おはようございます。


中学時代の同級生。

毎日一緒に帰っていた親友のこと。正確には幼稚園から一緒だった。でも、毎日を一緒に過ごすようになったのは、中学2年の終わりからだった。




彼女と出会ったことは私の人生において転機だった。全てを投げ出したくなった思春期真っ直中で彼女と会い、放課後の苦しい時間が幸せに包まれた。



放課後が待ち遠しくて、チャイムと同時に理科室に駆け込んだ。ふっくらした優しい先生と、明るくてよく笑う彼女に会えるのがうれしかった。今日の雨がどの程度の酸性雨なのかをpH測定して、記録する。赤暗い部屋で写真の現像を教わる。理科室で宿題をして、花に水をやって、歌って踊りながら帰る。


帰る道中で咲いている草花の名前を、800ページもある図鑑の中から探す。当時の私の鞄にはこの図鑑だけしか入っていなかった。重すぎて他の物を入れたくないんだもの。なのに花ばたに座り込んで1時間しても結局わからなくて大笑いして帰ったこともあった。ただ、食べられそうな実や、蜜のあまい花を見つけるのは得意だった。


英語が得意な彼女は、スピーチコンテストのために毎日暗記を頑張った。美しい発音を聴いていると、大好きなミスチルを聴いているような心地よさを感じて幸せだった。


自転車の運転が下手な私の後ろに乗ってくれるのは、勇気がある彼女だけ。2人で坂道で大転倒して膝を擦り剥いても、『痛い~』と大きく笑ってくれた。結局先生に2人乗りを見つかって、げんこつをくらってからはやっていない。


ただ、一緒にいたかった。


私は当時から医者になりたいと言っていた。彼女は応援してくれた。『アッキーならなれる。』

私は当時から本を書く人になりたいと言っていた。彼女は『アッキーならなれる。』


中学3年の時、酸性雨の研究をまとめた小さな論文で環境庁長官賞(いまは環境省かな)をもらった。

彼女は、とても喜んでくれた。お祝いに手作りのウサギと、帰り道の桑畑の横で泥のケーキを作ってくれた。


今から考えると、中学生のわりには私たち、とても子供っぽかったね。

2人とも好きな人はいたけれど、告白とか付き合うなんてことは考なかった。


医者になったとき、彼女は喜んでくれた。『アッキーの夢かなったいね!』


長男が生まれたときは、駆けつけてくれた。『アッキー、おめでとう!』


次男が生まれたときに会ったら、やせ細っていた。『アッキー、私、ガンになっちゃたんさ』


病名とか、転移状況とか、あっけらかんと話す彼女。理解していないのではなく、全てを受け入れている。『しょうがないやね、こればっかりは。私の人生に必要だったんじゃない。大丈夫、負けないから。』

彼女と離れたくなくて、念を込めたネックレスをプレゼントした。そしてあの頃のようにただ笑った。

私は医者として、彼女が長くない事を悟った。だから、たとえ緩和治療になろうとも、私が彼女に放射線治療をしようと本気で思った。でもそのときは、友達としてただ一緒に笑った。


群馬での入院が一段落したら中目黒でお花見をしようと言っていていたのに、桜の開花と同時に悲しい知らせが届いた。どれだけ泣いても収まらなかった。


彼女は私が夢を叶えるのを見たいと言ってくれた。

例えばブログの一文で心配してくれたり

例えば雑誌の掲載を数行でも喜んでくれたり

あのときに語った『夢』を実現することを待ってくれていた。いつもブログやコラムを楽しんでくれて、シェアしてくれていた。そしてようやく、今年良い報告ができそうだったのに。どれだけ泣いても、収まらなかった。



泣いていたら声が聞こえた。霊感もないのに、彼女が『書けばいいじゃん』って言ったのが聞こえた。そうだ。私にとって、この悲しみを『泣くこと』と同じくらいコントロールしてくれるのは『書くこと』なのだ。それを彼女は知ってるから、私を楽にしてくれようと思ったのかな。もちろんこれを書いているいま、家族にも見せられない位ひどい顔をしているけれど。シゲチャンが当直で良かったかな。

『いつか私のこと書いてね』って冗談を言っていた彼女の笑顔と声が、ここに来てくれているんじゃないかと錯覚するくらいはっきりと浮かぶ。


ともちゃん、書くよ。

私はプロになるのだから。仕事として、やっとお金をもらうようになったのだから。

形になったら報告に行く。

あ、その前に来週、いつもの教会だね、ちょろっと会いに行かあ。綺麗なんだろうな。


キリシタンの彼女は、マリア様だったのかもしれない。拡大よりも維持、たくさん物を持つよりも少ない物を大切に持つ、彼女がそういう幸せをおしえてくれたことで本当に自分が満たされるようになった。私の人生においては、間違いなく、彼女の手は天からの手だったのだと思う。


人は必ず逝くけれど、あまりに早くて、清い美しいあなただった。生きられることは、当たり前じゃない。生きているだけでありがたい。いつも自分で言ってることなのに、今回は辛かったよ。

ありがとう以外の言葉が見つけられなくて、結局、ありがとうね。



アッキーより。