転売画商
ラスト・ディール
美術商と名前を失くした肖像
ウィラセタクンがカンボジア寄りのタイ人だとすればハロはロシア寄りのフィンランド人。前作『こころに剣士を』にしてもロシアと北欧の微妙な差をギミックにしています。この作品でも「この絵の細かいタッチはロシア人でなければ描けない」なんて理由で査定するシーンもあります。ロシア的センスのフィンランド映画人クラウスハロの新作。基本的には家族愛の面で、あからさまに泣かせに来てるのだけどお母さんの芝居が特に臭くて逆に笑えてしまいます。これが"金の切れ目が縁の切れ目"みたいな俗な確執だから笑えてしまったのかもしれない。ただ画商の駆け引きのドラマとしては最後までサスペンスフルで目が離せません。
バクチ的な最後の取引を描いてるからこのタイトル。お話は画商をやってる老紳士の元に職業研修として孫が転がり込む所から始まる。この孫は補導歴もある不良少年な訳だが、それは彼の転売の才能故でもあった。ここ最近は子供でも詳細があるとネット上で商品を転がして自分で小遣いを得てる人もいるようだが彼もその類。彼の犯罪は公共の商品を二束三文で買い付けて定価で転売した事。紛う事なき横領です。この手の公共財を横領する事を屁とも思わないネオリベがエスタブリッシュ層にまで増えている現代人らしいキャラです。ただ老紳士と不良少年は一見全く人種が違うように見えるが血が繋がってるだけあって本質的な所はソックリです。この二人は商人として山師の才能がある。つまりは確実に儲かると分かった所には分不相応な額を借金してでも投入してしまう勝負師の勇気があるのです。
この二人が目を付けたのは査定がザルな大手美術館が競売に出した聖像画。基本的に宗教画って奴は神様への謙遜で画家はサインを残さないが、そのタッチから画商はそれがロシアの有名画家レーピンの超レア絵画である事を見抜く。そして孫の学費の貯蓄を切り崩してまで購入。学費の使い込みを知った母は激おこぷんぷん丸になって父の元へ怒鳴り込む。その一方でレーピン作品の価値を知った大手美術館は絵画を取り戻すべく老紳士の顧客にデマを流し転売を妨害。学費が払えず金策に四苦八苦して家族の中はますます険悪になる。この母はシングルマザーで金の事で色々と泣かされて来た人物のようだ。それにしても芝居が臭過ぎ。その一方で絵画を巡る執着はミハルコフのデビュー作『戦いの終りの静かな一日』に通じるロシア的美徳を感じます。