高知ライブレポート3 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 2日(日)
 日本を徒歩旅行中のアーティスト香川大介が四国でお世話になったヴィーテンさん&ウツサさんの先導で港柱神社に音楽奉納にいくはずだったが、待ち合わせ場所をまちがえる。
「たぶんそこってうどん屋のおじさんが教えてくれたストーンサークルのことじゃねえの?」オレが言う。
「そのストーンサークルは唐人駄場(とうじんだば)って言って、ルミコさんお勧めの竜宮神社の近くよ」ルミちゃんが言う。
 あとからヴィーテンさんに聞いたら港柱神社は会場のすぐ対岸だったのだが、このかんちがいのおかげですごいパワースポットにいくことができた。
 車で2時間ほど走ると見逃しそうに小さい「唐人駄場」の看板を見つけた。山の斜面に巨石がころがるストーンサークルは東京ドームの20倍もあるという。
 胸騒ぎを起こすように強力な磁場を感じる。
 しかしクライマックスはその先にあった。
 竜宮神社の矢印にそって森の階段を海にむかって降りていく。突然眼球が破裂したごとく青が視界に流れこんでくる。巨大な犀の角のように突きだした岩頭の頂に小さな赤い祠がある。叫びだしたいほどの郷愁に心臓が鷲づかみにされる。朦朧とする頭に言い聞かせながら危険な岩場をのぼっていった。角の頂点に立つと頭のなかの霧が一気に霧散していく。身の毛だつほどに青い大海原がうねり、沈みこみ、せりあがり、両手を広げたオレの胸の中に注ぎ込んでくる。えもいわれぬ快感に身をまかせると、七色に分光する安らぎがすうっと全身を包みこんだ。
 「海になる」のではなく、「海であった」ことに気づいた。
0510竜宮神社

 会場にもどってネアリカを貼る。この祭にきたたくさんの人々が初ネアリカに参加してくれる。
 昨日の夜は、リュウがスペインで会ったケイホが地球部分を暗くなるまでかかって完成させてくれたし、地元宿毛市出身のミズエちゃんは何回も貼りにきてくれた。となりでチャイとサモサを売っていたヨシさんは「風の子レラ」を読んでいるというし、本やホームページの読者もたくさん手伝ってくれる。ルミや規加やジュンイチやトシはすっかりネアリカの高知じゃない、コーチである。
 いよいよ完成直前というところで、ステージにネアリカをもってあがり、ヘンプ対談を終えた丸井英弘弁護士中山康直さん赤星栄志さん、司会のルミコさんに最後を貼ってもらう。
0510ネアリカ完成

 本当に素敵な祭だった。原宿クロコダイルで共演させてもらったサヨコオトナラ、ジャーKスケさん、バンガローでルームメイトだったダンシング義隆さん、ボン・シバ南さん、古くからの友人シモンがドラムを務めるJPCバンド、桑名晴子さん、どれもすばらしい演奏だった。
 主催者のキンドーさんからも「来年もまたよろしく」と言われたし、名前も覚えきれないほどたくさんの友だちができ、なによりも四国が、高知が大好きになった。

 3日(月)
 10時に出発したが、バンガローの鍵を返し忘れる。最初に預かったままポケットポーチに入れていたのである。Yがいきなりオレのケツを蹴り、みんなも蹴れと怒鳴る。
 いつものYとちがう。Yのようすがおかしいと全員が気づいていた。ユウスケの話では、一昨日の晩Yは「宇宙に連れてく」と5,6人を強制的に見晴台に連れていき、円陣に手をつながせ、「あんたらの腹が減っているから宇宙へ行けないんだ」と言ったらしい。いつものYなら笑い話ですみそうだが、みんなおびえていてYを笑える雰囲気ではなかったという。

