映画『トトザヒーロー』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

ルサンチマンは身を亡ぼす

 

 

トト・ザ・ヒーロー

 

ドルマル作品を一言で云い表すならば"人生論"って所だろうか。やたらと詰め込み過ぎて説教臭い。ただ派手な演出を好んでするので商業市場でも好まれるのだろう。さり気なく金がかかる事をしてる割にカタルシスに結び付かない内容故か5年に一本程のペースで撮っていて作品数は多くない。この監督の作品に最初に触れたのは図書館でDVDを借りた『八日目』だった。ダウン症の少年の話だが本作でも「愉快な友達」という位置付けでダウン症の少年が出てきます。この物語の肝を一言で云うならば「隣の芝生は青い」って所です。この物語は主人公の晩年の老人ホームに始まり回想で赤ん坊の頃に戻る。どうやら火事で赤ん坊の取り違いが起きたのではないかと疑われていたので主人公は少し金持ちな隣人の少年に対し常にルサンチマンを抱いていた。だが傍から見ればどちらも大した事はない中流家庭に見えます。そもそも本当にルサンチマンを抱くべき相手は中流階級のベッドタウンになんか住んでいないのだから。

 

ただパイロットであった父は隣人の依頼でジャムを運搬中に嵐のドーバー海峡で命を失い、それを恨んだ姉は隣人の家に放火しようとして命を失った。ガソリンの威力って京アニ放火事件でも犯人が見誤っていた訳だが一般人が思う以上に爆発力があるので下手に使うとこの姉のように自爆テロになってしまいます。そんな訳で隣人に対する主人公の怨恨は更に激しく燃え上がる訳だが、この姉の死を誰よりも痛んでいたのは隣人の少年の方だった。この姉との出会いが彼にとって初恋だったのだろう。そして事ある毎に主人公の人生に現れては嫌味に聞こえるような事を云いながら友人関係を繋ごうとするが拒否られ続ける。このすれ違いが何とも切ない。この幼馴染は痛みを抱え続けて主人公と助け合いたかったのだろう。だが主人公の目には裕福な隣人が幸せ自慢をしてるように見えてしまった。そうではない。この隣人の人生もまた違う形で主人公と同じドン詰まりだったのだ。もし彼と助け合えていればと悔いても時間は戻らない。あまりに下らない感情で人生を無駄にしてしまった。この主人公も隣人も放火で命を失ったひとりの少女を忘れられず、その面影を求め彼女に似た女性に恋をして心の隙間を埋めていた。この二人は似た者同士であり唯一の理解者にだって成り得ただろう。そんな切なさを残すって意味でドンマルの出世作として評価が高いのも頷けます。