映画『鎌倉ものがたり』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

DESTINY 鎌倉ものがたり

 

 

赤い手

見落としていた山崎作品をついでに拝見。幽霊やら魔物が集まる鎌倉で暮らす小説家と若い妻の物語。歴史大作やアニメ実写化の合間にこんなほのぼの系も撮っていたのか。デビュー作『ジュブナイル』を思わせるちょっと不思議路線。最初は日常コメディ風に始まるが最後は黄泉の国を舞台にした大妖怪との大立ち回りで存分に白組CGを見せつけてくれます。まあシンプルに運命的な純愛の物語な訳だが、やはり甘口なだけでなく色々と脚本の方の甘さも目立ちます。とにかくご都合主義的に横恋慕の三枚目が設定された感じで「やり方は他にいくらでもあっただろうにと思えるような稚拙さ」そもそも命を奪ってしまうような強硬に出るなら相手の合意を得るように迫ったりはしないし逆にこれだけトリッキーに仕込めるならばヒロインの心を奪うやり方もいくらでもあります。くるくるあーれーな悪代官構図を「良いではないか良いではないか」と無理矢理挿れている感じ。その意味で正に子供騙し。

 

そもそも妖怪や死神や魔物という何でもアリな感じのファンタジーなので、それらの根底にある共通の常識が分からない状態でカルチャーギャップコメディをやってもTV的なパターナリズムとしてでしか伝わりません。それだけに大袈裟にリアクションされてもいまいち笑い処が掴めませんでした。ただ何となく心地良いだけの世界観を見せられただけって感じです。どうもこの世界のルールでは死んでも死神に幽霊申請を出せば大切な人の近くにいられるらしくて、それに使う生命エネルギーは身近な人から拝借できるので夫婦揃って旅立つ事が可能らしい。ヒロインである若妻は謎の赤い手に転ばされて肉体を奪われた事により幽霊化して夫の生命エネルギーを拝借しなければいけない事に負い目を感じて先に冥界へと旅立とうとする訳だが、これって生命エネルギーを消費し続ければより早く一緒に冥界に旅立てるから別に気に病む必要もない気がします。そもそも今作の世界観は死んだら無になるという現実とは違うのだから現世に拘る必要自体を感じません。その手の死生観からして土着的な常識を失っている現代日本人にはリアリズムが描けないからこそファンタジーの方が求められるのでしょう。その意味では心地良い娯楽になっている訳だが、この手の日本映画ばかり見ているとバカになるし百田などと組んだ歴史モノ路線もリアルな過去の現実ではなくファンタジーと認識しておいた方が良い。どの時代を描こうが登場人物に根がなければファンタジーなのです。