 バンガローの鍵は郵送でOKになり、3時間半かかって高知市郊外にある盗賊スタジオにいく。これから3日間お世話になる盗賊さん(49歳)は西日本CMソング大賞を受賞したマルチミュージシャンであり、消防署の救急隊員でもある。死体やパニックに狂う人をたくさん見てきた。包容力のある笑顔を一目見ただけで、大きな人間的器を感じた。
 自分や仲間たちで建てたという畑のなかの巨大スタジオはいくら音を出しても苦情のこない最高の環境だ。ベースのリュウとパーカッションのリエが到着していた。
 オレたちは3時からFMラジオの収録にコズとむかおうとすると、Yもついてくるという。ちょっといやな予感がした。あんのじょう収録中に外で騒いでたYをアナウンサーに注意された。
 たまりかねたオレはひろめ市場にむかうアーケード街でYに注意した。
「なあY、いつものおまえらしくないぞ。本番前のミュージシャンは緊張してるから話しかけるなと言ったのはおまえ自身だろう。まして今回はタケちゃんが来られなくてみんないっぱいいっぱいなんだ。それをいつもサポートしてくれたおまえだろ。これ以上おかしな指示を強要したり、精神世界を語ったり、自分が自分がと騒がないでくれ」
 Yはしゅんと下をむいて「わかった」とうなづいた。
 その帰り道、Yがアーケード街で迷子になる。盗賊スタジオでは高知スタッフやONSENSチームが歓迎会の準備をしてくれている。「先にはじめてください」と電話したが、「主役なしではじめられない」と待っている。Yは携帯もつながらず30分以上たって泣きべそをかきながら歩いてきた。リュウもリエもコズもやさしいので、誰もとがめる者はいなかった。

 1時間ほど遅刻して盗賊スタジオに着くと、名古屋からミホ、メグ、タッキー、福岡からモトがきていた。ゆき爺の豪華なマクロビオティック料理がならべられる。本当に高知の人はもてなし魔神だとあらためて感動する。
 極上の料理を魚にしばし歓談を交わしたあと、オレとリュウとリエはレコーディングルームを借りてタケちゃんぬきの再編曲をした。すべての曲のギターをオレが弾き、シンプルにシンプルに再構築していかねばならない。タケちゃんの存在がどれだけ大きなものかを思い知った。タケちゃんのいない不安と、これからやらねばならない作業の膨大さを思うと、発狂しそうになるが、オレが崩れたらすべてが崩壊する。必死で平静を装ってできる限りのことをするしかない。

 そんなオレたちの心も知らず、もうひとつの狂気が進行していた。
 レコーディングルームにこもっていたオレたちは知らなかったが、高知スタッフとなごやかに音楽セッションや歓談を交わしている名古屋スタッフなどONSENSチーム7人をYはむりやり近くの公園に連れていき、「障害者トイレに入れ」と命令し、7人で手をつながせ、「Hallo my mam !」を合唱させたという。ユウスケがやっとトイレの外に出る許可を取りつけベンチに座ってリズムをとっていると、「ベンチをを叩くな」と叱られる。Yはなおも怪しい動きをしながら言う。「悪い者が近づいているのでバリアーを張る」と。ユウスケがヘンプギャザリングでもらったネックレスをとりあげ、勝手に捨ててしまう。ユウスケは捨てられた場所を確認していたが、勝手に拾うとまた叱られるので、「これ大切なものだから拾っていい?」と訊くと「いい」との許可が出た。「だったらなんで捨てるんだよ?」と言おうとしたが、Yの目が怖くて言えなかったという。
 やっとのことで帰宅の許可が出てみんなが盗賊スタジオに帰ってきた。
 深夜2時近く練習を終えたオレたちは高知のミュージシャンたちとさまざまな楽器をつかって楽しくセッションしていた。Yは仏壇にある鐘を大きくしたような直径20センチほどのチベタンベルを叩きはじめた。はじめはセッションの一部としてみんな受け入れていたが、Yは他人の音をかき消す大音量で叩きまくる。みんなが顔をしかめたので、オレはちがう楽器をYにもたせたが、「金属にのせると想いがとどきやすい」と言ってチベタンベルを叩きまくった。みんながひとりひとりYのまわりから離れていくのが無性に悲しかった。やさしくなだめる規加の顔を何度も平手打ちし、盗賊さんに説教し、オレの頭を思いっきりばちで強打する。それでも楽しくセッションをつづけようとする者たちのもとへ歩いていき、神聖なばちがボロボロになるまで叩きつづけた。
「Y、どうしたんだ? 自分が今やっていることがわからないのか」オレが訊く。
「あんたたちを悪霊から守っているんだよ。よけいな口出しするな」
 なごやかな歓迎会は一気に破壊され、みんながYから遠いところへ逃げこむ。いっこうに眠ろうとしないYを取り残しておくとなにをしでかすかわからない。心配したオレは明日のライブがひかえているのに朝6時までYに付き合わざるをえなかった。

