11:00に通常通り
街路樹 8はアップ済です。


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「今さら、…無理だよ…」

『翔のことが忘れられねぇ。帰国するから会ってほしい。』

「俺達は……終わっただろ?それに…お前はこっちで暮らすことはできないはず」

『なんとかするから。』

「なんとか、って……そんな曖昧で済む話じゃないだろ。」

『俺達、お互い嫌いになって別れたわけじゃないじゃん。』

「あの時……2人共、同意の上で別れただろ?」

『今ならもっと何か方法を考えられると思うんだ。』

「前も言ったけど……俺今、……いるし。」

『翔には俺しかダメだって。』

「何言ってんだよ」

『翔も感じてるはずだよ?』

「……とにかく今さら無理だから。」




そう言って潤との通話を切った。

潤はいわゆるクォーターで祖父母がフランス人。
元々、潤は日本でずっと生活するつもりだったが、祖父が体調を崩したため、経営してる会社を潤が引き継がなくてはいけなくなった。

俺はその時、ちょうど仕事が面白い時期で、フランスについていくことは出来なかった。

お互いつらい思いをしながらも……
もう二度と……交わることはないのだと承知の上で………別れた。





「変わってない声で………今さらそんな事言うなよ………」


「電話……、元カレ?」


ギクッ!


「雅紀っ……、今の……聞いてたのか?」


洗面所に避難して通話してたのにまさか聞かれてた?


「わざとじゃないよ?トイレ行ったから手を洗おうと思って。……別に隠さなくてもいいじゃん?元カレなんでしょ?相手はなんて言ってるの?」


「え、あ……うん、ぇ?…ぁ…、帰国するから会おうって。」

「会ってくれば?いつ?」

「えっ?!今度の土曜日。」

「会いたいんでしょ?」

「…………」





………好きだった。潤のことを本気で……。
こんなに好きになった奴は初めてだった。
でも今は雅紀と同棲してる。
そんな状態で、会うなんて……。

それになんだよ?雅紀のやつ。
俺が元カレと会っても別にいいんだ?

雅紀とは付き合ってもう3年になる。最近はちょっと停滞期というか……雅紀の心は離れていっている気がする時がある。

俺達………このままじゃ………





俺と雅紀が付き合うきっかけは御守りだった。

それこそ潤との別れで人生どん底ってくらい落ちてた時期。
会社の飲み会でまぁまぁ酔っ払ってたら
サイコロトークなるものをさせられて
俺の出た目が「親との思い出」だった。

恥ずかしさがありつつも酔ってたのもあって、ガチな話をしてしまった俺。

俺が高校入試の時に母親が
嵐神社というところの桜柄の御守りを買ってきてくれて嬉しかった、と。
山奥にあるし階段も多い神社なんだけど桜柄がとても綺麗だからってことで大変なのに俺のためにその神社まで行ってくれた思い出。当時はいつもポケットに忍ばせて大事にしてた、と。(今はもう、合格したため神社に返してその御守りは手元に無いけど)

なんのオチもないその話は2〜3の質問はされたものの、盛り上がることもなく、「御守りっていいよなー」程度の反応をされてすぐ次にまわされた。

その飲み会の数カ月後に
俺が手掛けるプロジェクトがダメになりそうになり、落ち込んでる時に後輩の雅紀が声を掛けてきたんだ。



「先輩、大丈夫。きっとうまくいきます。」

「う〜ん。やれるだけのことはすべてやった。あとは祈るだけ、かな…」

「そうですね。すごいです。こんなふうになにもかもやるなんて、なかなか普通の人はできないですもん。」

「いや…あとは祈るだけなんてさ?俺なんて無力だなぁと思うよ。仕事もプラベもさ?どうして最近こうなんだろ?ってw」

「あ……、あのこれ。良かったら…」

「えっ?」




それはあの時飲み会で話した桜柄の御守りだった。



「え…なんで……」

「先輩、元気ないから少しでも元気付けようと思ってオンラインで注文しただけなんですけど、どうぞ。」

「嘘だな?」

「えっ?!」

「あの神社は通販やってない。以前俺は調べたから間違いない。本当は買いに行ってくれたんじゃないのか?」

「あ、いえ…、違います💦本当は、たまたまなんですけど友人が嵐神社のすぐ近くに住んでるから送ってもらったんです。」

「それも嘘だな?」

「え…?」

「相葉さぁ?あの時言ってたよな?嵐神社ってどこの町ですかー?って。◯町って言ったら聞いたことない町ですね?って言ってただろ?友人がいるなら、そんな反応しないだろ?」

