宮古養護学校の子供たち Foto by YOKO
12月1日(金)
FM宮古には2回目の出演だ。目の前には蝶のテーマパークがあり、日本最大の蝶オオゴマダラが飼育されている。「ピピルの魔法」は養護学校の子供たちが育てたオオゴマダラがモチーフになっている。
ディスクジョッキーは前回とちがう人だったが、家庭的な雰囲気のなか、落ち着いて話せた。
それにしても宮古島では、新聞やテレビやラジオとひっぱりだこである。町を歩いていても、ほとんどの店に蓮さんがデザインしたAKIRAポスターがはってあるので、見知らぬ人からリンゴをもらったり、「ライブがんばってください」と励まされたりする。
宮古島の人はそれほどオープンなのだ。ヨウコが市場で「天ぷらありますか?」とおばあに聞くと、「店では売ってないけど、つくってやるからうちへきなさい」と言う。これってすごいよね。いやあ「島んちゅ」(島の人)は本当にあたたかい人たちだ。
「沖縄と本土はどこがちがうの?」
よくこの質問をされるが、ひとことで言うと、
「壁がうすい」のである。
熱帯の豊かな気候と島の風土は、なにかを守るために壁をめぐらす必要がなかったんだろうな。
もう12月というのに晴天の日は25度くらいあるし、Tシャツ一枚ですごせる。夜だって、かけぶとんなしで眠れるんだぜ。
夜は、宮古島の無農薬農園で働くヒトシの家に招かれた。
本土から宮古島に惹かれて移住した若者たちもまたオープンハートである。都会のシステムからひっそりと身を引いて旅をしながら自分の心地いい居場所を探す。こんな素敵な連中が爆発的に増えている。とくにオレのまわりではそうだ。やつらは団塊の世代みたく団体で抗議するのではなく、ヒッピーみたいにコミューンをつくるのではなく、一人ひとりが自分の責任で行動する。ひとつの思想や主義の角砂糖にアリが群らがって、革命とかを叫ぶ時代は終わっているんだ。
立ち止まる勇気
ひとり立つ力
ずっと僕は待ってたよ(「alone」より)
こいつらを見てると、未来は明るいと思ってしまう。
島での飲料水問題は深刻である。水道には浄水器をつけたり、「パイ・ウオーター」と呼ばれるでかいペットボトル水を買ったりしている。島というのはひとつの閉鎖系小宇宙である。農薬は地下水や海に流れ込み、島で暮らす人々にも直接的なダメージを与える。ヒトシの働く農園のオーナー・泊(とまり)さんは、孤軍奮闘し無農薬野菜をつくりつづけている。はじめは島民たちの無理解に苦しんだが、ようやく人々の協力も得られ、少しずつ無農薬農業が認められつつある。
福島県出身のトモと横浜出身のすずが、むっちゃうまい野菜料理をつくってくれる。この家には2組のカップルが暮らしているが、すずのおばあちゃんはボリビア人、熊本出身であるシュウのおじいちゃんはチュニジア人だという。オレはチュニジアにいったことがあるので、「絶対ルーツ探しの旅にでろ」と熱弁しておいた。
バカな学者は「混血はアイデンディティー(存在証明)があいまいになる」などとぬかしているが、国籍によって決められるアイデンティティーなどクソくらえである。
オレはオレオレ共和国の王であり、
君はキミキミ共和国の王であり、
命だけが
この世で唯一のパスポートである。
12月2日(土)
「アネモネ」という精神世界系の雑誌から依頼があり、リアム・クレスナさんと対談した。
特集はアマゾンの幻覚植物「アヤワスカ」である。大ベストセラー「神々の指紋」を書いたグラハム・ハンコックが最新作でアヤワスカを大きく取り上げたことにより、アヤワスカは今世界的なブームである。オレはアマゾンの旅行記「アヤワスカ!」(講談社)を書いているし、ネットでアヤワスカを検索するとアキラマニアばっかでてくる。世界じゅうからメールはくるし、知らないうちに「アヤワスカの権威」になってしまった。
対談は宮古島北端にある池間島の、リゾートホテル「Neela」でおこなわれた。クレスナさんはもとビジュアル系ロックバンド「イーストリバー」のボーカルとして活躍していたミュージシャンだ。3年ほど前から宮古島に移住し、今は作家業とヒーリングミュージックを独自に制作している。さすがビジュアル系といわれるだけあって堂本剛真っ青のイケメンである。
