聖なる狂気タイプーサム | New 天の邪鬼日記

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小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

0801tp1顔

世界にはへんてこな祭りがたくさんある。
オレは祭りのことなんか知らずに旅をするのだが、行く先々で変な祭りにぶちあたる。むしろ祭りのほうからオレによってくるのだ。「こんなおもしろい祭りがあるんだから、みんなに知らせてよ」とでもいうように。まあライブツアーも祭りを背負って歩いてるようなもんだから、類は友を呼ぶのだろう。
8日間もパンコール島の海にどっぷりと浸かってパラダイスぼけしたオレは、ふたたびクアラルンプールという俗世へ降りてきた。
クアラルンプールの13キロほど北にバトゥ洞窟というヒンドゥー教の聖地がある。そこで毎年おこなわれるのが「タイプーサム」という「痛い」祭りである。
「痛い」祭りといえば、タイ・プーケットの「ベジタリアン・フェスティバル」(写真1)が有名である。参加者はとがったステンレス棒でほほに直径3センチもある穴を開けられ、そこに自転車やらラジカセやら衛星アンテナやらそれぞれが好きなものを刺して行進する。
オレは数百年もつづくこの祭りではじめて参加を許された外国人である。数ある神様のなかからよりによって「斎界王(ベジタリアン・キング)」という称号をシャーマンに授けられ、馬用のぶっとい注射器を両ほほに刺して行進した。その模様は拙著「アジアントランス」(太田出版)にくわしく書いたが、痛さを通り越して笑ってしまうほど、聖と俗が入り乱れたすごい祭りだった。
プーケットといえばビーチしか浮かばないだろうが、毎年10月に行われるので、参加しろとまでは言わないが、一生に一度はぜひ観にいくべきウルトラ奇祭なのだ。
このタイプーサムも、ベジタリアン・フェスティバルにつぐ世界10大奇祭のひとつである。
本国インドでは、死人や怪我人が続出し、あまりに危険なので禁止されている。この日は町のいたるところから「バトゥ・ケイヴ、バトゥ・ケイヴ」と車掌が客引きをするバスが出ていて、片道わずか2,5リンギット、75円でいけるのだ。
バトゥ洞窟でバスを降りると、ものすごい人の波だった。ほとんどがインド系マレーシア人だが、あまりにもおもしろい祭りなので、マレー系や中国系、外国人観光客もたくさんいる。
サリー売りからジュース屋までさまざまな出店が並び、強い香がたかれ、そこらじゅうから太鼓やベルをならすインド音楽が聞こえてくる。
ううむ、わくわくしてきたぞ。得体の知れない野生の血が沸騰してくる。
0801tp2シヴァ

ヒンドウー教独特の色とりどりな神様の門をくぐると、黄金の巨大シバ神像のよこに、272段もの階段が洞窟へつづいている。入場は無料で、写真も自由に撮っていい。
うおー、なんだこの巨大神輿は!
0801tp3神輿

木やアルミで枠をつくった神輿は神の像が孔雀の羽で彩られ、聖者が肩と腰で担いでいる。高さは約3メートルもあり、重さは10キロを超えるという。彼らは家からこれを背負い、数日かけてやってくる。これで272段を登るのか!? 聖者たちはトランス状態にはいり、この巨大神輿を振り回し、音楽に合わせて踊っている。
0801tp4串刺し

しかもほほや舌に金属の串を刺し、背中にはロープや飾りをつけた鈎針が何本も引っ掛けられているではないの。
0801tp5背中

ひえー、痛い、痛い、そんなに引っ張ったら、肌がちぎれちゃうじゃん。見ているこっちまで口の中に血の味がひろがってきた。
0801tp6背中

野獣のような叫びにふりむくと、よつんばいになった男が暴れている。頭を地面に打ちつけたり、転げまわったりして、全身血だらけだ。従者である友人たちが彼をなだめようとするが、もはや言葉も通じないようだ。
0801tp7野獣

燃え盛る炎の鉢を持った聖者もいる。ただでさえ炎天下なのに、彼が横切っただけで熱の塊が襲ってくる。金属の器の下には木の葉を敷いているがとんでもない熱さのはずだ。
0801tp23炎

オレも聖者たちについて階段を登る。左右は上りと下りに分かれ、聖者たちは真ん中を登っていく。
0801tp階段

こんな急角度の階段を、重い神輿を担ぎ、トランス状態のやつらが落下しないか心配だ。途中おどり場が何箇所かあり、従者たちがイスを出して聖者を休ませる。
うわ、この神輿何十キロあるんだよ! 今日のなかでは最大級の神輿が登ってくる。孔雀の羽が森のように神輿をおおっている。
0801tp9神輿

乳壷をかかげた子供たちもいる。やはり背中には鈎針を刺し草の房を下げているのだ。こんな子供のうちから毎年針を刺していたら、背中がでこぼこになっちゃうじゃん。
0801tp10子供
赤ちゃんを祝福してもらうために夫婦も登ってくる。幼児や子供や男性は下にある野外床屋で頭を剃り、黄色いターメリック(うこん)を塗っている。ターメリックは消毒効果もあるというが、インドはどこまでもカレーなのね。
0801tp11夫婦

0801tp12床屋

上から巨大シヴァ神像をすかして見下ろすと、蟻のような群集がうごめいている。
ずっとタイプーサムの日は休日ではなかったが、今年はインド系の暴動などがあり、首相がインド系の機嫌を取るようにクアラルンプールではタイプーサムを休日にしたという。
0801tp13シヴァ