「え?いえっ、あの後に出来た友人なんですっ!」

「そんなわけあるかよ。ここ一ヶ月間仕事三昧だっただろ?友人作る暇なんて全くなかったじゃねぇか」

「いや…、そんなことなくて…」

「本当はわざわざ買いに行ってくれたんじゃないのか?車で3時間はかかるところなのに……」

「………ぅ」

「なんで嘘つくんだよ?買ってきてくれたんならそう言えばいい」

「だけど……」

「だけど何だよ?」

「なんか……重い、と思われるかなぁと思って……」

「んなこと思うかよ。嬉しいに決まってんじゃん!」

「本当に?」

「本当!!!めっちゃ嬉しい。ありがとう。」

「///へへへ」

「いつか一緒に行くか?嵐神社。」

「えっ!!!いいんですか?!」

「おう!俺の運転で行こう」

「いつですか!!!」

「へ?…い…?いつ?……
えっと……そうだなぁ……、相葉がめちゃくちゃ強い願いがある時……かな?」

「はい!嬉しいです!いつか一緒に行きましょうね!!!」

「www」

ひまわりのように笑った雅紀の顔に
俺の心はめちゃくちゃ救われた。


あの時に
雅紀が俺に片想いしてた事に気付き、その後、俺から付き合おうって言って付き合う事になった。

今もその時の桜柄の御守りはペンケースの中に入れてある。





でもそんな雅紀と……
俺は今、本当にこのまま付き合っていていいのかわからなくなってた。

俺はあの時、潤との別れが苦しくて……
単に雅紀で埋めようとしただけなのかもしれない。

はぁ………どうすっかな。
潤のあの強くてキレイな目を思い浮かべると
胸がドキドキしてくるのも事実。

俺はその日、答えを出せずにいた。







土曜日、当日がやってきた。



「で?どうすんの?」

「は?」

「元カレと今日会うの?」


朝食を食べながら雅紀が平然とした顔つきで聞いてくる。



「あ……、うん…ちょっとだけ……
でも別に何もないからな?お土産渡すって言うから、それもらったらすぐ帰るし。」

「別に俺はゆっくり会ってきてもいいけど?」

「なんだよそれ?」

「久しぶりなんでしょ?」

「そうだけどお前は平気なのかよ!」

「じゃあ俺もう、出るから。翔ちゃん食べ終わったらお皿水につけといてね。」





そう言って雅紀は出掛けていった。

いつからこんなふうになったんだろう?
雅紀の冷めた感じ。
それを受けても平気になっていく俺。

俺達……もう
だめなんじゃないだろうか……









「翔!久しぶり!会いたかった!」

「久しぶり!!!」



3年ぶりに会う潤は何も変わってなくて……
いや、あの頃よりももっともっとかっこよくなってた。

一応短時間しか会うつもりないからと潤に話してたから

ランチだけして
そして帰り道……川沿いを二人で歩く。




「翔?俺達、もう一度、1から始めないか?」

「だからそれは無理だって。電話でも話したけど俺はもう新しい恋人がいるんだ。」

「そいつと上手くいってんのかよ?」

「それは………」

「俺はそいつを傷付けたとしても翔を奪ってみせる。そのくらいの気持ちで日本に来たんだ。」

「なんでそんな…?」

「長年俺の秘書だった人が急に事故で亡くなったんだ。その時に思った。大事な人を、こんなふうに一瞬で亡くすこともあるんだと。俺にとって大事な人をもっともっと大事にする人生にしたいと。
そう思い浮かべた時、翔が一番に頭に浮かんだ。
これまで必死に仕事してきた……でも……それでもずっと忘れられなかった。翔が好きだ。翔しか考えられない。」

「潤………」




その目は俺を捕らえて離さない……そんな強い強い目をしてた。



「絶対に奪う。翔を俺のモノにする!翔……好きなんだ。」

「潤………」

「頼む……。俺のところへ来て?翔。」



潤の手が俺の頬を包み込む。

俺は蛇に睨まれた蛙みたいに見つめる潤から逃れられなくなる。

温かい手が頬から伝わってくる。
このぬくもりを俺は知ってる。

このぬくもりが大好きだった。
いつも真っすぐで力強くて……
大きな愛を俺に向けてくれる人。
こんなに好きになった人はいなかった。


「潤………辛かったね?秘書さんが亡くなって……悲しかったね?
仕事必死にやってきて……大変だったね?
こんな事しか言えないけど……無理すんなよ?潤の周りはきっと心配してると思うぞ?」

「ほらな?こんなところ。」

「え?…」

「翔はいつもそうだよ。」

「え?」

「俺を支えてくれる言葉を持ってる人。俺を癒やしてくれる言葉を持ってる人。欲しい時に欲しい言葉をくれる人。俺にとってプレゼントみたいな言葉。」

「潤………」

「言葉だけじゃねぇよ?
その目もその体もその唇も……何もかも……愛おしい。」

「なに言って……」






「ッんっ……」






こうされるのがわかってたはずなのに……
唇を塞がれそうな空気で頬を包まれてたのに……

俺は

なぜ
その空気を断ち切らなかったのだろう?









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