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神社を出て出店のゾーンに行ってみたが、5時を過ぎてやっぱりどこも片付け出していた。
出店は諦めて、名物の饅頭屋さんに入った。


名物の饅頭は、「あおまん」といって、
食べると舌が青くなる饅頭だった。


「翔ちゃん、食べてみて!写真とるから!みんなに写メするんだ!」

「オッケー、準備してろよ。」


素直に食べてくれる翔ちゃん。さっきのリングもそうだったけど、翔ちゃんは、こういうのを結構ノリノリでやってくれる。


「見せて見せて!」

「少々お待ち!」

俺が待ってると一生懸命早く飲み込もうとしてくれてる。

「ちゃんと、舌の色、青くなってっかな?」

「よし!いいよ!出すよ?

「オッケー」

カシャッ

「撮れた‼」

「見せて!」

「ほら」

「ほんとだ‼綺麗に青くなってる。」

「うーん、なんかこれ、見たことない?、、、何かに似てるな、、、なんだろ?」

「え?俺には青くなった舌にしかみえないけど?」

「あっ、、、!わかった!!カスタネットだっ!!カスタネットに似てない?」

「ぶっー。出たーー!あいばくんのカスタネット脳!!ぜってー見えねーしっ!!」

「いやだって、似てるじゃん!!赤い舌の上に青い色が着いてんだよ?むしろもうカスタネットにしか見えねーよ。」

「ぎゃはははーーっ見えねー!!無理ありすぎだって!!」

「なんだよ。もう!
翔ちゃんの舌!カスタにして叩いてやる!!」

「ぎゃあーやめろよっ!!ごめんっ、ごめんって!!」



店員「お客さま、、、すみません、
もう少しお静かにお願いします」


二人:「はっ、すみませんでした!!」










二人で顔を見合わせて笑い合う。

「俺、店員に注意されたのなんて、初めてだからな!」
「いや、俺だって!」





すぐに、逃げるように饅頭屋さんを後にする。

「怒られちゃったね!」

「なんか、翔ちゃん嬉しそう」

「ふふふ、滅多にないじゃん?」

「確かに。さっ、赤いコート買いに行くよ!こっちこっち!」










翔ちゃんが楽しそうにしてくれてるだけで、


きゅんきゅんして、

ふわふわして、

時間が止まればいいのに、と、


思わずには要られない。












コートの店まで歩く道中。











さっきのドタバタした感じと違って、
静かでゆっくり、、、。






特別何かを話さなくても、無言のまま一緒に歩く。





この瞬間が、たまらなく愛おしく感じる。









足音だけが聞こえる。






隣の、






足音も。





一瞬だけ目をつぶって音を楽しむ。




こうして翔ちゃんの足音をこれからも聞けたらな、なんて贅沢なことを考える。






歩幅、俺と似てるな。







リズムも合ってる。







男同士だからかな?






翔ちゃんの足音が、







綺麗に耳に入ってくる。







もうすぐ夕暮れ時になる空気とか、







通りすぎる自転車の音とか、






よくみるとある石ころとか、




頬にあたる風とか、、、







すべてのものが







翔ちゃんといるだけで綺麗に感じた。










「あいばくん」





「?


返事する代わりに顔を上げる。











「ありがと。」





「、、、。」



何が?



お店に付き合ったこと?(俺が無理矢理付き合ったんだけどな。)



「ん?」




「、、、。」








また静かになる翔ちゃん。










今度は俺が









「翔ちゃん」





「?」

翔ちゃんも、返事の代わりに顔を上げた。










「ありがと。」



俺、



いつも思ってるよ?ありがとうを。





普通に生きてきた俺に、
きらきらをくれたのは翔ちゃんなんだ。





翔ちゃんのお陰で、






新たな自分を発見したり、仕事を全力で頑張る達成感を知ることができたり




翔ちゃんに恋をしている自分が好き。




それもすべて





翔ちゃんのお陰だから。










コートの店まで歩く時間。




静かにゆっくり、、、。





目に写るものがすべて、綺麗。



それだけじゃない。



耳に入ってくる音もすべて、



綺麗で心地いい。




不思議。



こんな体験、したことあったかな?













この時、俺は




何となく




幸せすぎて、




泣きそうになっていた。