冷蔵庫が死んだ。
暑い夏も寒い冬もぼくの第二の胃袋として支えてきてくれた親友である。
2メートルもある長身で、体重もぼくの3倍はあるビッグママだ。
おふくろが生きているときからいたので推定年齢10~15歳くらいかな。
移り変わりの早い冷蔵族のなかでは長寿をまっとうしたほうだろう。
老体にむち打ち、
夜中にもうなり声をあげながら、
よく働いてくれた。
「冷たいやつ」なんて言ってゴメンね。
君の心臓であるモーターはいつでも暖かく脈打っていた。
半額シールばかり買い集める僕の食料を入れるときも、
腹へったーと開けるときも、
君はぼくをワクワクさせてくれた。
たとえホッケの開きが腐っていようと、
荘厳な装飾を施された教会よりもすばらしい、
ぼくの祭壇だった。
たとえ納豆にカビが生えていようと、
天使たちのコーラスが鳴り響く天国よりも愛しい、
ぼくのパラダイスだった。
5000円の処分代と領収書が君の天国への切符なのか。
君は産業廃棄物の山に捨てられるか、
強力な圧縮機によって粉砕される。
それは悲しいことかもしれないけど、
ぼくたちだっていつか焼き場の煙突から立ちのぼる煙になるんだ。
さよならぼくの冷蔵庫。
いつか形は消えていくけど、
思い出だけは残る。
さよならぼくの冷蔵庫。
ぼくの胃袋は君を忘れない。
ぼくもいつか消えていくけど、
想いだけは残る。
さよならぼくの冷蔵庫。
さよならぼくの冬。