夢をあきらめない力 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 カズがロック・バー「sly」の絵を日光にとりにきた途中、足尾トンネルあたりで落石に乗り上げてしまった。
 雨の真夜中、カズは「死にはぐった」そうだ。
 車体の下がへこみ、スピードメーターが動かなくなり、それでもなんとかオレのうちにたどり着いた。
 車はなんとか走るが、このまま絵を積んでまた2時間のドライブは危険である。
 こういう小さな事故は「前兆」だと思う。つぎに待っているかも知れない大きなアクシデントから守ってくれる未来からの(またはオレの死んだ両親や猫たちからの)アドバイスだとオレは信じている。
「今日は無理しないで泊まっていったほうがいいんじゃない」
 明日修理屋で車を見てもらってから出発することにした。
 カズも「アキラさんとこんないい話ができるために事故ったんですね」と喜んでいた。
 カズは1年まえの前橋大蓮寺ライブにきた。そこでこないだあった江古田ライブのビデオを見せると涙目になって感動していた。
「この1年で ONSENSがこれほどまで成長するなんて誰も予想できませんでしたよ。今の自分に必要な言葉がビシビシ突き刺さってきます。ぼくもロックバーをやるくらいだからたくさんの音楽を聴いてきましたが、 ONSENSほど人を感動させられるバンドは今世界にいないんじゃないですか」
 うおー、うれぴー。もっと言って。
「今までアキラさんは歌詞ばかり注目していましたが、今日聴いてメロディーのすごさに気づきました。たとえメロディー単独でもこれほど美しい曲を書けるメロディーメーカーはいませんよ」
 うれぴくて、ぴくぴく、ホメ殺してー。そう言われると、もっともっといい曲をつくってやろうという気になる。
 オレの創作の原動力はみんなが喜んでくれる笑顔によって支えられてるなあ。

 翌朝修理屋さんに見せると、直すのに10万くらいかかるそうだ。変な音はするがオイルももれてないし、動くので、太田に向けて出発した。
 絵も積んでいるし、カズはかなり慎重に運転する。おかげで無事slyに到着した。
「この絵、マジすげー!! こんなかっこいい看板の店みたことないっすよー」
 カズの相棒、ミツも大喜びだ。
 おりしも強風の中、巨大な絵をかかえてすっ飛ばされそうになりながら、みごと完成となった。
0603sly02左からミツ&カズ
 夜6時くらいから彼らの同級生が集まってくる。同じ保育園や小中などをでた連中は、会社員をはじめ、ラブホテルのオーナー、美容師、バーテンダー、和太鼓奏者などさまざまな職業に就いている。
 リュウもガソリンスタンドの仕事を終えてから駆けつける。彼らは33歳で、3人の子供がいる人もきたし、リュウ以外はほとんど結婚している。
「リュウ、あせってる?」
 オレの横に座ってビールにバーボンのショットグラスを沈めて「ボイラー・メイカー」を飲んでいるリュウをつつく。
「まあこのように33歳にもなれば家庭をもつのが常識ですよ。でもアキラさんみたいのがとなりにいるから、まっいいかって感じ」
「まっいいかじゃなくてさ、やっぱり夢をあきらめないのが大切ですよとか、なんかこうホメ殺してよ」
 オーナーであるミツやカズのあいさつがはじまる。
「ぼくたちは小学校から音楽を聴き、中学校のときにロック・バーをやりたいって話し合ってたんです。そのあともいろんな仕事をしながら、ずっと夢を捨てられませんでした。そして今日、20年来の夢がここにかないました。みなさんのあたたかい励ましのおかけです。これからもよろしくお願いします。じゃあ、カンパーイ!!」
0603sly03
 写真を撮りながら涙ぐんでしまった。
 ミツ はふたりの子持ちだし、カズは最近結婚したばかりだ。
 「夢をあきらめない力」がきっと彼らを支えてくれるだろう。
※「sly」(スライ 群馬県太田市飯田町968-5ジオセンタービル2F204)

 ここまで書いていると、電話が鳴った。彦根病院のマキちゃんからだ。
 お見舞い以来1週間ぶりに元気な声を聞いた。
 少しずつ院内も散歩できるようになったし、ミクシの日記も書けるようになってきた。
 放射線治療を受ける決心もついたそうだ。
「病気になった悲しみよりも、病気をとおしていろいろな人とつながれたことの方がずっとうれしいです。みんなとつなげてくれてありがとう。ひとりひとりに返事は書けないので、みんなにも本当にありがとうって伝えておいてください!」
 こっちこそ、そうやってみんなを思ってくれるマキちゃんやヒカルさんにありがとうだよ。
 マキちゃんは同じ病棟に入院してるおばあちゃんから「あきらめたらあかんで」とくりかえし言われたという。

「あんたのためやないでー。こうして付き添ってくれている、あんたのご主人や、ご主人のお母さんやお父さんや、あんた自身のお父さんやお母さんの為に。がっかりさせたらあかんのやで。これからいっぱいお返しせんなあかんのやでー。」(ミクシ日記より抜粋)

 病気や死を受け入れる勇気と同じように、「夢をあきらめない力」が命を支える。