台本・演出を手がけられた保科由里子さん。保科さんが手にしているパンフレットの中で、座談会の原稿を担当させていただきました。
稽古場写真がいっぱい掲載されているので、ファンの方は特に嬉しくなるページ構成です。

〈公演日程〉
2019年7月17日(水)~7月28日(日)
六本木トリコロールシアター