人間の闇@トリニダード・トバゴ | New 天の邪鬼日記

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小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

2月25日(金)トリニダード・トバゴの首都ポート・オブ・スペイン
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ガイアナからベネズエラにむかうため、トリニダード・トバゴを経由した。
トリニダード・トバゴは第二のジャマイカと呼ばれるほど、ミュージシャンにとってあこがれの島だ。
首都であるポートオブスペインの空港に降り立ったはいいものの、
……じつはオレ、ビザもってないのよ。
クリスマスとニューイヤーをはさんでたし、ブラジルのビザで時間がかかってトリニダード・トバゴのビザはあきらめた。
英語とスペイン語を駆使していろいろ調べたんだけど、たとえトランジット(乗り継ぎ)でも入国するにはビザがいる。日本で取るにはイギリス大使館をとおして、一回パスポートをトリニダード・トバゴに送るので3週間くらい、6000円くらいかかったと思う。
飛行機は26日の午後4時に着いて、翌日の朝7時に出る。空港で一晩明かすか。
ダメモトでいちおう入国の列に並んでみる。
「日本のミュージシャンなんですけど」
オレはパスポートといっしょに「堂々とまちがえろ」のフライヤーを見せる。
黒人系おねえちゃんの審査官はそれをしげしげと見つめる。
「じつはビザもってなくて」
「あんたミュージシャンでしょ、せっかくカーニバルの期間中にきたんだから、見ていかないとだめよ!」
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「へっ? い、いいんですか!」
入国スタンプ、ポーン!
おおー、「堂々とまちがえろ」フライヤーはイギリス大使館より、3週間を、6000円を、いっきにすっとばすワールドワイド水戸黄門印籠だったのか!

いちおうオレは昨日トリニダード・トバゴのホテルを検索してみた。しかしもともと物価が高い上にカーニバル期間中で1.5倍くらいする。一番安くて1万5千円くらいからだ。
またもや英語とスペイン語で検索すると、「バックパッカーズ・プラネット」http://jp.backpackers-planet.com/というサイトが引っかかってきた。これはかなりコアな情報源で、世界中の安宿情報が集められている。
えっ、マジ? 「Bernie’s Home Hostal」1000円って、ウソでしょ!?
オレは空港のツーリストインフォメーションに、安い順から5件くらい書き出したリストを見せた。
「あっ、ここ、あいつがオーナーだよ」
インフォメーション係りは、空港のポーター(荷物運び)で働いている一人の男をを指差した。
なにがどうなっているんだか、わからないが、とりあえずその男に聞いてみる。
「おおー、おまえよく見つけたなあ。ここのオーナーのアンソニーだ。明日の朝の飛行機に間に合うようにすべて手配してやるからうちに泊まれ」
あれよあれよというまに、プロレスラーみたいな運転手のタクシーにのせられ、「Bernie’s Home Hostal」のあるダウンタウン(中心街)、セント・ジェームスへむかう。
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プロレスラー運転手は、町の全景が見渡せる絶景ポイントや、
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カーニバルのおこなわれる公園や、
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由緒ある教会や、
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街や、
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超モダンなシティーセンターを案内してくれる。
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もう先進国と並ぶ大都会じゃん、トリトバ!

