終末期医療を専門とする医師が、多くの人が死の直前に経験するある共通の現象について明らかにしました。
ニューヨーク州バッファローでホスピス・緩和ケア医を務めるクリストファー・カー医師によると、死期が迫った患者は、生前自分を大切に思ってくれたり、守ってくれたりした人々の姿をしばしば目にするそうです。
カー医師によるこの研究や臨床経験は、ホスピスや緩和ケアの現場で非常に注目されている知見です。
カー医師らの調査・研究によると、死期が近づいた患者が経験する「夢」や「幻視(臨終間際体験:End-of-Life Dreams and Visions / ELDVs)」には、以下のような特徴があることが分かっています。
こうした現象は、従来の医学では「認知機能の低下」や「薬の副作用による幻覚」として片付けられがちでしたが、患者本人や家族の「心の平穏」を取り戻すうえで極めて重要な意味を持つ現象として、近年再評価が進んでいます。
写真:クリストファー・カー(Christopher Kerr)。アメリカ、ニューヨーク州バッファロー・ホスピスの緩和医療の最高責任者。彼を中心とする終末期体験の研究チームは、死を目前にして見る夢やヴィジョンが多くの患者に変容をもたらすことに着目し、その体験の詳細をベッドサイドで聞きとり、医学的基準を満たすデータにもとづく研究を進めている。
これまで医学的には「脳の機能低下による不具合」として片付けられたり、薬で抑え込まれたりしがちだったこの現象について、カー医師は「患者が恐怖を克服し、人生の未解決の課題を整理し、穏やかな死を受け入れるための、人間の自己治癒的でスピリチュアルなプロセスである」と結論づけています。
カー医師の研究の興味深い点は、科学的・医学的なアプローチを通じてその「スピリチュアルな領域」の正当性と価値を立証したことにあります。
宗教的な教義やカルトとして遠ざけるのではなく、人間が命を締めくくるにあたって発動する「高度な心(精神)の防衛・統合メカニズム」として客観的に科学した点が画期的でした。
科学や医学の言葉だけでは捉えきれない「人間の生き様や心の救い」というスピリチュアルな側面を、医療の現場が否定せずに「大切なプロセス」として肯定する姿勢こそが、カー医師の提示した最大の救いと言えます。


