注意:櫻葉小説です。



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夜遅く………

俺は翔に借りた着替えを紙袋に入れて歩いている。







スタスタ……

「別に明日の朝返せばいいけど……借りたまま持っておくのは気になるじゃん!」

スタスタ……

「理由なんてただそれだけだっつーの。」

スタスタ……


「翔に会いたいとか顔が見たいとか、そんなんじゃねぇしっ」

スタスタ……


「夜風に当たりたかったからついでだ!」

スタスタ……


「ついでってだけのこと!!!」







誰に言うわけでもない単なる独り言が止まらない。

歩きながらブツブツ言ってる俺は……

きっと誰かが目にするとやべぇやつに見えるんだろう……

でもここは田舎町。

そんなに人なんて夜歩いてないのが功を奏してる。






あっ、翔だ!




店の前の片付けをしてた翔が遠目から見えて、走り寄ろうとした時……

3人のおばさま方が翔に駆け寄った。




「櫻井くんっ」

「こんばんは。〇〇さん〇〇さん〇〇さん。」

「聞いたわよ?夕方頃、タチの悪い◯高の生徒がお店に来てたんですって?」

「そーそー!◯高のあの子達でしょ?悪くて有名よ?」

「素行が悪くて学校なんてほとんど行かずサボってばかりらしいわ?」

「櫻井くんあんな子たち店に入れないほうがいいわ!櫻井くんの身に何かあったらどうするの?私達櫻井くんのファンクラブ会員としては櫻井くんが心配だわ!」

翔「アハハ(^_^;)……心配してくれてありがとうございます。」





………前にもこんな事があった。





それは俺が
目立つ行動を取り始めたばかりの頃………





近所の人がうちの父親に
同じようなことを言ってたのを偶然見かけたんだ。




その時の父親の対応が忘れられない。

ニコニコした表情のままで……

波風立てまいというその一点のみ重要してると言わんばかりの顔で………


「ご心配ありがとうございます。
ほうっておいて大丈夫ですので。」



それだけを言って去っていった。





俺はその父親の対応にものすごく傷付いた。

………いや………




傷付いたというよりも………




悲しかった。





すごく………すごく………悲しかった。







いっそ責めてほしかったんだ。






『母が死んだのはお前のせいだ』って。
『悪いことをするのは相葉家の恥だ』って。
『お前なんてクズだ』って。

そう罵られる方が
良かった。
むしろそう言ってくれるのを待ってた。
何も言われず何も存在してないみたいに扱われるくらいなら……
罵声を浴びたかった。






頼むよ………




頼むから責めてくれよ………




頼むから………




母さんを殺したのは俺だって言ってくれよ。




頼むから………





母さんを返せって俺を怒ってくれよ………





頼むから………






俺を………





俺を見てくれよ………






父さん…………っ







その叫びは

父親に届くことはなかった。







翔も同じように言うんだね。

『ご心配ありがとうございます』ってさ。

もう……
もういいよ………
俺には
クズだと言われる価値もないんだから……





後ろを向き……

帰ろうとしたその時……

翔の声が聞こえた。







「雅紀っていうんですよ!めっちゃいい子でね?あとは斗真に、風間に、流星に!みんなすげーいい子なんですっっ!!!『あんな子たち』じゃなくて、みんな名前があります。名前も素敵でしょ?名前だけじゃなくてですね!笑顔も喋り方も態度もどれもこれも!めっちゃいい子たちなんです!俺わかるんです!会って2日とかでも、元写真家だから、人の観察よくしてたから!世界中沢山の人を見てきました!だからあの子たちもすげーいい子たちってわかるんです!!!!!」


「ぁ……、…あーそうなの……、、?」





翔は

おばさま3人が

たじろいでるのに

そんな事もお構いなしに………




俺達のことを熱弁した。






「斗真はすげー明るいんです!斗真がいるとみんな楽しくなる。素直で元気な子です。風間はしっかりしてるけど友達思いで友達の意見に合わせられる優しい子です。流星は天然だけど一番かわいがられるかわいい子です!そして雅紀は………」





翔………






「雅紀はね……
人の気持ちのしっかり分かる子です。
俺が高いところを怖がったら……あいつは少しも笑わず馬鹿にせず、降りるまでずっと声掛けしてくれました。『右から足出すぞ?』とか『下を見るな』とかずっとですよ?普通、笑うじゃないですか?でも雅紀は……馬鹿にしたりしないんです。雅紀はそんな子なんです。
本人気付いてないけど、自分のことを置き去りにして誰よりも誰かを助けたいと願う子なんです。人の事を心配するのに…自分の危うい状況なんて後回しな子なんです。生き方が不器用で……、だけど……すげーすげーいい子なんです。海に入ったら子供みたいに笑うし、濡れたら楽しそうにするし、ワルぶってるのに本当はすげー純粋ないい子なんです!」






翔………



馬鹿なの……?






そんなことおばさま方に熱弁してどうするよ?

父親みたいに
『ほうっておけ』って軽くあしらえばいいのに………

なのに……





なんでそんなに必死に言ってるんだよ………








あの時の父親が

あの時の悲しかった自分が………






まるで翔に

浄化されたみたいにして消えていく……






俺は気づけば




目から




涙が流れてた………