むむむっ、オレと並ぶと、王子様と海賊じゃないか。
Foto by YOKO
おおっ、クレスナ様、カッコイイぞ、くやしいほどカッコイイぞ。一度は挫折したゲイへの情熱(「COTTON100%」参照)が再燃しかけたが、お互いにゲイでないことを確認して、対談がはじまった。
クレスナさんも何回かアヤワスカを体験しており、かなり深いビジョンに達している。王子と海賊は息投合し、ひとつの結論にいきついた。
「アヤワスカは心の扉を開く鍵にしかすぎない。
すべては君自身の内側に眠っている。
アヤワスカが教えてくれる世界は無限の深遠をもつため、
決して遊びや現実逃避につかってはいけない」ということだ。
宮古在住の画家マーくんが雑誌用の写真を撮り、楽しい対談は終った。
次回に見送りになった池間島ライブをとりもってくれたエミさんに会いにいった。
東京に住むエミさんは娘が池間島に嫁ぎ、毎月のように娘宅にきているという。海をながめられるベランダに座り、エミさんや池間島に8年住んでいるカメラマン芦川さんから池間島の話をうかがった。
沖縄のなかでも宮古島はもっとも古いシャーマニズムが残っているが、宮古群島のなかでも池間島は神の島と呼ばれもっとも敬われてきた最終聖地である。
池間島の中心はウハルズ御獄(うたき)である。この聖域には住民も儀式以外では入れない。ランディさんも知らずにここへ入り、あとから「あんた命とられるよ」と言われ、神んちゅ(神事にたずさわる人)を連れ御獄の神様にあやまりにいったという。
そう言われると、大きな鳥居の入り口からは強烈な霊気がただよってくるようでもある。オレたちは中に入らず、鳥居のまえで祈った。来年予定される池間島でのライブではなく、現在のヨウコの病気について祈った。未来のことなど誰もわからない。
宮古島の友人たちがいずれも絶賛するカレー屋「茶音間(ちゃのま)」へいく。(平良字狩俣4103-12 電話0980-72-5817)
若いオーナーであるゲンとジュンコがつくるカレーはインドカレーや洋風カレーとはまったくちがうオリジナルだ。オレがチキンカレー、ヨウコがベジタブルカレー、たまみちゃんがレンズ豆のカレーをたのむ。どれもこれも絶品である。
表現方法は、歌でも絵でもカレーでも笑顔でもいい。
一芸を極めることが大切なのだ。
12月3日(日)
いよいよ今日は宮古島最後の「イスラ」ライブである。
なんとONSENSのべーシスト・リュウがこのライブのために飛行機でやってくる。南静園と宮古養護学校が関係者のみのライブだったので、今日に期待するファンも多い。
オレも気合を入れ朝から歌いこむはずだった。「はずだった」というのは、ちがうことに気をとられていたのである。たまちゃんが何気なくラーメンズ・ネタで笑っていたとき、「セメントの犬」という言葉にインスピレーションを得、歌が浮かんできた。オレは歌が浮かぶと完成するまで止まらなくなってしまう。しかもサンシンでつくったはじめての歌である。
「セメントの犬」
セメントの犬だよ セメントの犬だよ
シーサー シーサー セメントの犬だよ
セメントは重いよ 手荷物はむりだよ
シーサー シーサー セメントの犬だよ
おみやげは軽いよ でもひとつじゃ売らないよ
シーサー シーサー セメントの犬だよ
コメントはやめてよ どうせセメントの犬だよ
シーサー シーサー シークァーサーはジュースだよ
ううむ、くだらない……思いっきりくだらないぞおー! しかし新曲ほどかわいいものはない。空港に到着したリュウにいきなり「セメントの犬」を電話で聞かせた。
「今日はぬちどぅ宝をやめて、セメントの犬でいく。いいな」
伊勢エビのために腹をすかせてきたというリュウとマホを連れ、老舗「のむら」へいく。(平良字西里309-1 電話0980-72-2630)
特製ソースとともに焼き上げられた特大伊勢エビは言語を絶する美味である。野人に帰ったリュウは殻までもバリバリとむさぼり食らった。
Foto by YOKO
夕方5時に「イスラ」にはいった。
