エチオピアの洗礼 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

New 天の邪鬼日記-AKIRA_下野新聞10.1.11「COTTON100%」のインタビュー記事。下野新聞2010.1/11

4世紀(321年)以来、エチオピアは東アフリカで唯一のキリスト教国家である。
キリスト教の原型とされる「エチオピア正教」だ。
ノアの孫エチオピックの子孫であり、旧約聖書によれば預言者モーゼの妻はエチオピア人で、十戒を収め失われたアークもエチオピアのアクスムにあるといわれている。
それほど信仰心の篤い国ならば、まずは洗礼から受けなければならない。
夜中近くにウガンダからエチオピアの首都アディスアベバ(新しい花という意味)の空港に着いたオレは、タクシーではなく庶民たちの乗り合いミニバスで市内へむかった。
さまざまな場所で止まるたび、人は降り、乗りこんでくる。窓側に座っていたオレにストリートチルドレンのようなガキが走り寄ってきた。
「アイ、ヘイチュー!」(おまえを憎む!)
小さな唾のしぶきが蛇毒のごとく窓にはりついた。
猛烈な開発の進む東アフリカで工事を請け負っているのがほとんど中国系企業だ。たくさんの中国人がアフリカにきていて、その軋轢はある。道を歩いていても「チャイニーズ」と声をかけられ、ジャパニーズと呼ばれることはない。
いきなり通りすがりのガキに憎まれる筋合いはないのだが、憎悪の言葉はトゲのように心に突き刺さる。
第一の洗礼は、唾とともに浴びせられた「おまえを憎む!」という言葉だった。

安宿が集まるピアッサ地区は新宿の歌舞伎町みたいな繁華街だ。
カフェやバーをかねたゲストハウスというか娼婦宿というか、安ホテルは「ブンナペット」と呼ばれる。停電が久しぶりに回復し、明日から断食というので、どの店も大音響で音楽を流し、酔客でにぎわっている。
これだけ人がいればならかえって安全だろうと、夜中にバックパックを背負って宿探しをはじめた。
見るからにマリファナでラリっているチンピラがふたり声をかけてきた。
達者な英語で「エチオピアにようこそ、自由の国へよこそ」とあいさつされる。
「おれはたくさんの日本人の友達がいる」その中に「スズキ」という名前があがった。
「カメラマンでキックボクサーのスズキか?」
オレが聞くと、「もちろんそうだ、そうだ」と答える。
出発直前にダイ(鈴木洋見)から「おれの名前をつかって近づいてくるやつらには気をつけてください」と言われていた。
オレは何度も「ガイドはいらない」と断ったが、オレの行く先々についてくる。夜中過ぎだったせいもあり、目指していた安宿「タイトゥ」や「バロ」などどこも満室だった。しかたなくやつらが案内してくれた「セントジョージ」という宿にいく。これも薄汚い娼婦宿だ。こんなところなのに152ブル(1500円くらい)もとられた。
とにかく夜中に宿が見つかったので、お礼に100円くらいずつはやろうかと思っていたが、ふたりで150ブルを要求してきた。
ふざけるなとばかり、オレは英語で文句をまくしたてた。
「おれたちはこれが仕事なんだよ」
ひとりがポケットから小さなナイフをちょろっとのぞかせる。4畳半ほどの閉ざされた部屋にはオレたち3人しかいない。しかもやつらはドアのところに立っている。
騒ぐことも争うこともできたが、オレは黙って金を渡した。
第二の洗礼は「自由の国へよこそ」という脅迫だった。

翌朝宿のおばちゃんに聞くと、宿代は52ブルで、チンピラは上乗せして預かった100ブルをおばちゃんからひったくって逃げたという。
ジャマイカで警察に脅されてとられた20ドルと同じ約2000円をチンピラに巻き上げられたことになる。
昨晩はくやしくて眠れなかった。
30年以上も旅していてもなお、こんなチンピラの言うなりになった。このあともやつらは同じ被害者をつくっていくだろう。
ちなみにやつらのひとりは、間抜けにも電話番号まで書いてよこしたので、このあとエチオピアに来る旅行者のためにも書き写しておこう。

