上念司著「経済で読み解く明治維新」を読む | 猫の遠ぼえ『次の世代に残したい日本』

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まだ、戦後が色濃く残っていた時代に育った私が「明治維新」を知ったのは嵐勘十郎主演の映画「鞍馬天狗」だった。アラカンこと嵐勘十郎のチャンバラが見せ場の映画だが、主人公と美空ひばり演じる杉作少年(彼女は天才子役でもあった)の次のようなやり取りも印象に残っている。

 

「天狗のおじちゃん、これからどうなるんだろうね?」
「良いか、杉作、日本の夜明けは近いぞ」

 

だから、私にとって明治維新とは日本の夜明けだった。江戸時代は厳しい身分制度のもと、庶民は幕府の圧政のもとで重税に苦しみ、食べるのもやっとの暗い時代だった。それを変えようとする勤王の志士は正義で、それを武力で妨害しようとする新選組は幕府の犬だったのだ。

 

その後、実はそれほど単純なものではないことは分かってきた。尊王攘夷を叫んでいたはずの勤王の志士たちはいつの間にか開国派になっているし、敵と味方も次々入れ替わっている。歴史は単純に割り切れるものではないか、幕末から明治にかけては特にすっきりしない感じがしていた。

 

上念司さんが「明治維新」に関心を持つキッカケになったのは中学生の時に読んだ「竜馬が行く」だというが、この時は坂本龍馬がいったい何をやったのかよくわからなかったという。彼もやはりあの時代にすっきりしない感じを持っていたのだ。

 

しかし、氏は大人になってから読んだ津本陽氏の小説を読んで、江戸幕府が世の中の変化についていけなくなったことが薩長連合に敗れる原因だったと気づく。鞍馬天狗史観をいつまでも引きづっていた凡人とは違うのである。

 

この本では、江戸時代にマクロ経済という光を当てることにより、なぜ江戸幕府が薩長連合軍に敗れたか、明治維新後の我が国が大きく経済発展することができたのかをすっきりと説明している。
統計資料の極めて少ないこの時代を鮮やかに読み解いた、氏ならではの画期的な歴史書なのだ。

 

経済で読み解く明治維新 江戸の発展と維新成功の謎を「経済の掟」で解明する 2016/4/9
 上念 司  (著)

 

江戸時代に貨幣改鋳、今でいう金融緩和策がとられていたことはよく知られている。暴れん坊将軍吉宗の享保の改革は実はうまくいかず、経済が好転したのは元文の改鋳と呼ばれる金融政策だった。しかし、金融政策でデフレは解消しても、それだけでは経済は大きくは伸びない。

 

そこで、著者は江戸時代を経済の切り口で理解するキーワードとして次の3つを提示する。

 

① 財政構造
  徳川家は400万石しかないのに、3000万石の日本全体を納めなければならない。

 

② 管理通貨制度
  たとえ瓦礫のごときものなりとも、これに官符の捺印を施し民間に通用せしめなば、すなわち貨幣となるは当然なり。

 

③ 百姓は農民に非ず
  百姓は決して農民と同義語ではなく、たくさんの非農業民を含んでいる。


①は、いまでいえば政府の税収の問題である。各地の金・銀山を抑えた家康をはじめとする徳川三代は政権安定のために莫大な額のバラまきや公共事業を行い、これが江戸初期の経済発展に大きく寄与した。しかし、財政には限りがあるから、それはいつまでも続かなかった。

 

そこで、綱吉の時代に著者が「貨幣の本質を見抜いていた」と評価する荻原秀重が登場し、貨幣の改鋳という金融緩和策を実施する。しかも、その通貨発行益は綱吉の日光東照宮への参拝など公共事業に使われたことが空前の好景気と元禄文化の発展につながる。

 

ただ、現代でも理解が進まないリフレ政策には当時も反発が大きく、その後には必ず揺り戻しのような緊縮策がとられる。江戸幕府が衰える一因だ。しかし、この時代にすでにそのような考え方があったことは、明治維新後に欧米の経済の仕組みを違和感なく取り込む下地となった。

 

そして、一番『目から鱗』なのが③の「百姓は農民に非ず」だ。「貧農史観」では、全人口の85%を占める百姓が時給自足に近い生活をし、重い年貢に苦しんでいたことになっているが、実際にはいまでいう専業農家は極めて少なく「百姓=農民=庶民」ということではないというのだ。

 

当時から過半数が非農業民(商業、運輸業、サービス業)で、著者はこの本の中では必ず「百姓(農民とは限らない)」と書いている。江戸時代は百姓が85%という数字だけを頭に入れていると、この時代に一種の資本主義が育っていたことなど思いもつかない。

 

著者は幕末から明治にかけての米価の推移や北前船の代表的な廻船問屋の持ち船数の推移などのデータも使いながら、各藩や民間がどんどん経済を発展させてゆく様子を見せてくれる。当時すでに消費地のニーズを生産する商品に反映するビジネスモデルまであったのだ。

 

江戸時代の経済は鞍馬天狗史観では想像もできないほど資本主義的だった。しかし、徳川幕府はそれに合わせて変わることができずに薩長同盟に敗れた。乱暴に言ってしまえばそういうことなのだが、この本はそれを日本を取り巻く国際情勢も交えながら、分かりやすく解説してくれている。

 

著者は『経済で読み解く大東亜戦争』でも経済を切り口にして歴史を語っているが、実はこの切り口が一番客観的に歴史を見ることができるのではないか。教科書に書かれている歴史にはイデオロギーや私見が混じりこんでいることが多いが、ぜひこのような視点を取り入れるべきである。

 

ブルーオーシャンを探して結局レッドオーシャンにはまり、赤く染まってしまった某評論家と違い、上念司さんは本物のブルーオーシャンを見つけたのではないか。
是非一読されることをお勧めしたい。

 

(以上)

 

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