菓子屋の仕事は予想以上に大変で

夜になり、菓子を片付け始める頃には


4人はへとへとになっていた。



たたみの上に転がる4人に

温かいお茶が差し出された。


「こんなので疲れているようじゃ、まだまだダメよ?」


いたずらな笑顔を向ける彼女は、

お凛さん。



「ありがとうございます。」


特別美人というわけではないはずなのだが

彼女の笑顔の愛らしさには思わず目を奪われる。



「お凛、おかしなことを吹き込むんじゃないぞー。」


店の方から浅葱の声が聞こえる。



お茶を飲みながら

お凛さんと少し話をした。


お凛さんはもともと、

浅葱屋の近くにある、大店の一人娘だったらしい。


彼女は身分を嫌い

家出をして

武士に絡まれているところを

浅葱に救われ


しばらくかくまってもらっていた。



今は家に帰っているようだが

何かを隠しているような様子だった。



しばらく話をしていると

すくっと立ちあがり、言った


「そろそろ、帰らなきゃ。浅葱、また来るね。」



寂しそうにつぶやく彼女を見て

樹がつぶやいた


「お凛さんって絶対、浅葱さんのこと好きだよな」


優月が鳩尾を殴ったことで

なんとかお凛さんには聞こえなかった。


******


お凛さんが帰ったあと

浅葱は4人に言った。


「彼女には、時間がない。」



その言葉の意味を知らない4人だったが

間もなく意味を知ることになる。



なぜなら

彼女が浅葱屋にやってくることは


もう二度とないのだから・・・・-







一通り話を聞き終わった後、




浅葱は



「それでは泊まる所がないだろう?

どうだい、浅葱屋の奉公人として働かないかい?

3度、飯はきちんと付けるし、寝るところも用意する。」



晴人たちは皆で顔を見合わせた後、



「はい! よろしくお願いします!」



と返事をしたのだった。


浅葱屋は通りの菓子屋の中でも大きいほうなのにもかかわらず、


番頭が一人と、女中が二人だけだった


番頭は通りでも腕利きの番頭と評判の佐助さんで


商品を売りさばくのは彼がほとんど一人でやっているに等しかった。


お菓子を作るのは浅葱と女中が二人、


忙しいときにお手伝いに来てくれるお凛さんだけだった。


それで切り盛りできていたのだから大したものだ。



晴人たちが手伝うのは、


呼び込みと、菓子作りの手伝いに決まった。


呼び込みは晴人と樹、菓子作りはミズキと優月だ。




「ところで皆はどこから来たんだ?」


囲炉裏に火をつけた浅葱は、


4人に聞いた。



樹が間髪いれずに答えようとする。


「とうky・・・」



晴人がどついたらしい。


言いかけたところで、樹が黙ってしまった。



苦笑いしながら、


麻由香が代わりに答えた。



「あの、あたしたち・・・未来から来たんです!」



空気が凍った。


どうやら麻由香は、樹がどつかれた理由を分かっていなかったようだ。


「・・・馬鹿ミズキ。」


晴人がつぶやいた。



麻由香は、


友人に「ミズキ」と呼ばれている。


麻由香、と呼んでいる人はほとんどいない。



浅葱は、しばらく黙っていたが突然口を開いた。


「未来・・・という町?」


なぜか、笑いをこらえているようだった。



今度は樹が答える。


「今は、江戸の時代じゃないすか。その、江戸のずっと先の時間っす。

信じてもらえないと思うんですけど、時間越えてしまったようです。」


浅葱は、ついに笑いだした。


しかしその笑いは、


人をバカにしているものではなかった。



「そりゃあ面白い!!!!噂で聞いたことがある!!!本当だったのか!


身を乗り出して言う浅葱は


目が輝いている。



「疑わないんですか?」


優月は目を丸くして聞く。



「突然面白い格好でやってきたお客を疑うわけないだろう!最高だよ!」


浅葱はまだ笑っている。



「どうやら俺達は、いい奴に出会ったみたいだな。


誰にも聞こえないだろう小さい声で、晴人が呟いた。



「・・・で、その未来に戻る方法を考えていると。」


さっきまで笑っていた浅葱が


真剣な表情に戻った。



なんだろう、この人は。


彼の表情に、


彼の態度に、


誰もが呑みこまれる。



4人は、不思議な感覚を覚えながら


浅葱に神社での出来事を話した。