6月14日(日)新潟市総合福祉会館 Mrピーン・オペラ「雲のうえはいつも晴れだから」
Photo by HATA
昨日はMRピーン&キョウコ夫妻の家でリハをおこなった。
リモコンで自動ドアが開くと段差のない部屋につづくバリアフリーのマンションだ。もちろん部屋は一階にあり、非常用出口のスロープがベランダからついている。トイレも4畳半くらいあり、身体障がい者用住宅としてちゃんとデザインされている。
大阪出身の谷口君がお好み焼きをつくり、宅配ピザをとり、オレとノリちゃんとママチャリ日本一周のハタとコンちゃんで楽しいときを過ごした。
オレはこっそりピーンのアルバムを見ていた。
おおー少年時代からかなりのアイドル顔じゃん。ビーチの風景、施設の学園祭、修学旅行など、たくさんの写真が残っている。おそらく父親が写したものだろう。その多さに愛情が感じられる。施設の記念写真は障がいをもった仲間たちがたくさん写っている。
障がい者施設なのだから記念写真の全員が障がい者なのは当然と言えば当然だが、
オレは「チョー、カッケー!」と思った。
まるでインディアンたちの写真のように、こんなにたくさんの「ブレーヴハート(魂の勇者)」たちが写っているんだぜ。
現在48歳になったブレーヴハート、Mrピーン。オレがプレゼントしたakiramaniaブランドのジャージを着たワル!!Photo by HATA
むっちゃ楽しかった新潟ツアーも今日で終わりだ。
新聞やラジオで宣伝してもらったこともあり、新潟市総合福祉会館にはたくさんの人が集まってくれた。
司会は「母が燃えていた」オペラをやったマチオだ。オペラではやつの演技力に驚いたが、こいつ司会もむっちゃうまいのね。
Mrピーンという芸名は、緊張すると足がピーンと伸びるところから脳性まひブラザーズのダイゴが命名したが、伸びまくってましたー。
「今日はMrピーンの自伝オペラにきてくださり、ありがとうございます。
Mrピーンこと武田康三がくぐってきた壮絶な人生を自らの言葉で語ってもらい、そこに僕の歌がかさなっていくというエンターテイメントです。
ボランティアの方々が要約筆記をして脚本がスクリーンに映し出されますが、わざと文字はちょっとおくれて映してもらいます。
Photo by HATA要約筆記の(怪しい!)みなさん。
なぜならMrピーンのしぼりだすような生の言葉を聴いてほしいからです。
ピーンは言語に障害を持っているので、健常者が何気なく話す一言も20倍以上の負荷がかかります。
ピーンはこの日のために脚本を読みこみ、まさにに血のにじむような発声練習を重ねてきました。
人に口がひとつ、耳がふたつあるのは、話すことより、聞くことのほうが2倍も重要だからです。
そしてピーンの魂が直接みなさんの魂に大切なことを伝えてくれるでしょう」
観客は鏡面になぎいた湖のように耳を澄まし、ピーンが全身でしぼりだす声を聞く。
「かぁちゃん、恐いよ!」
冬の日本海の荒波が僕たちを呑みこもうと冷たい手を伸ばしてきます。
父と母は毎日のようにけんかを繰り返していました。
僕と兄の障がい、貧しい生活、将来の不安などを苦にした母は、僕が5歳のとき死を決意します。母は僕を背中におぶって海岸へきました。
母は恐怖を振り払うように、海へむかって歩いていきます。足首から、ひざ、やがて腰までつかったときに、しぶきをかぶった僕が目覚めました。
「かぁちゃん 恐いよ!」と叫んだのです。
我にかえった母は、泣きながら浜に引き返していきました。
「かぁちゃん 恐いよ!」その一言がなかったら、僕は今ここにいませんでした。
Photo by HATA
1、 雲のうえはいつも晴れだから
2、 家族
3、 おさない瞳
4、 Gun But Tear
5、 独立記念日
6、 びっこのおかちゃん
7、 背中
8、 サンガイジュウネコラギ
9、 パズル
ノリちゃんのピアノが砂漠にしみこむ水のように、オレが吼える。
1曲目から会場はすすり泣きにつつまれ、ピーンの人生に共振していく。
観客のほとんどは健常者であり、幼いころから両親と別れ、施設で育つという生き方は想像できなかったはずだ。
オレたちはほんのちっちゃな困難でさえ落ちこんでしまう。
しかし重い障がいをもつピーンにとっては、運命のすべてが不可能への挑戦だったのだ。
どんなに困難な状況に追い込まれようともピーンはあきらめない。
あらゆる場面で障がいという壁が立ちふさがり、それらのひとつひとつを自らの力でのりこえていく。
ここにオレたちがピーンから学ぶ「命の力」がある。
それは根源的な「気づき」そのものだった。
観客は涙で自分の甘えを洗い流し、自ら封印してきた「命の力」を呼び覚ます。
後半は明るい笑いにつつまれた。ピーンの妻キョウコさんの車椅子をオレが押し、ステージにあがってもらう。
左端がキョウコさん。Photo by HATA
障がいをもっていようが、生きづらさをかかえていようが、すべてが思い通りにいかないが、
人が生きるというのはこういうことだ。
ピーンの生身がそこに存在していた。
ねじくれた肉体を透かして光り輝く魂そのものをオレたちは目撃したのだ。
オレたちもここにいた観客もこの体験を忘れることはないだろう。
このオペラを体験する前と後では何かが変わっているはずだ。
無様な日常に帰っても、みんなの奥底に眠る魂にふれた経験は、ゆっくりと時間をかけて、
「生かされて」いくことだろう。
スタッフの近藤りえさん、近藤竜也くん、桜井昌子さん、新保まり子さん、新保のぞみちゃん、古山薫さん、披田野直治さん、中沢智子さん、CJ、六華、ナベッティー、みっちー、要約筆記の酒井澄江さん、久代鏡子さん、吉田和子さん、青野孝子さん、本当にご苦労様でした。
新潟ツアー2009の長岡「笹森邸」、マチオオペラ、保育園ライブ、「はぐれ者の祭典」、青稜大学女子大生180人、子育て支援「ドリームハウス」、「喫茶TEN」AKIRA自伝オペラ、ピーンオペラを支えてくれた主催者とスタッフと出演者のみなさん、
心からありがとう。
10日間で8本のライブという激務に耐えてくれたオレの体よ、ありがとう。
なにより、それらのライブにきてくれた観客とも呼べないソウルメイト、ありがとう。
一度出会ってしまったが100万年目、もうきみは昨日までのきみじゃない。
「いいきみ」だ(笑)。
※ 新潟グルメ情報
伊勢丹にはいっているイタリアレストラン「ス・ミズーラ」はロンドンにもある名店だ。
おごってもらったのだが、ここのムール貝のワイン蒸しはもうたまらんね。オレがフィレンチェに住んでいたとき夕方路地から漂うあの「ボナペティート」(いただきます=いい食欲を!)の香りそのものだった。
Photo by HATA