注意: 
こちらは櫻葉小説です。苦手な人は回避してください。


‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹‧⁺ ⊹˚.⋆ ˖ ࣪⊹‧⁺ ⊹˚.⋆


Side S



一日の仕事を終えて
帰宅……
そしてマンションのドアの前。


「はぁ………っ」



朝……

俺と彼を引き裂くように遮断したドア。

それを開けられないでいる。





カギはさして回した。

そしてカギを抜いた。

あとはドアを開けるだけ。




そこから数分経ってしまっている。




「はぁ………」




ため息ばかり。





俺はこんなにも情けないやつだったか?

自分のマンションのドアすら開けるのが怖いほど

女々しいやつだったか?





きっと彼はもう中にはいない。




わかってるのに

現実を突き付けられるのが怖い。






「彼はもういない」
それがわかってるくせに
「もしかしたら」
が拭えなくて胸が苦しくなる。






だめだ………





彼の願いを聞いてあげるって朝決めたじゃないか。

彼のことを忘れて
日常を普通に送るって決めたじゃないか。

彼が幸せになるならそれで
俺はいいって

心に宿した想いだったじゃないか。






ガチャ……





ドアを開けた。




「ただいま〜」




シーン………





当然のように静まり返った部屋は

明らかに誰の気配もなく

無機質な空気だけ。






「相葉くん…ただいま〜」





中へと入っていくけど

明かりはもちろん、温度でも人が誰もいない事を物語ってる。





「相葉くん……相葉くん」




「相葉くん……相葉……く」





明かりをつけるも

何も変わらない。





キッチンは、朝ご飯の後さえ残ってないほどに片付けられていて

どの部屋も
明かりや気配はなく

まるで本当に彼の存在がなかったかのように……



「相葉くん……あ…い…相葉くん………」




呼んでも返事はもちろんないし

居た痕跡もない。







あんなに愛し合ったのに。




どの部屋でもどの場所でもどの時間でも
愛し合ったのに……




痕跡さえも残ってない。




ベットやバスルームも元通り。
置き手紙や飲み残しのコップさえない。
ポストには合鍵が入ってて持っていってもくれなかった。






「ふふふ……本当に………」


「夢だった……みたいだ……」






ひと通り
家の中を見回った後に
リビングに戻ってぺたりと座り込む。






唯一……



彼が来た事が夢ではなかったのだと
確信できることがあった。




それは
俺のコートが無くなっていたこと。





「本当にコート……欲しかったんだ。」





くださいって言った彼を思い出す。



あんなコート……

もらっても嬉しくないだろうなと思ってたけど本当に持っていったんだな……






「ぅ………っ」






信じられないけど俺はそれからしばらく泣いた。




本当に自分がこんなふうに泣くなんて信じられなかった。



「う…っ……んくっ……っぅ…っ!」




「ぅ、…っ……っ……、…」





俺は家を飛び出した。




「相葉くんっ!!!相葉くん…っ!」





だめだ


俺はものわかりのいい大人なんかじゃない!

彼の願いを叶えようなんて……

相葉くんのことを忘れて普通の日常を送るのが彼の願いならそうしてあげたいなんて……

どうしてできるなんて思い込んだんだろう……

叶えてあげたいなんて

どうして思ってしまったんだろう



「ぁあっ……ぅ……っ」



そんなことできるはずがなかった。

それくらいもう相葉くんに恋をしたんだ……






飛び出して

マンションのすぐ下。




彼が倒れるように座り込んでいた場所に来て

座り込んで泣いた。








二度と会えない。







もう二度と会えない………







苦しくて
悲しくて




震えるほど自分が悔しくて……

自分自身が悔しくて仕方ない。




バカだ……

大バカ者だ……

すがってでも、縛ってでも
彼を繋ぎ止めなかった自分はバカだ……




忘れることが出来ると…しなきゃいけないと思った自分は


浅はかで愚か。

憐れで愚鈍。






二度と会えない現実が

胸をズタズタに切り裂く。






真っ暗闇に落ちて
粉々になりたいほど

胸は張り裂け、

地面に頭を埋めても苦しみから逃れられなかった。