みんなはオレがカリブのビーチで寝転がっていると思いきや、
じつはナイヤガラの寒風になぶられているのです。
キューバに行くにはカナダ経由がポピュラーだ。トロントでストップオーバーできるというので、30年ぶりのカナダによってみた。
先住民ヒューロン族の「トランテン(人の集まる場所)」とい言葉からきてるようにトロントはカナダ最大の都市であり、人口の半分が移民というオレ好みのサラダボウルである。
「プチNY」と呼ばれそうなほど、白人、黒人、中国人、留学生など、さまざまな人種が仲良く暮らしている。
カナダのおもしろいところはこういう「仲良し主義」なのよ。いろんな移民を受け入れちゃうし、社会主義国キューバとも仲良くしてるし、いじめっ子アメリカとの国境は世界最大の非武装ボーダーだしね。
オレと肩を並べる「超仲良し主義者」おがわとーるが留学していた国でもある。
さまざまな国の英語なまりを使い分けるとーるの仲良し英語はこの国でこそ身についたのだとつくづく感服いたした。
宿泊は超便利&激安な「Sweet Heart B&B」(72 Henry st)がおすすめである。
地下のシングル45ドル(3600円)
トロント大学の目の前の学生街だし、チャイナタウンも近いし、日本からメールで予約できる。
ただ全室禁煙なので、冬はマイナス10度の庭にでなければならない。
雪に埋もれたコーヒーカップと携帯灰皿
カナダはオレのようなスモーカーにもドリンカーにもきびしい。7&11などコンビニにもビールは売ってないし、国営の酒屋でさえ夜9時以降酒は買えないのだ。
ソフトクリームなんていらねーぞ!
トロントといえば、ナイヤガラである。
オレは19歳のときに訪れ、グランドキャニオンなみの感銘を受けたのをおぼえている。
ナイヤガラの観光ツアーは150ドルくらいするし、グレイハウンドバスも往復70ドルくらいする。そこで裏技がある。
「Safe way」というカジノ行きバスを利用するのだ。これだと往復25ドルでいける。
カジノへ行くふりをしてカレッジストリートの「デイズイン」ホテルかチャイナタウンから乗り込む。できるだけこぎれいな服装をし、バックパックやデイパックは持ち込み禁止である。
トロントからナイヤガラの「カジノ・リゾート」まで約1時間半で着く。そこでカジノ会員のカードを登録する。このカードを持っていると、次回からバスは無料だし、カジノのライブやダンスなどが無料で見られ、中華ビュッフェが15ドルで食べ放題である。
おおーこれぞ欲望のヘヴンですねー。
けっこう味も一流
腹ごしらえもすんだし、ギャンブルにはまったく興味がないので、滝を観にいく。
「ふむふむ、年間1500万人もの観光客が訪れる名所かあ」
カジノをでると外は猛吹雪である。
「あ、あのう、滝へはどう行くんですか」
除雪車のおっちゃんに道を聞いたが、パーカーを頭からかぶっているんでよく聞こえない。
「滝ですよ、タッキー!」つい大声になる。
「おまえはクレイジーか! こんな真冬に誰もいねえぞ!」
雪道をすべりながらくだっていくと、年間1500万人もの観光客が訪れる名所にはオレしかいなかった。
雪つぶてだか、凍った飛沫だかわからない氷の粒が顔面を打ちつづける。
いきなり中華ビュッフェのヘヴンから遭難直前の「北極物語」だあー。
オレは滝の欄干で突風に打たれ、凍死しそうになりながらも、目を閉じた。
1万2000年前の氷河が削り、先住民が「ニヤガル」(雷鳴滝)と呼んだこの滝は、高さ54m、幅670mもある「神の歌劇場」である。
この聖域を人間はカジノやレストランやホテルで取り囲んだが、神々の歌は静まらなかった。
爆音の声量に耳を澄ませば済ますほど、心まで澄んでくる。
ん、幻聴か?
高音ソプラノのような天使のささやきが聞こえてきた。
美しいメロディーにしばし酔っていると、鼻水がヒゲに凍りついているのに気づいた。
やばい!
このまま冬の精に惑わされ、氷の彫刻になるところだった。
いつかこの「ニヤガルの歌」にも歌詞がついて発表する日が来るかもしれない。
美しい娘よ近くへおいで~
近くへおいで~Near Girl~
ちくちょう、なんかの歌に似やがる!