こんばんは、沙久良です
台風、あっという間に過ぎ去っていきましたね 良かった良かった
にちにちで美味しいふーさんの栗スイーツも食べれたし、満足な私です
⑤です
階段で風の心地好さを感じていると、鹿野さんがお酒を買って帰って来た
早速それを受け取って、本殿の後ろへと行き、半分ほど数か所に撒いた
「帰省した際には、お酒を供えて欲しいそうですよ。それから、子供の元気な姿は力が湧くので、子供たちも連れて参拝して欲しいそうです。」
「わかりました。そうしますね。」
ほっとした様子の鹿野さん
「残りのお酒は、鹿野さんのご実家を清めるのに使うので、ご実家へと案内してもらってもいいですか?」
「はい。」
神社から近い実家へと行くと、そこは暗く澱んでいた。神にとって代わろうとする悪しき何者かが巣食い、こちらを威嚇する
「ここで、タンタンと鹿野さんは待っていてくださいね。」
そう言って、家の敷地に2人は入らない様に言い、右手の人差し指と中指をピンっと立てて唇に当て、呪(しゅ)を唱えながら封(ふ)をしき、家の周囲を一周回る。
悪しきモノが出られなくなったのを確認後、敷地の四隅と玄関口に先ほどの残ったお酒を撒き、更に自宅裏の澱みの激しく、黒い渦を巻く部分に向けて手刀を切り、散らし、滅する……
…キーンっと高い音が響き、地中から潰されて無くなった神社の入り口を嘗て護っていた祠が現れた
その祠を今の家の土地より高く、屋根の上辺りに移動させ、混在していた人の歩き生活する場と、神々の通り道を分け、穢れ無き気の流れを神代と同じく繋ぎ造る
山から山へと清い川の流れの如く気が移動する そこを気持ち良さ気に泳ぐのが龍
龍が行き来するから龍脈と謂れるのか、それとも龍が行き来することで気の流れが出来るのか、そんな事を考えながら視ていた。
『山が、喜んでる。龍が再びこの地を行き来するから、とても喜んでる。昔はね、こんな風にどの土地でも上空に龍が泳いでいたんだよ。』
懐かしげに夕が心の中で呟いた
(そうか、それは美しく、見事な空だっただろうねぇ。)
『うん、またこんな風に、全国で龍が泳ぐといね。』
ゆったりとうねり泳ぐ龍の腹を視上げ、掴もうとして手を伸ばした
「ん?」
伸ばした手の先、空中に浮かぶ祠から何者かが出てくる。クルクルと前転しながら下りてきたのは、髪をを一つに高く結った、若く、体格のいい着物を着た男 背の高さは185センチくらいだろうか。トンっと軽く足を地面に付け、腰に手を当て、じっと視下ろされた。
「…?」
ジロジロと無遠慮に全身を視られ、怯える夕と、何してるんだろうと不思議に思う私 しばらく無言で視つめ合うと、男はニカッと白い歯を出して笑った
『我が主、美香姫(みかひめ)をお助けくださり、礼を言おう!ありがとう!』
ブンっと、すごい勢いで頭を下げられて、更に夕は怯えて私の後ろへと隠れた。
(美香姫、それがあの龍神の御名ですか?)
心の中で問いかけると、また勢いよく頭を上げて笑い、頷いた
『さよう!本当の御名はもっと格式高く、私の様な下っ端が口には出来ぬ。姫はヌシラには名乗らなかったのか?』
(いえ、先月、身体にお移りいただいた時点で御名はお聴きしましたが、美香の御名は初めてお聴きしたので…。)
神の名はおいそれと全てを口にしては良い物ではないので、誰にも言わずにいた。
『さようか、さようか!うむ、それは良い!では、私がここより、街へと帰るのを案内しようぞ!』
(え?)