いちおうアンソニーはタクシー代2000円(40分かかるので、これは正規料金)と言っていたが、あとで案内料とかいってボラれるんだろうな。外務省の危険情報でこの国は「まあまあ安全」と書いてあったし、英語も通じるからあとでケンカすればいいや。
ダウンタウンのセントジェームスはごちゃごちゃとした活気があって、ちょっと危ない臭いもする。
「ここだ」とプロレスラーは車を止める。
えっ、ここだって、ただの家じゃん。「Bernie’s Home Hostal」どころか、表札さえない。
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またさらに悪役レスラーみたいなリチャードという男が髭剃り途中の泡を顔中につけて迎えに出た。
ああ、プロレスラーたちにここへ連れ込まれて、拳銃をこめかみに押しつけられて、身ぐるみはがされんだろうな。
オレは旅するたびに危険な目に遭うのが通常状態なので、それが今かといつも心の準備をしている。
するとひとりめのプロレスラー運転手は正規料金を受け取ると笑顔で帰ってしまった。
ふたりめの悪役レスラーは1000円なのにドミトリーじゃなく一人部屋に案内してくれた。
えっ、いいのオレ、襲われなくて?
なんかせっかく役者がそろったのに、申し訳ない感じである。
そうか、ここでオレの人生や旅は終わらなくていいんだ!
熱もまだ下がらないのに、乾杯しようと、ビールを買いに出かけた。
わずか2ブロック(徒歩3分)にあるショッピングモールへいく。すげえ、なんでも売ってる本格的なモールじゃん!
カーニバルの巨人、竹馬に乗った少年たちが出迎えてくれる。
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モールの中にはいると、ライブで盛り上がってる。
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おおー、人生終わるどころか、なんてラッキーなんだオレ。てきとうに日にちを決めて移動してるのに、行く先々で幸運に当たる。
去年カナダですごい占い師に言われた「あんたにはまれにみる最強の守護霊軍団がついてるわ。神様もいっしょに遊んでくれているからなにがあってもだいじょうぶ」という言葉がよみがえる。
トリニダード・トバゴは、カリブ海のトリニダード島とトバゴ島からなる共和制国家である。イギリス連邦加盟国なので英語を話す。
ほらなんとなく名前は聞いたことがあるでしょ?
リンボーダンスやスティールパンで有名な国である。
リンボーダンスって走り高跳びの棒をしたからくぐるアレですよ。体を後ろにそらして、だんだん棒を低くしていくやつ。これもねえ、悲惨な歴史があって、英語の limberは体を柔軟にするって意味だが、奴隷船にぎっしりと詰め込まれた彼らは体の柔らかい者ほど生き延びたという。
この国は西インド諸島唯一の石油と天然ガスに恵まれた島であり、ドラム缶から作られたスティールパンは「20世最大のアコースティック楽器発明」と言われている。1992年の独立記念日には正式に「国民楽器」として認められた。
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音楽ではカリプソとソカが世界的に有名だ。
1920年代に成立したカリプソは、社会風刺や家庭のことを甘いメロディとゆるいリズムに乗せて歌いあげる。
ソカはジャマイカのスカと混同されがちだが、トリニダード・トバゴの発祥の現代ポップミュージックである。ソカは、インド音楽の要素を取り込み、ヒップホップと融合しながら新しいジャンルとして世界から注目されている。
代表的なミュージシャンとしては、アッティラ・ザ・フン、ロード・キチナー、エドムンド・ロスなどがいる。
首都ポートオブスペインで3月からおこなわれるカーニバルも有名で、ブラジルのリオのカーニバル、イタリアのヴェネツィアのカーニバルとともに世界の三大カーニバルに数えられている。
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大掛かりな衣装を身にまとった仮面舞踏会や、カリプソやソカ、スティールパンのコンテストもあり、日本からのツアーもあるという。
おもしろい風習は、デュベ(Jouvert)と呼ばれ、カーニバルマンデーの早朝から道や会場でチョコレートソースなどをかけあい、DJのソカミュージックにあわせて野外で踊ったあと、日の出ととも泥のかけあいがはじまるという。
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オーナーのアンソニーが空港の仕事を終え帰ってきたので、いろいろ質問した。
「オレはシャーマンおたくで、世界中のシャーマニズムを見てきてるんですけど、トリニダード・トバゴのカーニバルでも、いろんな扮装の者がでてきますね」
「ああ、おれが子供のころにはもっといっぱいたんだ。まあ年とともに人気がすたれてかなり減ってきたけど、Blue Devil(青い悪魔)、
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The MidnightRobber(真夜中の泥棒)、
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Pierrot Gnenad(鞭をもったピエロ)、
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Fancy Sailor(おしゃれな水夫)、
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Dame Lorrenne(黒人の貴婦人)とか、
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やつらがでてくると盛り上がるんだよ」
ここは重要なポイントだと思う。
カーニバル(祭)というのは、「非日常」空間である。
「日常」で抑圧されていたものが唯一解き放たれる大舞台だ。
「社会的動物」として生きている人類は、「日常」という表層の下で膨大な闇(非日常、無意識)を抱えている。それを毎年祭りという形で昇華させないと、フラストレーションで大爆発して自滅してしまう。
人間を突き動かす主役は、人類史2000万年間の歴史でつねに「闇」なのだ。
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アンソニーはさりげなく、おもしろい事件を言ってくれた。
「去年の11月に奇妙な事件が起こったよ。学校のランチタイムに女子生徒17人が頭痛と吐き気を訴え、床の上をゴロゴロと転がったり、床に体を打ちつけたり、手すりを越えて身を投げようとする。
生徒たちは力が異常に強くなり、拘束しようとした教師や生徒たちは顔などを蹴られ多くがアザを作った。
彼女たちは奇妙な言葉を発し、男子生徒が何がほしいんだと聞くと、命が欲しいと答えたんだ」
教師は、悪魔が乗り移ったと考え、救急車のほかにカトリック教会から数人の神父を呼び寄せた。神父は女子生徒たちに聖水を振りかけ、拘束を手伝った生徒らと共に祈りを捧げ、女子生徒らは病院に搬送された。
ある教師の1人は、「2週間前に地元の古代宗教信仰者と学校側にトラブルがあった」と言った。
オレはこの事件に興味をもっていろいろ調べた。
「古代宗教信仰者」とはシャーマンだろう。
シャーマンに呪いをかけられたのか?
たぶんそうだろう。
ショッピングモールや近代的なビルが立ち並ぶトリニダード・トバゴにも、ちゃんと「人間の闇」は生き残っている。
健康だ。
「人間の闇」が生き残れない社会、
……それは破滅への道だ。
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