キッチンで牛タンを焼く彼女の旦那と彼女。親子ほども違う夫婦のお持て成しの料理が始まったが、私は連日の疲れでダイニングの窓側に置かれた藤の二人掛けの椅子に横になるとウトウトしてきた。
彼女が枕と毛布を掛けてくれて、キッチンでの夫婦の声を聞きながら眠りに落ちていった。

彼女に声を掛けられて目覚めた時には、明るかった窓は既に厚手のカーテンで閉ざされていた。
ダイニングのテーブルには大皿に盛られた数々の惣菜と赤の種類の異なるワインのボトルが整然とレイアウトされていた。

彼女の声掛けで私はテーブルに移り旦那のトイ面に腰掛けた。

徐にワインの栓を抜く旦那は如何にも手慣れた様で自分のグラスに少量を注ぐと慈しむ様にグラスの中を廻した。ワインの膜が内側を染め香りを楽しむ旦那の目がほくそ笑んで見えた。

やがて皆のグラスに注ぎ乾杯。芳醇な口当たりよいワインだった。

他愛なく当たり障りの無い話が続き、ワインは二本目が開けられたが、二本目からは栓を抜くとそのまま注がれ三本四本と種類の異なるワインが空いていった。

皆、饒舌になっていったが誰もが赤らんだ顔にはなっていなかった。
そんな生活が続き、数ヵ月後の或る日彼女の家に招かれた。

私は彼女を送迎する心優しい常連客と彼女の旦那は好意的な見方をしていて、その頃には旦那とも顔見知りになっていた。

ワイン好きな夫婦は一見穏やかな生活を送っている様に見えたが、彼女が言うにはドメスティックバイオレンスを受けていると言うことだったが、私の目には分からなかった。