注意:櫻葉小説です。



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「雅紀……ごめん待たせたね。」




すっかり陽は暮れて
光があるのは海の前の道路の街灯の光だけ。

時折遠くの灯台の光が海を照らす。

あの時も同じだった。

翔が近所の人に
俺らのことを『いい子』だと熱弁した夜も
俺は翔と一緒に夜の海に来て
『この時の暗い海を忘れない』と思ったんだ。




翔は急いで来てくれたのがわかるように
息を切らしていた。





ザザーン……

ザザーン……






「呼び出して悪い」

「いや。
もともと俺も雅紀に話があったんだ。だからちょうど良かったよ。」

「え……?」

「まずは謝らせて?今日は……ホントなんか、ごめんな?」

「あ…、いや…、いいよ。」

「潤からさっき連絡が来た。
雅紀たちに春のことを話したって。」

「あ、うん。弟さんの話、聞いた。」




「座ろうか。」




翔は
座るよう促した。

俺はドキドキしてる。
だって告白するつもりだから。





告白の「後」のことは何も考えないようにしてた。
そこを考えると告白なんてできなくなる。

だってフラレるのは目に見えてるから。

だけど流星が言うように
弟の代わりになる前に
俺の気持ちを伝えておきたいと思ってる。





じゃないと
俺自身、苦しすぎるだろうから。





ちゃんとフラレたほうが
俺にとって
割り切って弟として
翔を助けるつもりで接する事ができる気がするんだ。





「春はね……俺の……大事な大事な弟だった。」

「うん」

「子供の頃、家族と言っても家には春しかいなくてさ。……だからあの時、俺にとっての『家族』は春だけだったんだ。」

「うん」

「一番苦労したのはお風呂かなぁ。ふふふ。春はとにかくシャンプーが苦手だったから、w洗おうとすると暴れるんだ。『いやだー』って逃げ回るしw
俺は『頼むからシャンプーして』っていつも捕まえるのに必死でさ。『なんで言う事聞いてくれないのか』って泣きながら追いかけた事もあったな。」

「そうなんだ…」

「食事は親が冷蔵庫にいつもコンビニ弁当を置いてくれてたんだけどさ?
俺はまだ小4で、レンチンの方法がわかってなくてさ。そもそもレンチンできるとかそんな事もわかってなかったんだ。
だって親がレンチンしてる姿も見ないじゃん?いないんだから。
家政婦さんがいた時は温かいご飯出してくれてたからレンチンなんてしてなかったしねwww」


少しでも見たことあれば、やり方覚えたかもしれねぇのになー、なんて言いながら翔は笑った。


「だから冷たい弁当いつも食べてたんだ。ご飯とかカチカチなんだけどさ。
家でのご飯はそんなものだと思ってたから、俺も春も、ご飯カチカチのまま食べてたんだけど……
春がある日突然『保育園みたいに柔らかいご飯食べたい』って泣きながら暴れ出してね」


「俺はどうしたらいいかわからなくて慌ててしまった拍子にお茶をこぼしちゃって……それでハッ!として
お弁当のご飯をフタに入れてあげて、そこに冷たいお茶をかけてお茶漬けにしたんだ。そしたら春が食べてくれて、そして俺のことを『にぃちゃん、天才!』って。
すげー笑顔で笑ってて…。
カチカチのご飯に冷たいお茶かけた冷たい食べ物なんだよ?柔らかくなったとも言い難い食べ物。www笑えるだろ?
それなのに春は俺のことを天才って……。」



「あんなにダメな兄貴だったのに……
春は………
俺のことを嫌がらず、ついてきてくれたんだ。」






翔の心が涙を流してるのがわかった。


涙を見せないけど
実際には流れてないけど


心では泣いてるよね?


かけがえのない家族を
失った翔………




だから俺の心がわかる人だった。

人の痛みをすごくよくわかる人だった。

そんな翔に俺は救われたんだ。






「けっきょくさ?www
しばらくしてテレビのドラマで見たんだ。コンビニ弁当を置いてる場面でね?
『お弁当冷蔵庫に入ってるからチンして食べてね。』って。
『チン』ってなんだ?と思ってさ?次の日に学校の先生に詳しく聞いてwww
それからチンできるようになったんだ。
あれって大事なんだな。『チンして食べてね』ってやつ。一見余計なひと言みたいに思う人もいるんだと思うんだけど、
うちの親はそんな気遣いさえもなかったから。ドラマ見て気付いてマジで助かった。今となっては笑い話だけどなー。」


「そっか……」



「あ、ごめんな?弟の話ばっかして。」



「ううん。聞きたい。もっと春くんのこと、聞きたいよ?」



「そっか。ありがとう。
俺も春の話するのは嬉しいんだ。なんか久々に春の話してるからさ?」



そう言って笑う翔の横顔が

やっぱり寂しそうで





すごく切なかった。