いよいよ頂上にたどり着く。垂れ下がる奇岩といい巨大な洞穴といい、なにか俗世とは切り離された磁場が漂っている。
0801tp14洞窟
中にはいってふりむけば、光の中からつぎつぎに登場する聖者が言い知れぬ尊厳をまとっているように見える。女神の子宮なのか、厳粛な気持ちにさせられる場所だ。
0801tp15洞窟

洞窟の中には驚くほど巨大なスペースがあり、人々はさまざまな祠に参拝していく。
0801tp17洞窟

黄色いビニール袋にはいったココナッツを職人に割ってもらい、バナナ、キンマ(びんろう)と線香を供える。
0801tp16供物

ここで聖者たちは長いトランスを解かれる。シャーマン(司祭)が彼らのひたいに指を当て呪文を唱える。すると今まで火事場のバカ力(普遍的無意識の潜在力)で支えていた体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
0801tp18トランス

野獣男は地面に突っ伏し、何日も食べていないので水しか出ないが、血の混じったゲロを吐いている。
0801tp19ゲロ

ひとりの聖者が暴れだす。トランスを解こうとするシャーマンを突き飛ばし、神輿を取り上げようとする従者を振り払い、壷からミルクを撒き散らして反抗する。
0801tp20狂う

まるでおびえた子供のような目をして、神様から人間にもどることを拒絶する。これはまったく演技などではない。彼の目は完全にいってしまっている。このままほうっておくと危険だ。通行人は彼を恐れ、大きな輪を描いて見つめている。彼が逃げ回るのでシャーマンもほとほと手を焼いていた。
そんな悶着が10分以上もつづいたとき、従者がなにかをもって彼の後ろから近づいた。
狂った男の耳元で、いきなり聞きなれた携帯電話の着信音が鳴る。
条件反射で彼は自分の携帯を引っつかんだ。
「ハロー」
その瞬間、トランスが解けた。
彼は携帯を握ったまま何が起こったかわからず、目をぱちくりさせて自分を取り囲む人の輪を見つめている。血や乳で濡れた手で何度も顔をぬぐい、自分から神輿やミルク壷をおろし、従順にシャーマンにひざまづいた。
この聖者たちも普段は普通の人で、それぞれの仕事や生活がある。そこを突いた従者の機知に思わずうなった。
さらに奥には頭上から光が指す場所があり、バトゥ洞窟の守り神である聖者アキラマニアン、じゃなくてスブラマニアンが祀られている。祠のなかでも外でも人々は祈りを捧げている。
0801tp21祈り

人の真剣に祈る姿には胸を打つものがある。
なにか偉大なる者、サムシング・グレートを畏れ、敬い、自分を明け渡す行為だ。神というのはアンテナ基地にすぎなく、人々の心にいる神々と自然界に宿る無数の命たちとつながるのだろう。
なんでこんな痛い思いや、重い思いや、苦しい思いをして、バカじゃないの?
と無宗教のオレたちは思ってしまうかもしれない。
たとえばリストカッターや自傷行為や自殺未遂をオレたちは敗北者の行為と教えられてきた。やってる本人も気づいていないが、彼らはタイプーサムの聖者と同じなのだ。
苦行は人類の黎明期からくりかえされてきた宗教的行為で、それらは現代のリストカッターや自傷行為に引き継がれている。いわば彼らは聖者の末裔だ。
ひとつだけちがうのは、彼らではなく、彼らをとりまく共同体のほうが崩壊してしまったということなのだ。同じ行為をしても彼らは聖者ではなく、敗北者と呼ばれる。
ちがう者同士が軽蔑ではなく敬いによってつながり、誰しもが持つ聖性をとりもどすために、気づかなくてはいけないのは、オレたちのほうなんだ。
神学者は言うだろう。「痛みや苦しみによって、われわれは神に近づく」と。
神経学者は言うだろう。「痛みや苦しみによってもアドレナリンやノルアドレナリン、エンドルフィンなどの脳内麻薬が分泌される」と。
たしかにこれも真実だが、この祭りが教えてくれるものはそれだけじゃない。
誰しもが心の中に無限の潜在力を秘めた「魂の泉」のようなものをもっていて、もしそこから力を汲み取れれば、あらゆる不可能が可能になる。
だからといって明日からあの聖者たちがワールドカップ代表や億万長者になれるわけではない。可能性とは現世レベルを超えた魂レベルの可能性である。たぶんそれはワールドカップ代表や億万長者になるよりももっと大切なことだろう。
オレはこう思う。

この世界をありのままに愛せるか?
この自分をありのままに愛せるか?

たったそれだけを学ぶために30億の意識がこの世に宿った。たったそれだけを学ぶためにわれわれは無様な日常を生きている。たったそれだけを学ぶためにオレは旅してる。
聖者たちは明日から、タクシードライバーとして観光客からぼったくったり、美味しいカレーをつくったり、イスラム娘との不倫に悩んだりするだろう。
それでいいのだ。
この愚かしくも美しい世界を、
自分自身を、
ありのままに、
あるがままに、
心から愛おしいと抱きしめれば。
0801tp22ハヌマン

※いよいよオレの旅もあと10日で終わる。
世界の豊かさというおみやげを胸いっぱいに抱えて帰っていくから、日光 幾何楽堂で会おう

「World Travel Session」
2月6日(水) 開場:19時00分。開演:19時30分
会場:日光 幾何楽堂(TEL 0288-50-1066)
出演:AKIRA(ボーカル) 。hajime(ピアノ)
料金:2500円
※予約メールはhajime_showroom@yahoo.co.jpまで
※メールの件名は「2月6日のLIVE予約」。本文には、お名前・人数・ご連絡先を明記ください。
幾何楽堂■http://www18.ocn.ne.jp/~kosaka3/
hajime's Show Room■http://hajime-key.web.infoseek.co.jp/