レマ・ケベデ 電話011-43-2652(20歳くらいのイケメンで物腰は柔らかい)

朝早く呪われた宿を出て、マルカート(市場)付近にいいホテルを見つけた。
「ASFA WOSSEN HOTEL」(シングル120ブル=約1000円)という商人宿である。
「地球の歩き方」にはマルカート付近はスリや泥棒が多い危険地帯だと書いてあるが、このホテルはセキュリティーもしっかりしているし、スタッフのみんながチョー親切だ。なによりすべての移動の中心となるバスターミナル「アウトブス・テラ」も歩いて5分という便利さだ。

去年ジャマイカを旅し、ラスタファリズムのコミューンなどをまわったが、原点はエチオピアである。彼らは黒人最初の皇帝、エチオピアのハイレ・セラシエ(旧名ラス・タファリ・マコーネン)をキリストの再来と崇める。
実際ハイレ・セラシエ皇帝は、エチオピアの近代化をはかり、侵略してきたイタリア軍を破り、ECA(国連アフリカ経済委員会)やEA(アフリカ連合)の本部をアディスアベバにおき、ライオンの石像を建てた。
まずは墓参りだ。
トリニティー・チャーチへはいり、聖職者にたのんで奥へ入れてもらう。ハイレ・セラシエ皇帝の棺は妻マナンの棺とともに美しいステンドグラスに守られていた。
祈りを捧げ、許可を得て写真を撮り、教会を出た。
エチオピアは人類発祥の地といわれる。
350万年前の二足歩行した原人「ルーシー」(=ディンキンシュ=「あなたは美しい」の意)、440万年前の人骨「ラミダス」(=根、ルーツ、祖先の意)もエチオピアで発見された。
国立博物館でその骨のレプリカが展示されている。
ラスタファリズムのルーツと人類のルーツを見学したあとミニバス乗り場へ歩いているときだった。
オレのまえを歩いていた男が本を落とした。
「あなたの本が落ちましたよ」とオレが声をかけた瞬間、うしろから来た男が軽くオレにぶつかった。前の男が振り向き、「サンキュー」と本を拾って歩き去った。
その数分後、街角の風景を撮ろうとしたらデジカメがない。
あのときだ。
燃えの男が本を落としてオレの気を引き、うしろからぶつかった男がウエストポーチからカメラを抜きとっていったのだ。
これが第三の洗礼だった。

エチオピアの第一印象は最悪だ。
なにが世界でもっとも信仰深い国だ。キリスト教が説く愛は「おまえを憎む!」という憎悪そのものなのか!?
「自由の国へようこそ」は、他者をだます「自由」なのか!?
おまえたちの祈りはカメラだけではなくオレの大切な思い出までも盗むことなのか!?
空港に着いてからまだ半日しかたってないに、いきなり三つもの洗礼を受けたオレはエチオピアを憎み、恐れ、呪った。
「それでもおまえはこの国とむきあう覚悟があるか?」
こんな声が聞こえた気がした。
進むか、引くかだ。
試されてるな。
エチオピアの深部へ、
自分自身の内側へと、
潜入していく、
オレの旅がはじまった。

※ライブ情報
New 天の邪鬼日記-星の家コンサート2010.3.13ポスター

3月13日(土) 17時開演。 「第13回青少年の自立を支える会コンサート」 

宇都宮市文化会館大ホール(収容2000名)  チケット1000円(全席自由) 3歳以下無料、託児コーナーあり
第一部:AKIRA (ボーカル&ギター)with 渡辺真理(ピアノ)
第二部:倉沢大樹(エレクトーン)、浅香薫子(ソプラノ)、島田絵里(フルート) 


出演者の方々の善意により、「無料出演」で開催されるチャリティーコンサートです。
この収益は全て、自立援助ホーム「星の家」の運営や、親や家庭からの支えを失った青少年の社会的自立を支援するために使われます。
お問い合わせ: 自立援助ホーム「星の家」 電話(028)666-6023 FAX (028)666-6024
住所:〒320-0037 宇都宮市清住1-3-48
HP: http://www2.ucatv.ne.jp/~sasaeru.snow/