浅葱は正確には、浅葱屋という名の菓子屋だった。


下の名前は一向にあかそうとせず、


浅葱か浅葱屋と呼べという



浅葱は全員が中に入ったのを確認すると


のれんを中にいれ店を閉めた



そして晴人たちに向き直ると


「その服と、名前をどうにかしなきゃならないな」


と言い、たんすの中から


一式ずつきれいにそろえられた


袴と女物の着物を二組ずつ取り出した。


「奥の部屋を使っていいからそこで着替えな」


といって自分は店の片付けに戻った


幸い、晴人は弓道部で着物を着ていて


優月はなぜだか着た事があったので着物を着ることができた。


真由香は着物をきるのは七五三以来だといってはしゃいでいた


そこにいつの間にか店の後片付けを


おえた浅葱が戻ってきていた、そして急に口を開くと


「ところで、皆変わった名前をしていたな?」


意味を察した優月が


「遠いところからきたので・・・ところで着物、有難うございました!」


と答えると


「いや、それは構わないがあんまり変わった名前を使うより

江戸に似合った名をここでは名乗ったらどうだ?」


と、どこか有無を言わせぬ口調で言ってくる。

そして晴人を見て、


「晴人さんといったかな?」


「はい、そうですけど・・・」


「でわ、ここでは晴人のはるから、

春之信と名乗ってみたらどうだろう?」


晴人は気に入った様子で


「ありがとうございます」


とだけ、答えた。


「ほかの三人も、樹さん、優月さん、真由香さんだったよな?」


と言い三人が何も言わないのを見ると


「こちらは、いつきさんはいつきのつきから月兵衛、

真由香さんは真由香の由香を取っておゆか

優月さんは漢字は優しい月かな?

では優しいからおゆうというのは?」


三人は浅葱の頭の回転の速さに驚きながらも


「そうします!」


と答えたのだった


「あれ・・・?さっきの山は・・・?」



おかしいな・・・


4人はそう思ったが、タイムスリップしている時点でもうすでにおかしい。



だから気にするのもやめてしまった。



しばらく歩いていたが


やっぱり視線が痛い。



晴人が

そこらへんの民家の人に事情を説明して、かくまってもらうか、と言いかけたが


もう手遅れだった。



「おじょうちゃん、面白い格好してんじゃないか。」


「あ、いや・・・その・・・」



歩くのが遅い麻由香を


4人くらいの男が取り囲んでいる。



「今からどう?ちょっと遊びにいかない?」



麻由香は必至で逃げようとするが


彼らはどうやら武士のようで


刀をぶら下げている。



下手に逃げようとしてもつかまることは目に見えていた。



どうしよう・・・


このままだと連れていかれる・・・



他の三人も、動くことができない。



その時だった。



「あれ?お武家さまが、こんなお昼間に何をしておられるんです?」

と、静かな声が聞こえてきた。



「お、お前・・・」


顔は笑っているが、目が笑っていない彼の顔を見た途端、


男たちの顔色が変わった。



「お仕事にお戻りください」



男たちは、舌打ちをして去っていった。




3人がかけよってきて


我にかえった麻由香は、


咄嗟にお礼を言う。



すると、


彼はさっきとは違う笑顔を浮かべながら言った。



「あんた、可愛いな。私の女にそっくりだ。」



優月が何かを思いついたように口を開く。


「あの、私たち・・・すごく遠いところから迷いこんで、ここまで来てしまったんです。

もし良かったら、お洋服を貸していただけませんか?」



「おようふく?」


彼が怪訝そうな顔をして聞き返し、


優月はあわてて言いなおした。



江戸時代に「洋服」は存在しないのだ。



「あ、すみません。着物です。着物を貸していただけたら嬉しいのですが・・・」


「あぁ、構わない。店まで来てみな」



彼はまた、ニカっと笑って


上機嫌で歩きだした。



4人は、慌てて彼を追いかける。



が、


彼が突然足を止めたので


結局つまずくことになった。



「名を聞いていなかったな。私は浅葱。

すぐそこの店で、菓子屋をやってる。お前たちは?」



たしかに、名乗るのが遅れていた。



4人は、それぞれ名前を言った。



4人の名前を聞いて


浅葱が何かつぶやいたような気がしたが


よく聞き取れなかった。



浅葱は再び笑うと


「面白い名前だ。・・・それじゃ、いこうか?」


そう言って歩き出した。



晴人は、浅葱の背中を見ながら


「大丈夫なのか、この人・・・」



呟いた。









「・・・とりあえずどうする?」


樹が口にした疑問は全員が考えている事だった。


沈黙の後、最初に口を開いたのは優月だった


「とりあえず、ふもとに行ってみるのが適策じゃない?

おじさんもそう言ってたし、それにこの服着替えないと・・・」


みんな首をかしげていたが麻由香がやっと理解したような顔で


「確かに、江戸時代にこんな恰好で歩いてたら捕まっちゃうかもね」


麻由香と晴人は呑み込めたようだが樹だけは理解できてないようだ

そんな樹に春人が説明をする。


「江戸時代、もし今鎖国中だったとしたらこの格好はまずいだろう?

ペリーが来てたら変な格好なんて言われないだろうけど

ここが江戸なら、着物か袴であるかねぇとやばいかもな」


樹はやっと理解したようだった。


「・・・よし、麓、行ってみるか」


タイムスリップしたと思われる所から麓が、

綺麗に眺められた。

歴史の教科書でみたことがあるような、城下町の風景だった




その場所からふもとまで、思ったより早く着いた


下り坂で楽だったというのもあっただろうが、

みんな、どこかで楽しんでいたのだ。


麓に着くと、なぜか急に裏道のようなところに出た

右と左にはお寺と民家が建っている


驚いて後ろを振り向くともうそこに山はなく、

どこかで見たことがあるような

小さな祠がひとつあるだけの突き当たりになっていた