 4日(火)
 いよいよ今日は本番だ。
 すべては今日のために練習を重ね、遠い高知まで旅してきた。ここですべてを燃焼しなければたくさんの人々の思いを裏切ることになる。
 寝不足で朦朧となった頭に、昨日あんなにいっしょうけんめい構築したタケちゃんぬきのアレンジがYの事件によって消し飛んでいた。
 もうだめだ。
 自分一人でもせいいっぱいなのに、さまざまな人の想いが肩にのしかかってくる。オレたちの歌を待ってくれる人の期待、Yのように助けを求めてくる悲鳴、人生最大の試練に立つタケちゃんの苦しみ、集中をかき乱されたメンバーたちの不安、オレのちっぽけな力では支えきれないよ。いつもいつもそうだった。悲しいサガなのか、オレの運命なのかわからないが、生きてれば生きてる分だけ他人の痛みまで抱えこんでしまう。だからいつもひとりで旅に出た。すべてのしがらみを断ち切るために。しかし絵であれ、文学であれ、音楽であれ、表現するということは、自分でのどもとに刃をつきつけているのといっしょだ。「天に吐いた唾は自分に落ちてくる」と歌ったはずだ。無数の声なき声がオレにやってきて「私の声を聞いて」、「僕の思いを伝えて」と迫る。「だからこのまま消えてしまいたい」というフレーズはリストカッターたちではなくオレ自身の叫びなんだ。創作という自傷行為をおまえはいったいいつまでつづけるのだ。見返りのない痛みをどこまで抱えつづける気か。血をふりしぼってまで歌いつづけるのか。

 午後1時、会場のBBカフェにいってセッティングをする。
 日光から撮影班のハイビジョン鈴木、ジャーP、うつ病から立ち直ったトシコがやってきた。ヤオさんをYが迎えにいくと言って聞かない。死にそうなほど煩雑なスケジュールをやりくりしているコズにどれだけ迷惑をかければ気がすむのだろう。Yとメイちゃんが迎えに行き、ヤオさんが到着する。ヤオさんの笑顔にどれだけ救われたことだろう。ひと月に25日もダチャンボのライブで全国を回っているヤオさんはたくさんの危機的状況をかいくぐってきた。自らもアルコール中毒で何度か死にかけている。ONSENSではバラバラなオレたちの個性を豪腕によってまとめあげ、一つの大きなうねりとして押し出す守護神的存在だ。
 コズが泣きそうな目で走りよってきた。握りしめた携帯電話が小さな手の中で震えている。
「タケちゃんがくるって!」
 オレは天にむかって咆哮し、一同から歓声があがる。
 ありえない、ありえない、これほどオレたちは一人の男を待っていたのだ。全員があきらめながらも、かすかな奇跡を心のどこかで信じていた。オレは号泣を噛み殺しながら壁を叩いた。スタッフやメンバーの目にも涙がにじんでいる。
「よっしゃ、昨日あんなに一生懸命やった新アレンジは……ぜんぶボツ。すべてをWith TAKEバージョンにもどすぞ!」
 音響の長瀧さん、照明のUJさんと慎重にリハをすすめるなか、タケちゃんは飛行機で高知へ到着した。
 Yがまたもやゴリ押しし、規加と空港へ迎えにいく。もともとこの車はタケちゃん号だ。Yが運転するといったが、目がいっちゃってるんで、タケちゃんが運転した。運転中のタケちゃんにいきなりYが拳をふるい、危険だったそうだ。
 あまりにもドラマチックな本番1時間目、BBカフェに救世主タケが降臨した。
 この瞬間をどれだけ待ちわびたことか。オレは狂喜乱舞しそうな喜びを押さえて言った。
「おかえり」
 さあー、これでONSENS全員がそろい踏みだ、矢でも鉄砲でももってきやがれ!