「私は困ります」
あなたの名前を呼べたなら
インド映画だけあってカースト制度の国で身分を越えたラブロマンスって売り込み方がされてるけど、これって本当に恋愛感情なのかは微妙です。ロブライナーの『恋人たちの予感』では男が「あなたは寂しくて気が迷ってるだけ」という拒否られ方をしていたが、この主人公に関しても同じ事が云えます。いや、むしろそれが彼にとっては唯一の恋愛の動機なのかもしれない。どちらにせよ云わば片思いで召使側からすれば高カーストは同じ人間とすら思われていない。だから本作は「あなたの名前を呼べるまで」が描かれていて、ラストシーンでやっと同じ土俵(雇用関係の外)に立っただけであり大人同士の恋愛に発展するかは微妙です。
どうもこの主人公はゼネコン幹部の御曹司次男らしく海外で気ままに暮らしていたが家業を継いだ兄が若くして亡くなった事でボンベイに呼び戻されたようだ。そこで仲が良かった兄の死に失意に沈んでいる所を優しくしてくれた女性と恋に落ち婚約するが破局。再び失意に沈んだ所から物語は始まる。その一方で田舎生まれのヒロインは若くして結婚させられるが相手が急死して二十歳そこらで未亡人になり村から厄介払いされボンベイに上京してメイドをやっていた。ただ彼女にはアパレル系デザイナーになるという夢があり仕事の傍らに修業を積み夢に向かって邁進している。それだけに彼女が流す涙は別に男への恋愛感情って訳ではなく職業の上での階層社会の壁にぶち当たって理不尽と惨めさに泣いているという訳です。
そんな女性の立場や心情に対してこの旦那様は何とも無頓着でただただ落ち込んでいる時に近くにいてくれた相手に恋心を抱き「世間に何を云われても構わない」と自分勝手に口説きに来るものだから「私は困ります」と拒否られる訳だ。つまり男の側が無自覚に甘ったれ過ぎるので女性が困ってしまうケアレスマン現象の一端のような構図なのです。この女性は単にデザイナーとして自立したいだけで特に恋愛感情は抱いてません。ただ旦那様が酷く落ち込んているものだから励ます意味で身の上話をしただけ。むしろ「私の境遇に比べたらテメーは恵まれてんだぞ」位の意識があったのだろう。まあかく云う私も結構甘ったれだから大切な人を失った時に優しくしてくれた相手は例外なく天使に見えてしまう訳だが。ただ身分の問題以前に相手の気持ちや立場を考えて接しなければ逆に相手を苦しめます。もし相手の事が大切ならエンパシー位は働かせましょう。