私の返事も待たず、またすごい勢いで踵を返し、先導する男 その後ろを早足で付いて行くと、道で待っていたタンタンと目が合った
合った途端、タンタンにO氏がinして、威圧的な眼で男を見下げる
「下っ端の神が何用か?」
抑揚はないが威圧的なその口調に、ピタッと止り、ひるむ男 だが、負けじと姫を御護りする者だと言うと、鼻で笑われ、あしらわれた。
「ふん、勝手にするが好い。だがな、街に着いたら即刻帰れ。それ以上は無用だ。」
くるっと踵を返し、車に向かって歩くO氏 車に乗り込んだ途端抜けたようで、
「お腹すいた~!」
と、夕と同じく空腹を訴えた
「そうだね、お腹すいたね。何食べたい?」
タンタンの変貌ぶりに驚きつつ、車に乗り込む鹿野さんと、男 いつもの見慣れた光景に、私はタンタンに今食べたいものは何かと聞いた
「ラーメン!ラーメンがいいです!」
「ああ、いいね、ラーメン。鹿野さん、どこか美味しい店ある?」
「そうですねぇ、私もあまりこっちで食べないので知らないですけど…。ああ、インター近くにラーメン店がありました。そこに行ってもいいですか?」
「ええ、お願いします。」
運転は鹿野さん、助手席にタンタン、タンタンの後ろに私と夕、そして運転席後ろに男。何かO氏に一矢報いたいと考えてる様子の男に、無駄だから止めとけばと心の中で言いつつ、外の風景を眺めていた。
「あ、神社発見!あ、こっちにも!」
行きでは薄暗く視えていた風景が、色鮮やかに視え、神社も次々目につく
「祐帆りんの目って、神社と美味しい店だけは直ぐに見つけますよねぇ。」
感心したようにタンタンが言う
「そうだね、それとネタになるようなものもかな?」
クスクスと笑いながら法杖をついて窓の外を眺めていた ぼ~っと遠くを見ていると、意識が夕とすり替わる
「ラーメン食べたらすぐに帰りたいですねぇ。私はやっぱり岡山辛いです~。」
はあと大きくため息をつくタンタン O氏が受ける影響がもろに伝わるようだ。それを聞いて、くすっと笑う夕
「父上、夕の父上が亡くならなかったら、同盟が続いてて、この土地も辛くなかったでしょうにね。」
ニコニコしながら助手席のタンタンへと両腕を伸ばし、後ろから抱きつく夕
「…まったくそうだな。はあ…。」
伸ばされた手を軽く握って、大きなため息をついた後、タンタンにinしたO氏はそう呟いた
「うん。でも夕がついてるから大丈夫だよ、父上。夕が護ってあげる!」
握られた手を軽く握り返し、夕はそう言った後、手を放した。途端、意識が自分へと戻り、訳が分からないという顔の私
「…え?同盟って…なに?」
「ん?戻ったのか。夕は現在山陽側と呼ばれる地域を治めていた大王(おおきみ)の末娘だったからな。覚えてないのか?」
「覚えて…な、い… と、いうか、夕の記憶を視て、将軍職程度の貴族ではあるけど、王族とは思いませんでし…た……
」
しどろもどろになる私 自分が予測した以上の夕の身分に、頭が上手く回らない
「ああ、吉備の大王(おおきみ)は思慮深く、気さくなお方だったからな。争いもお好きではなく、出来うる限り話し合いで道を切り開く方だった。私も同盟を結ぶ王として、そして言葉少なくとも心通じる、大切な友の一人だった…。
だが亡き後、後を継いだのがの腹違いの弟だ。戦で亡くなったと聞いたが、その弟によって暗殺されたのだとも聞いた。その後、その弟の手によって、夕の腹違いの兄姉はほとんどが殺害されてしまった様だ。
夕が生き残ったのは、母親が類稀なき巫女であった事と、遡れば王家と血を同じ者とする一族で、その血を濃く引いた夕の霊力を恐れ、殺害すれば祟られると、龍神への生贄という名目で山中へと捨てた様だな。」
懐かしげに語るO氏の声を、どこか遠くで聞いているような感覚に陥った。
「…だから、夕は山水と出逢い、助けられたのね…。そして、幼い夕はO氏に謁見し、直接触れても咎められる事はなかったのね…。」
「そうだ。いつか夕が成長したら、私の息子と婚姻させ、さらに同盟を強める約束を交わしていたからな。」
「…日向が、成長した夕を欲しがったのは、巫女としての力だけでもなく、この地を手に入れる正当な理由になるからだったのかしら…?」
「そうだな。吉備の血を引く正当な王族、それは戦を仕掛け、その土地の者たちを集わせ、勝ち取るには必要な駒でもあったからな。
言っておくが、私はそのような理由で夕を妻にしたのではないぞ!」
はっとし、こちらが聞いてもないのに力説するO氏
「分かってるよ、それっくらい。それならO氏じゃなくても息子の誰かで十分だもの。そっかぁ…。なるほど…。」
窓の外を再び眺めながら、点と点だった疑問や記憶が結びついた もちろん全て、ではないけど…。
「私はまだまだ夕の事知らないんだなぁ…。勘違いしてる事も多いだろうなぁ…。」
独り言のように呟くと、何かを言い出そうとして、O氏が止めて、ふっと息を吐いて呟く
「私は、夕も、今の祐も、何者であっても大切だ。」
「うん…。」
へぇ~と、ちょっと驚いたようにこちらを視る男 そしてなにやらこちらも納得したようで、腕を組んで何度も感慨深く頷き、そして一礼して姿を消した
(こんなに景色が美しく視えるのは、夕が帰郷した事を土地が喜んでいるからかもしれないね…。)
『お帰り、お帰り、小さな末の姫…。長い長い間、再びこの地へと戻って来るのを待っていたよ…。』
そう言って葉を揺らす様に揺れる木々を、山を、空を優雅に気持ち良さ気に泳ぐ龍たちを、ぼ~っとただ視つめていた
⑥へ続く