カリブの海岸を思わせる椰子ぶきのバーカウンターや壁面いっぱいに描かれた絵がかっこいい。オーナーの永坂さんは7,8年前宮古島に移住し、ミュージシャンをやりながら今年小説「異物」を出版している。奥さんの千春さんはヨウコをマッサージしてくれた素敵なヒーラーである。
ぞくぞくと人がつめかけてくる。宮古養護学校の先生たちはもちろん給食や事務の職員さん、マコト&トモコ夫妻が抱えた1歳のカナちゃんは養護学校ライブと出演者打ち上げと今回の3連続皆勤賞だ。しかし1歳から90歳までのファン層をもつミュージシャンはそういなかろう。
小学校のマリコ先生、宮古の病院で看護婦を務めるエミちゃん、南静園のライブをDVDに焼いてもってきてくれた看護士さん、去年ライブをさせてもらった「TOMORI398」のエリちゃん、宿「ひららや」のオーナーと天音さん、おととい家に招いてくれたヒトシとトモ、東京からライブのためにやってきてくれたリエちゃん、波照間島でキビ刈りをするケイホ、その他テレビや新聞を見てきてくれた人もたくさんいた。
なによりうれしいのは、去年は観客のほとんどが移住者だったのに、今回はほとんどが宮古島の人たちということだ。オレの歌が地元の人たちに受け入れてもらえたと思うと感無量である。
会場の照明を落とし、闇に精霊の歌「イカロ」が響く。
1 アヤワスカ
2 Unconditional love 無条件の愛
3 心がくしゃみをした朝
4 だいじょうぶマイフレンド
5 リストカッター
6 青空のむこう
7 alone
前半はオレ一人で歌った。養護学校や南静園で歌えなかった曲を中心に大人向けの選曲をした。おのずとテーマは「愛」になる。しかしオレは「愛は地球を救う」なんて絶対に歌わない。オレのラブソングはみんなギリギリの痛みから生まれたものばかりだ。「心がくしゃみをした朝」で早くも泣きはじめる人もいる。
自分自身の痛みを正面から見つめ、陣痛を受け入れた先には必ず希望が待っている。「alone」では1歳のカナちゃんにメッセージを伝えた。
新しい子どもたちよ
僕らのあやまちをくりかえさないで
赤い血を流し 分かち合う魂
そっとキスがはじまる
天国に咲く花は
地獄に根をおろす
深い孤独を知る君の笑顔
やさしくぼくをつつむ
ここでスペシャルゲストの登場である。
イエイー、王子&海賊コンビの相棒クレスナさんだー。
観客は王子様の美貌に見とれている。オレが言っても説得力ないが、美しく生まれるというのも大変なことだと思うよ。しかしアイドル歌手とちがってクレスナさんのすごいところは、自己の内面を徹底的に追求していく謙虚な姿勢だ。
クレスナさんの美しいソプラノが会場を魅了する。声そのものが天の雨水となって魂を洗い清めるようなすばらしい歌だった。
「それでは、今日のライブのためだけに本土から飛行機でやってきてくれたONSENSのベーシスト・リュウでーす!」
あまりにも大きな拍手で迎えられ、リュウもびっくりしている。伊勢エビの殻で栄養をつけたせいかノリノリだ。リュウのベースにのせて朗読から後半ははじまる。
Foto by YOKO
8 「COTTON100%」朗読
9 Be yourself
10 ぼくの居場所
11 セメントの犬
12 ぬちどぅ宝
13 祈りの歌
14 なんくるないさ
15 Happy birthday(アンコール)
はっはっは、ついに「セメントの犬」をやってもうた。観客は「シーサー シーサー」のコーラスまで歌わされ、あまりのくだらなさに爆笑している。
しかもその直後に「ぬちどぅ宝」のコーラスまで歌ってくれたのには感動したなあ。宮古の人は心がでっかい。
「祈りの歌」で観客の感動が頂点に達する。歌が終わっても拍手さえできないほど自我を失うのだ。日常の意識が破壊され、忘れ去られていた聖性が揺さぶり起こされる。それほどこの歌には得体の知れない力がある。
呆然自失する観客を着地させるために宮古養護学校が生んだ人気者フクちゃん先生をステージへ呼ぶ。この人があらわれると場が明るくなるのよ。さあさあ、宮古の陽気さを爆発させよう。
「なんくるないさ」だあー!
