上念司著『経済で読み解く大東亜戦争』はお勧めだ | 猫の遠ぼえ『次の世代に残したい日本』

猫の遠ぼえ『次の世代に残したい日本』

安倍晋三応援ブログです。
やっと明るい未来を語る政治家が総理大臣になりました。しかし、闘いはまだまだこれから。子や孫が希望を持てる国になることを願うおやじです。

人気ブログランキングに参加しています
応援をよろしくお願いします。

 
人気ブログランキングへ

副題に『「ジオ・エコノミクス」で日米の開戦動機を解明する』とあるように、日本が高橋是清による金本位制からの離脱や財政金融政策によりデフレ経済から脱却しながらも日米開戦に引き込まれていくあたりからが、この本のハイライトだ。

筆者は大東亜戦争が起きた要因としてコミンテルンの暗躍や政策的なミスなど具体的な事例を挙げているが、最大の要因は経済政策の間違いだと述べる。不況が続き国民生活が困窮すると危険な思想が支持を集めるようになり、日本では究極のポピュリスト総理近衛文麿が誕生したと。

同じように第一次大戦で敗れ巨額の賠償などで経済の混乱が続いたドイツではナチスが台頭したが、どちらも「民主的に」選ばれた政権だった。筆者は経済政策の失敗が国家を戦争に向かわせる大きな要因であることを、具体的な事例を挙げながら解説していく。

当時にも今でいうデフレ派とも言えそうな『金本位制絶対派』対『元祖・リフレ派』の論戦の話なども興味深いが、是清ファンとしては『金本位制』からの離脱(これもリフレ政策だが)とその後にわが国初めての『リフレ政策』の両方を実践したことにどうしても目が向く。

ただ、是清の財政金融政策は日本経済を建て直したがそれは結果的には遅すぎたわけで、長く続いた不況が育てた過激な思想は二.二六事件につながり是清の経済政策も終わってしまう。その後の大量の国債日銀直接引受けにより軍事費は急増し、日本は悪性インフレとなり国民は再び困窮する。

そうして、日本は日中戦争から日米開戦に向かっていった。筆者は、政府や軍部が犯してきた「あの時こうしていれば・・」と思わせるいくつかの失敗事例を交えながら、特に経済政策の失敗が日本全体を開戦に向かわせてゆく様子を分かりやすく見せてくれる。

日本が大東亜戦争に向かってしまう経緯については人により様々な見方があると思うが、経済政策の失敗により国民生活が困窮したことが最大の要因だとする説明には説得力を感じる。経済の安定が国家・国民の安寧の基礎であることを改めて感じた

また、この本の前半では「金本位制」とはどんなもので、それがどんな致命的な欠陥を持っているかを分かりやすく説明している。金の産出量が減少するとデフレになり、生産方式の革新で金の産出量が増えると改善し、交易が発達し、産業が発達するとまたデフレになると。

金融政策になじみのない人でも概念や必要性が理解できるようになっているし、ブログ主があまり知らない1980年代以降の世界の動きを豊富な具体例を交えて解説されている。ある程度の知識のある人でも、このような経済の観点で当時の世界と日本の動きを論じた著作は参考になるのではないか。

また、経済の観点からものを見るという点で印象に残ったのが、『「植民地」は「海外投資」である』と見出しのついた一節だ。
例えば次のような記述がある。( )はブログ主の補足。

 これ(植民地)を「投資」という観点から考えてみましょう。確かに、植民地は本国に利用され搾取されたという見方もありますが、これまで利用されていなかった人的資源を教育によって労働力に変えたり、捨ておかれた土地に設備をつくって生産基地に変えたりするのもまた事実です。安い賃金で働かせられ、土地を奪われたという見方は、「マルクス経済学」左翼側の一面的な見方であるとも言えます。


そして筆者は、朝鮮、台湾、満州への投資の事例を挙げ、「このビジネスモデルは『海外投資』と何が違うのでしょうか」と述べる。もちろん相手側がどう受け取るかという問題があるから、筆者の言うとおり一面的な見方はできない。とはいえ、植民地政策が『海外投資』という観点は強く印象に残った。

いまだに国家を名乗りながらも海外からの支援がなければ国民を養えない国は多く、それが世界の混乱を招く大きな要因となっている。そのような国や地域に単なる経済支援を続けてもいつまでたっても自立した国家にはならない。

昔はそういう地域が植民地という形である種の安定を維持し、場合によっては発展したケースもあった。今後はそれをWin-Winの関係で進めることが大切であり、その為には『植民』ではなくあくまで現地の人たちが主体の事業に対して人的、経済的な投資をしてゆくことが必要なのだろう。

著作とは直接関係のないそんなことも考えながら、興味深く読み終えた。この本は筆者独特のリズム感のある文章のおかげもあり読みやすいが、巻末には参考文献の一覧も示されているように中身は濃い。「経済」という視点で戦争を語るという、筆者ならではの試みは大成功だと思う。

金融政策も大東亜戦争の経緯についても理解があいまいなブログ主のような読者に是非お勧めしたい。

(以上)

人気ブログランキングに参加しています
応援をよろしくお願いします。

 
人気ブログランキングへ