映画『死霊の罠』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

死霊の罠

 

 

鬱屈した都市伝説

日本のスプラッターホラーというと伊丹十三が黒沢清を抜擢した『スウィートホーム』が始まりとされるが、それより少し前に『ちぎれた愛の殺人』や『ハサミ男』で知られる池田氏が石井脚本でこんな作品も撮っています。ちなみに助平な私はロマンポルノで撮った『スケバンマフィア』をBOOKOFFのアウトレッドで100円で買ったのが池田作品との出会いでした。その一方で十代の頃、部活の合宿先で深夜放送を見ているとマニアックな映画として本作が紹介されたのを最近思い出して今更ながらに拝見しました。どうせエログロナンセンスのB級だろうとナメてた訳だが、これがなかなか見事に80年代の時代性を象徴していて明確に後の世代への影響を感じさせる所が意外に多いマスターピースでした。タイトルを見れば分かる通りサムライミの『死霊のいけにえ』を模倣した所もありつつヘネンロッターの『バスケットケース』等ハリウッドの様々な自主製作ホラーの要素を適度に反映しています。ただ内容自体は都市伝説的で猟奇的犯罪の背景に地下鉄サリンや宮崎勤や女子高生コンクリート詰め殺人や新宿西口バス放火事件に至るような都市構造で歪化したバブル末期の享楽的な時代の空気感を感じさせられます。

 

"スナッフ"という撮影目的で拷問殺人を行っているビデオがあると話題になり『ギニーピッグ』なる偽スナッフが市場に出回った時期。戦争を知らない世代がマジョリティになり悲惨な体験と悲劇の共有に飢えていたのでしょう。この映画は個人撮影ビデオ紹介番組スタッフの所へスナッフが送られて来て指定された場所に調査に行ったスタッフが地図にない軍事基地で次々に惨殺される。この取材陣が当時としては珍しい女性中心チームで、いわゆる肩パット厚化粧ボディコン系の絵に描いたような封建男社会への抵抗勢な感じがあって尚更に鬱屈した時代性を際立たせます。そして描かれる世界観や映像手法自体は後の飯田譲治の『らせん』『ドラゴンヘッド』『ナイトヘッド』を思わせる平成初期に流行った手法を先駆けて取り入れてる感じでサイキックヴァイオレンスな感じの表現が今見てもイケてます。それこそ鈴木光司の"リング"原作に描かれた都市伝説感や下山天、及川中、清水清から初期の瀬々敬久から原田眞人や高橋判明のようなベテランに至るまで90年代後半のJホラー畑カルチャーに好んで使われた手法が先駆けて散りばめられています。それこそ黒沢清でも鶴田法男でもなく池田敏春こそが本当のJホラーの父と呼ばれるのに相応しい。ちなみにJホラーで活躍してる人材ってやたらSMポルノ畑経験者が多い気がします。