フクちゃん先生の振り付けに合わせ全員が立ちあがり、カチャーシーを踊り狂う。なにも知らないリュウは「なぜアキラさんのオリジナル曲なのに、100年も歌われた古典民謡のような振り付けまであるんだ!」とベースを弾きながら驚愕していたという。
毎回奇跡、奇跡と言っていると信じてもらえないが、養護学校も南静園もイスラも、奇跡のようにすばらしい最高のライブだった。
オレのふるさとは日光で、第二のふるさとはニューヨークで、第三のふるさとは宮古島だあーと言うくらい愛してるぞ。
打ち上げは、イスラのとなりにある島おでん屋「たから」である。(平良字西里172 電話0980-72-0671)
いつか宮古島にくる人たちのためにもグルメ情報だけはしっかり伝えておかねばな。つーかヨウコに「アキラさんって歌っているとき以外は食べ物のことしか考えてない!」と指摘されている。
とにかく宮古島にきたら「たから屋」のテビチ(豚足)おでんだけははずしてはいけない。こんなにもとろける、こんなにもコラーゲンな、こんなにも天国にいちばん近いテビチはここにしか存在しないのだ。
12月4日(月)
宮古島最後の観光である。
リュウ、マホ、リエ、ヨウコで、地元民から「タコの概念が変わる」と絶賛される「すむばり」へいく。(平良字狩俣786-4 電話0980-72-5813)
ここでもまた池間島に娘が嫁いだエミさんに会う。ほんと最近シンクロ率が高いなあ。さっそくお勧めメニューを教わる。
「すむばり丼」はタコやモズクがたっぷりとのり、半熟卵がのった未体験ゾーンの味である。これは絶対食うべし。
「タコ丼」、「すむばりそば」もすばらしかったが、オレが感動したのは「スミ焼きそば」である。イカ墨かタコ墨かわからないが、真っ黒い焼きそばにやわらかいタコがからまっている。宮古名物に「いかすん汁」というイカ墨スープがあるが、個人的には「スミ焼きそば」のほうがはるかに衝撃的で、なおかつうまい。
前回ライブをやった「TOMORI398」のインギャー・ビーチにむかうはずが、道に迷って空港にきてしまった。ランディさんから言われてた言葉を突然思いだす。
「空港の近くにすごいヒーリングスポットがあるのよ」
空港の職員にマホちゃんが場所をたずねると、おじさんはおもむろに言った。
「説明するのもめんどくさいから、車で案内してやる」
うおおー、宮古のホスピタリティーの恐ろしさよ。おじさんの車についていくと小さな集落のはずれに「石庭」があった。今から数年前ほどまえ、新城定吉さんは神の啓示を受け、独力で地下に眠る珊瑚岩を掘りはじめた。掘った岩を積み重ね、「石庭」は造られる。
一度きたことがあるリエちゃんが白ひげのおじいちゃん新城さんに声をかけ、庭にはいる。
Foto by YOKO
身長ほどに積まれた奇岩がそこここにそそり立っている。なんとも不思議な造形美である。これらの岩に囲まれていると心がなごんでくる。もちろん岩自体がもつヒーリング効果もあるだろうが、オレは同じ芸術家として新城さんの無垢なパワーに感動してしまう。
何年にもわたり地下に眠る岩を掘りだし、積み上げるという、
「まったく無駄な行為」。
一銭の金になるではなく、社会的な生産価値があるわけではなく、むしろバカにされ、変人扱いされ、それでも新城さんは今も掘りつづけている。
石庭の中央にはストーンサークルのように囲まれた芝生がある。ここでは靴をぬがなければならないという注意を受けていたので裸足になる。リエちゃんの指示に従い、みんなで丸くなってヨウコの病気へ祈る。またしても怪しい宗教団体みたいだが、ほかに見学客もいないし、手をつないで祈る。
宮古島の磁場はすばらしい。いい感じにガンが風化していくイメージが浮かんだ。
12月5日(火)
早朝5時に起き、たまみちゃんの車で石垣島行きのフェリー乗り場にむかう。
ヨウコがCDなどのはいったバッグを忘れてきたのでたまみちゃんに取りにいってもらった。出航ギリギリでたまみちゃんが到着し、バッグを受け取ってすぐタラップがもちあがった。
まだ暗い空の下、デッキから手を振る。
ありがとうたまみちゃん、ありがとう養護学校のみんな、ありがとう南静園の人々、ありがとうイスラにきてくれたみんな、ありがとう宮古島の島んちゅ、ありがとう島の精霊たち、
来年もまたくるよ、第三のふるさとにもどってくるよ。